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07話 女騎士と一緒に仲良く修行しよっ!(そのままの意味)

「どうした!!

 まだ終わっていないぞ!」


 リースの怒号がこだまする。

全身の筋肉が悲鳴を上げ、ギブアップを叫び続けてしばらくして。

ついに俺の身体は1ミリも動かなくなった。


「無理……無理ですリース教官……

 今日は、無理……」


「チッ!

 仕方ない!

 今日は終わりだ。また明日同じ時間、ここに来い!」


 そう言って鬼教官リースは噴水広場を後にした。

周りの人々が倒れたまま動かない俺を見ては、見ないふりをして去っていく。

冷たいな……広場の地面って。


 怪物の出現から2日が経った。

あれから怪物は現れていない。


 リースから光竜伝説を借りて読んだら、怪物の名前が『マガツビト』と呼ばれる者たちであることがわかった。

読書が苦手な俺は、一日数ページしか読めない体質だけど、全部読まなきゃな。


 そんでもって今日は、マガツスコーピオンを倒すための特訓をしていた。

剣を使う特訓だけど、変身前の俺は一般人。

剣を振っていたらすぐに身体に限界がきてしまった。


「もう……動けん」


 地に伏して動けないでいると。首筋に冷たい感触が。

というか、冷たすぎる!


「つめてっ!!」


 痛む身体を無理やり起こすと、直ぐ側にソフィアが立っていた。

指先に魔法で発生させたであろう小さな氷の塊が回っている。


「お疲れ様。

 少しは元気でた?」


「ソフィア……

 なんでここに?」


「お父さんに聞いたら、朝から騎士さんに連れられて行ったっていうから」


「身体はもういいのか?

 怪我とか……」


「ハイエルフだからね。

 こうみえて、結構身体は丈夫なのよ?」


 威張るソフィア。

確かに、マガツスパイダーに投げ飛ばされ、思いっきり屋根に身体を叩きつけられたソフィアが、怪我ひとつせずピンピンしているのを見ると、そうなんだなって思ってしまう。


「お弁当。

 作ってきたから一緒に食べよう?」


 俺とソフィアは近くのベンチに座り、ソフィアの作ってきてくれた弁当を食べることにした。

サンドイッチ。喫茶店でも出している定番メニューだが、ソフィアが作ると妙にうまい。

野菜の切り方がいいのかもしれない。ただ、俺に同じ味が出せないのは確かだ。


「うまい!

 やっぱソフィアの作るサンドイッチはうまいなぁ」


「そう?

 よかった」


 笑みを浮かべ安心した様子のソフィア。

一応、これでも作るたびに緊張はしているらしい。


「ねぇ、ノア。

 無理だけはしないでね」


「え、なんだよ突然」


「ほら、怪物が襲ってきてから、街がなんだか騒がしいじゃない?

 王国の騎士さんもずっと街中警備してるし

 それに、私見ちゃったの」


「何を……?


「怪物と、もう一体の怪物が戦っているところを」


 その時、心臓が激しく俺の胸を叩きつけた。

ソフィアが言っているのは、おそらくマガツスパイダーと俺が戦っているところ。

見られて……いたのか。


「竜みたいな怪物が、どうしても忘れられないの。

 あの禍々しい姿が、頭の中から消えなくて」


「ソフィア……」


「ノアも男の子だし、身体を鍛えるのはいいと思う

 でも、でもね……!」


 突然、ソフィアが俺に抱きついてきた。

本当に突然のことで、一瞬困惑する。


「ソフィ……ア?」


「急にいなくなったりしたら、駄目だからね」


 小さな声で、ソフィアは言った。

けれどその言葉は、声の小ささと裏腹に、俺の心臓を貫いて離さない。


「わかってるよ、ソフィア。

 大丈夫」


 どこにも行かない。

とは言えなかった。






「てやぁっ!」


 リースの剣撃が激しさを増す。

徐々に剣さばきが追いつかなくなっていき、隙が出始める。


「くそっ!

 なんのこれしき!」


 身体をひねり、リースの剣を弾こうとする。

しかし。


「甘い!」


 読まれていたのか、逆に剣を弾かれてしまった。

剣が宙を舞い、地面に落ちる。


「ここまでだな」


「くそっ!

 惜しかったのになぁ」


「剣に迷いが見える。

 それでは、勝てるはずの敵にも勝てんぞ」


「そんなつもりは……」


「それに、相手に押されると、すぐに逃げ場を探す。

 ノアの悪い癖だ」


「んこと言ったって……」


「小手先の技術に頼るな。

 攻撃が見えないなら、心を研ぎ澄ませ。

 そうすれば、攻める場所がわかるはずだ」


 そう言ってリースは座り込んだ。

剣を使った模擬戦形式の実践訓練。

リースの騎士権限を使って、王立騎士団の訓練所を借りて行っている。

周りでは、騎士の他にも、俺と同じように一般人だけど剣を習いたい人が剣を習っている。

マガツビトの出現が影響しているようだ。


「剣を学ぶのはいいことだ。

 私たちはエルフやヴァンパイアと違って、魔法を使えない。

 身を護る術は、自らで身につけねばならないのだ」


 リースの剣を握る力が強くなる。

リースはきっと、マガツビトが父さんを殺したのだと思っているのだろう。

でも、なんだか納得できない。


 マガツビトが出現したのはつい最近。

リースの父さんが謎の怪物に殺されたのは10年前。

『黒の渦』の時だ。


「他のマガツビトよりも早く、目覚めた者がいる……?」


 その時、左手の竜の紋章が光った。

心臓のように脈打ち、何かを知らせている。


「これは……もしかして」


「どうした。ノア」


「もしかしたら、来るかもしれません。

 いや、来ている……!」


 立ち上がり、息を吸う。

俺の言葉を理解したのか、リースも力強く立ち上がった。


「場所はわかるか?」


「多分……この前と同じ広場です」


「わかった。

 私は避難を優先させる。

 ノアは先にマガツビトのところへ」


 頷き、2人同時に走り出す。

俺は、勝てるのだろうか。

嫌な想像が脳を支配する。


「俺は……」


 一瞬、ソフィアの顔が脳裏に浮かんだ。

竜の怪物を恐れる、ソフィアの表情。


「それでも……それでもやらなきゃ駄目なんだ!」


 走る速度を早める。

向かうは、敵の待っている街のどこかだ。

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