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山村空の日常

「空、一緒に帰ろう!」


 退屈な高校の授業終わり、俺こと山村空は親友の柴山日向に声をかけられた。

 日向は見た目は童顔だが誰にでも優しくて格好良く、男女問わず人気がある。

 どれほど格好いいかって聞かれれば、日向に笑顔を向けられただけで女性が顔を真っ赤にするぐらい格好いい容姿と迷わず答えるだろう。


 しかも日向がすごい所は格好いいだけではなく、運動や勉強も出来ることだ。

 あいつが所属しているサッカー部では1年生ながらエースと呼ばれていた。その上中間や期末考査でも学年5位以内に入る頭脳を持つ完璧超人。

 中学からこいつと一緒にいる俺にとっては、目の上のたんこぶのような存在だった。


 そんな何でも出来る完璧超人の日向についたあだ名が学園の王子様。

 王様ではなく、王子様って所がいかに日向がいい男か物語っている。



「別にいいけど、部活はどうしたんだよ?」


「今日は休みだよ。テスト期間だから」


「テスト期間か」



 日向のせいで嫌なことを思い出してしまった。

 そういえば帰りのホームルームで、担任がそんなこと言ってたな。来週からテスト期間だって。



「何で空はそんな嫌そうな顔をしてるの? もしかして、僕と帰りたくなかった?」


「そうだな。お前がテスト期間の話をしたせいで、余計にそう思った」



 おかげでいつも机の引き出しに入れっぱなしに教科書を持って帰らないといけない。そうしないと勉強が出来ないから。

 渋々机の中の教科書を鞄につめ、大きくため息をついた。



「それは僕のせいじゃないよね!? むしろテストが近いことを教えてあげたんだから感謝してよ」


「はいはい、わかったわかった。日向にはいつも感謝してるから」


「ぞんざい過ぎる。 空はもう少し僕のことを丁重に扱うべきだよ」


 日向がプンスカと怒った後、悲しそうな顔をした。


「ごめんごめん、俺が全体的に悪かった。だからそんな顔するなって」



 日向が悲しんでいる顔をすると、俺がクラス中から悪人扱いされてしまう。

 ただでさえ目つきが悪く不良と誤解されるのに、これ以上変な噂を流されると非常に困る。



「一緒に帰ってくれる?」


「もちろん。ぜひ一緒に帰らせてくれ」



 日向の笑顔を見て、俺はほっと胸をなでおろす。

 ここまでのことを計算なしにするから、こいつはあなどれないんだよな。



「うんうん、空が素直になって僕はうれしいよ」


「別に素直になったつもりはないんだけどな」



 現実逃避の一貫として日向から視線をはずすと、クラスの隅で話している3人の女性が目に入る。

 その中の1人三村悠里を見て、俺は日向への仕返しを思いついた。



「なぁ、日向? せっかくだから三村も誘おうぜ」


「無理無理無理無理。悠里ちゃんのことだから、きっと予定が入ってるよ」



 全力で無理だと否定する日向。

 それもそのはず、三村悠里はクラスどころか学年でも1、2を争う美少女なのである。

 長い髪に切れ長いまつげ、モデルをやっていてもおかしくはない美貌。

 スラットした長い足と女性にしては背が高いその身長から、学年問わず人気が高い。

 そんな女子を誘う計画をしているんだから、日向がしり込みするのもわかる。


 だが三村は俺達、特に日向とは親友と言ってもいい仲だ。

 日向とだったら会話もするし、お昼ご飯だって一緒に食べる。なんなら今日の昼、俺と日向は三村達と一緒にお昼を食べていた。

 その際日向は三村と楽しそうに話していた。俺のことなんてそっちのけで。

 俺だけならすげなく断られると思うが、日向がいるんだから断られるはずがない。



「そんなの誘ってみないとわからないだろ? ほら、行くぞ」


「待ってよ、空。まだ心の準備が出来ていないから」



 日向の手を無理矢理取り、俺と日向は三村達女子がいる所へと向かう。

 三村も気づいたのか、俺の方に視線を向ける。

 俺が近づくにつれて三村は不機嫌な顔をするが、後ろにいた日向の姿を見て驚いた表情になり、やがて頬を赤く染めるのだった。



「よう、三村。元気か?」


「元気にしてたも何も、お昼は貴方達と一緒にいたはずだけど?」



 俺の方を見て不機嫌そうに話す三村。その目はまるでゴミをみているようだ。



「そうだったっけ?」


「そうよ。全く、貴方の知能は鈴虫並ね」


「鈴虫っていうな。俺の脳みそがないみたいに思われるだろ」



 失礼な。俺の脳はそんなに小さくないぞ。



「はいはい。それで、貴方達の用件は何?」


「俺の発言は無視!?」



 俺の言葉を聞いた後、三村はその場でため息をつく。まるで面倒くさい人に絡まれたと言う風に。

 その行動はさっさと用件を言えといっているようだった。



「本題に移る。俺達これから帰るんだけど、三村も一緒に帰らない?」


「そう。それが山村君のお願いなら悪いけど、また今度に‥‥‥‥」


「もちろん俺1人じゃない。こいつも一緒だ」



 ここで手を引っ張っていた日向を三村達の前に出した。

 それを見て、目の色を変えたのは三村と一緒にいた2人の女子。

 三村以外の2人はあからさまに興奮しているように見えた。



「悠里、悠里、行ってきなよ。チャンスだよ」


「柄の悪いヤクザは私達で止めとくからさ。2人で帰りな」


「悪いけど、お前等の話全部きこえてるからな」



 三村と話していたポニーテールとショートカット2人の女子が、ビクッと体を震わす。

 何? 俺ってそんなに怖い? ヤクザに見えるの?

 鋼のメンタルを持つ俺でもさすがにへこむぜ。そんなこと言われると。



「2人共、そんなに怖がらなくても大丈夫よ。山村君は見た目は怖くても、中身はたんなるヘタレだから」


「ヘタレいうな。俺ってそんなに頼りないの?」


「そうね」


「即答!?」



 そんなはっきり言われるとさっきと違う意味でへこんじゃうよ。

 三村の毒舌はとどまることを知らない。



「ごめんね、山村君。間違えたわ」


「だよな。俺はお前のことを信じてたぞ」


「顔は極悪人で中身はヘタレ。山村君はいわば、ヘタレヤンキーといったところかしら」


「さっきと全く変わってない!?」



 一通り毒を吐いて満足したのか、三村はクスリ笑う。

 いつも思うが、相変わらず三村は人を罵倒している時が1番楽しそうだ。

 特に俺のことを罵倒している時が。



「俺がヘタレヤンキーでも何でもいい。ほら、日向も三村に言ってやれ」


「僕?」


「そうだよ。お前がさっきから黙っててどうするんだよ? 1番三村と帰りたいくせに」


「それは空が一方的に‥‥‥‥」


「うだうだいうな。早く言え」



 日向を三村の前に出すと日向は一瞬目をそらしたが、三村に向き直った。

 やっと覚悟が決まったみたいだな。

 


「悠里ちゃん」


「はい」


「突然で申し訳ないけど、僕と一緒に帰りませんか?」


「‥‥‥お願いします」



 そう言うと、側にいた女子2人が声をあげて喜んでいた。

 特にポニーテール姿の女子は大盛り上がりで、2人のことをはやし立てている。



「やったじゃん! おめでとう、悠里」


「末永く幸せでね」



 待て待てお前等、何か勘違いをしていないか? これは告白したんじゃないんだぞ。

 ただ一緒に帰るってだけだし、しかも俺付きで。絶対に妙な勘違いしてる。



「じゃあ一緒に帰ろうか」


「うん」


「ちょっと待て、2人共。俺を忘れるな」


「「あっ」」



 2人揃ってはもるところに寂しさを感じる。

 三村と日向が2人で出て行こうとした所で声をかけた。2人の世界に入っていて、どうやら完全に俺のことなんて忘れていたみたいだ。さっきまで俺がずっと話していたのに。



「貴方のこと、眼中に無かったわ」


「ごめんね、空」



 どうせ俺は蚊帳の外ですよ。2人の眼中にも入ってません

 それに三村さん、眼中って言うのやめよう。さっきまで僕達会話してましたよね?



「どんまい、ヘタレヤンキー君」


「そうだよ。君にもその内、きっといいことがあるって」


「うるさい!! その慰めが余計だよ」



 俺の絶叫と共に女子2人だけでなく、日向と三村の奴まで笑い始めた。

 お前等まで笑わなくていいだろ。むしろこんな雰囲気をかもし出した責任を取れ。責任を。



「全く。しょうがないから、特別に山村君も私達と一緒に帰りましょうか」


「最初からそう言え。ってかそもそも論として、誘ったのは俺だからな。お前達忘れてると思うけど」


「そうね。じゃあ早速私と日向君の鞄を持ちなさい」


「持たないからな。俺はお前達の執事でも従者でもないぞ」


「違うわよ。貴方は奴隷よ」


「もっと酷いわ!!」



 奴隷ってなんだよ。ここ中世ヨーロッパじゃなくて、現代だよね?



「空、ツッコむはその辺にして本当に帰るよ」


「何? これは俺が悪いの? 明らかに悪いの三村だよな?」



 どうやらもう誰も俺のことは相手にしてくれないようである。

 理不尽じゃない!? この扱い。



「じゃあね、悠里、柴山君」


「ヘタレヤンキー君も頑張ってね」


「ヘタレ言うな」



 こうして俺達は三村の友人2人に見送られ、教室を出たのだった。


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