女性店員編 2話 ためらい
なんでこんなにあの人のことが気になるのだろう。
Kスーパーのレジ業務を勤めさせてもらって約3年が経つが、お客さまのことを意識してしまったことは一度たりとも無いので、自分の気持ちに戸惑っている。
敷地、曜日や時間帯にもよるが、そもそもお客さまの殆どが主婦やお年寄り。
夫婦、カップル、子供連れを除き、独りで来店される若い男性客は極端に少ないので数回見かけると印象には残りやすいが、異性として意識することなんて考えられなかった。
思い起こせば以前、年齢が近そうな男性客から連絡先がメモされた手紙を受け取ったことが2度あった。
一度目はKスーパーに入社して約2年目、初めて見た男性客からで、レジの会計後の去り際に
「前から気になってました。迷惑でなければ連絡ください。×××@××.jp」
と書かれた手紙。
前から気になっていたと書いてあるということは、知らぬ間に気づかず遠くから見られ、好意を持たれていたと推測できる。
私は今年で32歳、手紙を受け取ったときは29歳で傍から見ればおばさん年齢の私なのに、見ず知らずの男性からの好意は嬉しい反面
警戒心と恐怖感もあった。
正直な気持ち、そのお客さまの見た目がタイプではなく、巷ではストーカー被害などの事件があるので、命は大切、自分の身を守るためにそのまま返事は出さずに放置した。
幸い、その男性客が来店することはニ度となかった。
二度目は前回から約半年後、3ヶ月くらい私のレジによく来てくれていた男性の常連客で、薄毛で小太り、眼鏡をかけた俗に言うオタク系でちょっと苦手なタイプではあったが
接客のプロという自覚があるので、決して嫌な表情を見せず普通のお客さまと同じように淡々と接客していた。
その男性客を悪い意味で意識し始めてから、遠くからチラチラ見られたり、タイミングを見計らって不自然なルートで私のレジに入ってきていたので、もしかしたら私に興味があるのかな?と薄々、自意識過剰かな。
予感は的中。数日後にレジ会計直後に連絡先が書かれた手紙を渡そうとしたので
「当店では、こういったものを受け取ることを禁止されています。」
と、頭を下げて低調に受け取りをお断りした。
だけどもしその男性客が自分の好みのタイプだったら、喜んで受け取っていたかもしれない。
禁止されていると言ったのは嘘、Kスーパーではそんな規則は無い。
結婚適齢期の私、学生時代からの友人のほとんどは結婚して幸せな家族生活を送っている。いや、本当に幸せかどうかは謎だが。
友人と久しぶりに会うと必ずと言っていいほど
「あなた、彼氏は作らないの?」
などの恋バナや惚気話で持ちきり。
思い起こせば学生時代に隣の席だった男子に一年間の片思い
人見知りの私には話しかけるなんて到底無理な話で彼から距離を縮めてくれるのを待つしか術がなかった。
結局その好きだった男子は他の可愛い子と恋人同士になって終了、思えば片思いの一年間、四六時中は彼のことばかり考えていた記憶がある。
きっと深層心理の中に深く刻まれてしまってるせいか、今でも彼が夢に出てくることがある。
それから10年以上経ち、その間、男性を本気で好きになったことはない。
友人に男性を紹介されたり、告白されてお付き合いさせていただいたことが数回あるが、人見知りの私にとって、相手から積極的にガツガツ来られてしまうと逃げたくなるのだ。
とは言え自分から連絡を入れてデートに誘ったりしない受け身なので、次第に連絡は途絶え長続きせず自然消滅。
だって形式上のお付き合いなわけで、恋人同士イコール両思いという公式は成り立たない。
私がお相手を好きになれないのだから仕方ないこと。
彼氏をつくらないの?以前に、好きなひと(男性)ができないのだ。
仮に好きなひと(男性)ができたとしても、その人が私のことを好きになってくれることなんて奇跡だし。
「好き」って感情は、自分の意志でコントロールできないもので、無理やり「私はこの男性が好きなのだ」と自分に言い聞かせたって無駄な努力。
恋愛感情って脳のどこかで突然スイッチが入って発動するものなのだから。
夕方5時30分、いつものように黙々とレジの業務をしながら、無意識に視線を入り口付近に向けてしまう癖がついてしまった。
店内を歩いている男性客の後ろ姿を発見すると凝視してしまう自分がいる。
お弁当とお茶の彼と出会ってから3日目、今日も来ないのかな。
それとも、もうニ度と来ないかもしれない。
ああ、なんでこんなに気になるのだろう。
待つ側の立場はつらい。
仕事を終え、Kスーパーの唐揚げ弁当を社員割引で買って帰宅した。
つづく。




