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スーパーのレジ打ちとお客さま  作者: 美々少年
19/20

男性客編  10話 運命のキーホルダー

夕方5時30分すぎ、彼女を目当てで来店されてると他の店員さんに悟られないように、今日は敢えて彼女のレジに入らず、彼女の姿を一度だけチラっと見てKスーパーを後にした。



駐輪場でポケットの中に手を入れると、バイクの鍵がない。


どうやらKスーパーの中で落としてしまったのだろう。



購入した唐揚げ弁当とペットボトルのお茶を原付バイクのシートの中にしまって、すぐさま店内に引き返した。





首を斜め下に向けて身の回りと足元を見つめながら、自分が歩いたルートを入念に調べるが、残念ながら鍵は見つからない。


もしかしたらKスーパーの店員さんか来店中のお客さんの誰かが拾って届けてくれてるかも知れない。



正直、人見知りの僕は、こういうシチュエーションが大の苦手なのだ。



特に人と話すことが苦手ではないのだが、忙しそうに働いている店員さんに余計な仕事を増やしてしまうことが申し訳ないと、変なところに気を使ってしまうのである。



店内は、いつもよりお客さんが少なく閑散とした様子で、稼動してないレジもちらほらあり、さっきまで真ん中あたりでレジ作業をしていた彼女の姿もない。



さて、こういう尋ねごとは何処に行けばいいのだろう?


取り敢えずサービスカウンターに向ったが、そこには誰もいなかった。



周辺をチラチラと見ながらサービスカウンターの前で立ち留まること約20秒間。



すると、小走りでエプロン姿の店員さんがやってきた。




僕の真正面に立っていた店員さんは、彼女だった。





心の準備ができておらず、あまりにも唐突だったので、彼女の姿を見た瞬間、心臓の鼓動が速くなり全身がガクガクと震えそうになるのを必死で堪えた。



彼女はキラキラと輝く瞳を見せ、首をちょっと傾げて僕が何か言いたそうなのを尋ねるような仕草を見せてくれた。




「あのー、鍵を無くしてしまったんですけど、届いてませんか?」




彼女が笑顔で目を合わせてくれた嬉しさで、一瞬で緊張がほぐれ、声は震えることなくしっかりと話すことができた。



「どのような鍵でしょうか?」



と、彼女が問いかけてきたので



「原付の鍵でエレキギターの形のキーホルダーです」


と、答えた。



「今から確認しますので少々お待ちくださいませ」


と、彼女は言い、ゴソゴソと忘れ物を保管してある箱に手を入れ探し始めた。



「どうもすみません、よろしくお願いします」



約1分後、彼女は白いメモ用紙とボールペンをカウンターの上に置き


「まだ届いていないようなので、お名前と電話番号をお伺いしてもよろしいでしょうか?もし届いたら連絡いたしますので」





E本S弘 090 ××××-○○○○





「ありがとうございます。では近くでお待ちいただけますか?店内でも構いませんよ」


と、言ったので


「では僕、駐輪場で待ってますね」


と言い出口に向った。




さっきの彼女が見せてくれた笑顔は作り笑顔なんかではなく、明らかに心からの笑顔だと判った。


一目瞭然で。





駐輪場で待つこと約10分、Kスーパーの入り口からエプロン姿の店員さんが僕の方へ向ってきた。



全体像が3センチほどの大きさにしか見えないが、一瞬で彼女だと認識できた。




薄暗く誰もいない駐輪場で僕と彼女は約50センチの至近距離で、お互いに足のつま先から頭まで真正面で向かい合っていた。


彼女の右手にぶらさがって見えるのはエレキギターのキーホルダーだった。



彼女は優しい表情、優しい口調で


「お客さま、お電話するのは失礼だと思い直接持ってきました。これですよね?」



バイクの鍵を僕の手に差し伸べてきたので、僕も手を出し鍵を受け取った。




その時彼女のしなやかで柔らかい指先が僕の手に触れてドキドキしてしまった。




僕は頭を下げながら


「本当に助かりました。お忙しいところごめんなさい」


と、言うと。



「いえいえこちらこそお待たせしてすみません。それと、さっきのお名前の紙、個人情報なのでお返ししますね」


と、彼女も軽く頭を下げ、白い紙を僕に渡そうとした。






Kスーパーで初めて彼女を見て一目惚れした約2年前のあの日から今日まで、何の変化も進展もなく淡々と過ぎた日々、ずっときっかけを待っていた。



ここで白い紙を受け取ってしまったら、僕たちふたりは、スーパーの店員さんとただのお客という壁を乗り越えられず平行線のまま振り出しに戻ってしまう。



今が極めて大事な局面ではないのか?





緊張して顎の筋肉が硬直し言葉が出にくくなったが、自分自身にムチを打って必死に声を発した。





「そ、その紙、店員さんにあげます」




彼女は目を大きく見開き驚いたような表情で



「え?」


と、聞き返した。




「個人的にです。もし迷惑でしたらゴミ箱に捨てちゃってください!」




とうとう言ってしまった。


遠回しな言い方ではあるが、これは彼女とプライベートで仲良くなりたいという意思表示。




彼女は天使のような笑顔を見せながら



「あ、はい!大切にします。捨てるなんてとんでもないです!」




と、言いエプロンのポケットに僕の名前と電話番号が書かれた白い紙をしまって、僕に軽く会釈したあと、くるりと背中を向け小走りにKスーパーの店内に向って行った。





チャンスやきっかけは、いつどこで訪れるか予想もできない、鍵を落としたこと、彼女がサービスカウンターに来てくれたこと、何気ないことで歯車が噛み合い運命が交差するのだ。





結果はともあれ、それとなく彼女に好意を伝えることはできた。




いきなりだったので彼女を怖がらせてしまったかも知れないが後悔はしてない、むしろ彼女に白い紙を渡さなかったら本気で後悔していたはずなのだから。



男性客編

おわり。


男性客編を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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