08話 剣の誓い、そして
広場に着くと、マガツスコーピオンが暴れまわっていた。
リースが早めに避難を呼びかけたおかげか、周りには人がいない。
有能すぎる。
「おい!
紫野郎!」
「ガバっ!?」
マガツスコーピオンは俺に気がつくと、すぐに剣を召喚した。
首を鳴らしながら剣を構え、こちらへ向かってくる。
「変身!」
戦士に変身し、駆ける。
同時に、持ってきていた騎士の剣を構えた。
「おりゃあっ!
「ガバアッ!」
剣と剣が激しくぶつかり、鋭い金属音が鳴り響く。
剣は何度もぶつかり、その度火花が散った。
やがて鍔競り合いの状態になると、マガツスコーピオンは飛び退き、距離をとる。
「どうだ!
俺だって剣の1つや2つくらい――」
突然、マガツスコーピオンが身を低くした。
首の付根から細長い尻尾のようなものが生えてきたかと思うと、その尻尾から連続で棘のようなものを発射!
「おい!
それは聞いてないぞ!」
最初は剣で弾いていたが、やがて弾けなくなり、棘が連続で直撃。
吹き飛ばされ、地面を転がった。
「いてぇ……!
嘘だろおい!」
ゆっくり立ち上がり、剣を構える。
しかし、その瞬間にはすでに敵が目の前にいた。
マガツスコーピオンは剣を振り下ろす。
なんとかこちらも剣を振り上げ、攻撃を防ぐが、ヤツの連続攻撃の前に防戦一方になってしまった。
「くそ……どうしたら……!」
その時、リースの言った言葉が脳裏に浮かぶ。
『心を研ぎ澄ませ。
そうすれば、攻める場所がわかる』
「よし……!
やってみるか!」
俺は攻撃を防ぎながら、心を集中させた。
激しく剣と剣がぶつかり合い、火花が散る。
やがて攻撃がスローモーションのように見えてきたかと思うと、敵の攻撃が一瞬なくなるタイミンがわかってきた。
「ここだ!」
剣を振る。
瞬間、敵の剣は弾けとび、同時にマガツスコーピオンの胸部を斬り裂いた。
「ガバアアアッッ!?」
「よし!」
すると、突然剣が光を放った。
形状が変化し、禍々しい竜を模したものになる。
「もしかして……覚醒したのか。
伝説の竜の戦士の力が」
黒く輝く剣は何も言わず、ただこちらを見つめていた。
視界に、黒竜剣の文字が見える。
「まぁいい!
このまま押し切る!」
黒竜剣を振るい、連続でマガツスコーピオンを斬りつける。
マガツスコーピオンは反撃できず、ただ一方的に攻撃されるのみ。
「これで終わりだ!」
黒竜剣を大きく振りかぶった瞬間。
突如後ろから強い衝撃が与えられた。
体勢を崩し、地面を転がるが、すぐに立て直す。
「なんだ、いきなり!」
顔を上げると、そこにはこの前仕留めそこねたマガツバットが。
俺を笑うかのように空中でホバリングしている。
「2対1か……!」
再び剣を構えるが、マガツスコーピオンの棘攻撃と、マガツバットの空中からの攻撃で何もできない。
このままではまた負けてしまう。
「駄目だ……このままじゃ、また!」
力が尽きかけ、膝をついたその時。
聞き覚えのある声が聞こえた。
「てやぁっ!!」
同時、斬撃音。
空中を飛んでいたはずのマガツバットの翼が切り裂かれ、バランスを崩す!
「キヒッ!?
キヒヒガッ!!」
地面に落ち、ヨロヨロと立ち上がる。
ヤツを攻撃したのは、もちろん。
「リース!」
「大丈夫か、ノア!」
どうやらリースは、敵の後ろから走ってきて、マガツスコーピオンを踏み台にジャンプ。
そのまま空のマガツバットを攻撃したらしい。
「大丈夫……なのか?
戦っても」
問いかけに、リースは力強く頷いた。
「あぁ。
ノアと修行をしてわかった。
曇っていたのは私の心だった。
研ぎ澄まさなければいけないのは、私の心だったのだ」
「リース……」
「私は怖かった。
恐怖で剣を振るえない日もあった。
だが、怖かったのは敵じゃなかった。
目の前で人が殺されていくことが、怖かったのだ」
剣を構えるリース。
その瞳は、俺の知っているリースではない。
王立騎士団の誇り高き騎士、リースのものだ。
「もう私は、迷わない!
守るための力が、私にあるかぎり!」
駆ける。
強化魔法もかけられていないのに、まるで目に見えなかった。
一瞬で敵の懐に入り込むと、剣の連続攻撃でマガツバットを斬り裂く。
「ギヒャッアッ!」
「俺も、負けてらんないな!」
黒竜剣を構え、走る。
緋色の光が剣に集まり、光の刃を作り出す。
それも、巨大な。
狙いはマガツスコーピオン。
突然の乱入者に慌てているようだが、そこをいただく!
「だあああああっ!!」
「ガガガガガバアアアア!!??」
剣は弧を描き、マガツスコーピオンの肉体を斬り裂いた。
残光が朧に消えぬうちに、マガツスコーピオンは大爆発。
同時に、リースの剣技で吹き飛ばされたマガツバッドも爆発。
取り逃がした2体のマガツビトはどちらも倒すことができた。
「ありがとうリース。
リースがいなきゃ、勝てなかった」
「礼を言うのはこちらだ、ノア。
君がいなければ、私はずっと迷いつづけ、今もあの森の中にいたと思う」
「でも、もう大丈夫だ」
そう言ってリースは笑った。
正面から見るのが照れくさいくらい、いい笑顔だった。
「ノアはその力を、どうするんだ?」
「俺は……この力を守るために使う。
この街の、この世界のため。
戦えない、人たちのため。
奪うためじゃなく、守るために」
言うと、リースは今度は静かに笑った。
「そうか。
それでこそだ」
そしてリースは膝を付き、剣をこちらに構えた。
「えぇっ!?
どうした急にっ!?」
「私、リース=アルテシオンは。
戦士ノアの剣となりて、盾となりて、心となりて、戦い抜くことをここに誓おう」
リースは立ち上がり、こちらを見た。
「なに、形式上に儀式だ。
私はノアに協力する。
何かあったら、私を頼るといい」
「ありがとう、リース。
助かるよ」
「騎士団にも、協力を呼びかけよう。
しかし、頭が硬い連中だから、王国評議会でうまくいくか次第だがな」
王国評議会は、国のすべてを決めるといっても過言ではない重要な会議だ。
俺は騎士に敵だと思われているので、できるだけ早く味方につけたいところだが、難しそうだ。
「それじゃあ、私はここで」
「もう行くのか?」
「あぁ、この件を報告しないといけないからな」
そしてリースは城の方へと歩いて行ってしまった。
困ったら頼ってくれとは言っていたが、次に会えるのはいつだろうか。
騎士は忙しいと聞くからな。
「……まぁ、いつかまた会えるか」
変身を解除しようとした瞬間、遠くから王立騎士団の面々が走ってくるのが見えた。
武器を構え、明らかに俺に向かってきている。
「見つけたぞ怪物!
いや、怪物の仲間め!
今日こそは逃さん!」
髭面のリーダーが言うと、騎士全員がうおおおおお! と声を上げた。
やる気十分なのはいいんだけど……さ。
「だーかーらー!
俺は味方だって言ってるだろおおおおお!」
全力疾走で逃げる。
街の皆を守る戦士なのに、この運命だけは変えることができそうにない。
いつか、皆が認めてくれる日がくるといいな。
そう思いながら、街中を走り回った。
騎士団をなんとかまいて帰った数日後。
「あの……なぜ、ここに」
喫茶店2階の俺の部屋。
朝も早いこの時間、店の準備をしようと部屋を出たら、眼の前にリースがいた。
それも、大荷物を持って。
「何故も何も、ノアがここにいると聞いてな」
「いや、そうじゃなくて……その荷物は……?」
「あぁ、これは――」
「あぁ、ノア。
この騎士さん、ウチに泊めっから」
言葉を遮ったのはジョンさんだった。
ていうか……泊める?
「ほら、空き部屋あったろ。
家賃払うってんで、じゃあいいかってな。
騎士がいりゃ警備もバッチリだし、ウチの店は安全だって人気になるぜ!」
「ちょ、えっ!?
ソフィアは!?」
「あら、私は大賛成よ?
騎士さん、相当お強いんですって。
昇級を三回も蹴ったとか……」
ジョンさんの後ろから顔を覗かせたソフィアが言う。
金色のアホ毛がポヨポヨと揺れていた。
っていうかソフィアも賛成なのかよっ!
「というわけで、よろしく頼む。
いつでも私を頼るがいい!」
「いや、そうじゃなくて……」
「そういえば……
先の戦いではまだ剣の使い方が甘かったな。
これからも剣は使うし、定着させていったほうがいいと思うのだが」
「ア、イエ、エンリョシテオキマス」
「大丈夫!
信じろ! 私を信じろ!
きっと今よりも強くなれるから!」
「そうじゃなくて、店番が……」
「店なら俺に任せとけ。
ノアは、夜から手伝ってくれればいいぜ!」
「ぜ!」
親指を立てるジョンさん。
の、後ろで親指を立てるソフィア。
「ほら、こう言ってるし!
ヤろう! 修行! 剣の!」
「やだって!
絶対やだってえええええ!!」
俺は2階の窓からガラスをぶち破って外へ逃げた。
30秒後、追いかけてきたリースに捕まり、1日みっちりしごかれたのは、言うまでもない。
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