06話 新たな敵
「きゃああああああ!!」
「な、なんだ!?
また化物か!?」
「わからない。
とにかく行くぞ、ノア!」
俺とリースは大急ぎで声の方向へ向かった。
向かった先。
さっきとは別の広場で、また怪物が暴れている。
体色は黒。
やけに長い耳と、ゴムのような羽を持った怪物だ。
俺たちよりも先に来た王立騎士団の騎士たちが戦っているが、歯が立たず一瞬で全員やられてしまった。
怪物はおもちゃがなくなると、標的を俺たちへと変えた。
「またか!
くそっ! やるしかない!」
竜の紋章に意識を集中させ、力を呼び出す。
身体の中を、凄まじいエネルギーが駆け巡っていくのを感じた。
「変身!」
力を開放させ、変身する。
先と変わらない、おそらく、禍々しい姿。
「うーん、見た目だけどうにかなんないかな」
「ぼやっとするな!
来るぞ!」
「うぉっと!
あぶねえ!」
構えると同時、怪物が駆ける。
ヤツの名前は『マガツバット』。
特徴は……
「あれ?
前は特徴までわかったのに、今回のは表示されないぞ?」
「おい! 何をしている!
避けろ!」
「避けって……えっ!?」
特徴の表示がないことに意識を集中しすぎていた。
気がつけば目の前に敵が迫っていた。
「あっいってぇ!」
攻撃を避けきれず、モロに突進を食らう。
横にいたリースは避けたみたいだ。
「くそ~っ!
やりやがったな!」
俺は再び突進してこようとするマガツバットに走る。
拳を構え、走った勢いのまま振り抜くが、ジャンプで避けられた。
そして、そのまま羽を広げ空中へ。
「あ!
おいお前!
卑怯だぞ!」
「キヒヒヒッ!」
マガツバットは俺を見下したように笑うと、そのままどこかへ飛んで行ってしまった。
「くそっ!
逃した!」
「ノア!
気をつけろ! なんか変だ!」
「え?
何かって――」
突然地面が揺れたかと思うと、足が掴まれた。
足元を見ると、地面が割れ、裂け目からハサミのようなものが生えている。
そのハサミが、俺の足を挟んでいるのだ!
「な、なんだこれ!」
足元……いや、足をすくわれ、空中へ投げ飛ばされる。
背中から地面に叩きつけられ、流石に痛い。
「いって~……!」
「ガガバババ!」
体勢を整えて、俺を投げ飛ばした張本人を見る。
紫色の身体で、紫色の甲冑を来たような怪物だ。
おそらく、今まで見た怪物の中で一番人に近いだろう。
両手がハサミであることを除けば。
「マガツスコーピオン……でいいのか。
よくも俺を投げてくれてたな!」
拳を固め、敵めがけて放つ。
拳はマガツスコーピオンの身体に一撃、二撃、三撃と当たるが、ビクともしない。
渾身のキックも、まるで効いていないようだ。
「えぇっ!?
嘘だろ!」
「ガバァ!」
足を振り払われ、今度は相手のターン。
ハサミによる連続攻撃を最初は避けていくが、徐々に避けきれなくなっていく。
攻撃が、当たり始めた!
「だめだ!
一旦距離を!」
その場から飛び退き、距離をとる。
するとマガツスコーピオンは、右手を変化させ、ハサミ状の手から普通の手になった。
「えぇっ!?
普通の手!?」
そして、拳を握ると、剣のようなものが召喚された。
柄の先には鋭い針のようなものまでついている。
「また魔法か!?
どうなってんだ!」
マガツスコーピオンは剣を振りあげ、襲いかかってくる。
ハサミならまだしも、剣は無理だ。
リーチが違う!
「ちょ、ちょっと!
いってぇ! まてって!」
一応身体が鎧みたいなものなので、防げはするが、やはり直接当たると痛い。
胸部とかを斬られればすごく痛い。
やがてヤツの剣撃に吹き飛ばされてしまった。
「あっだぁ……
いてぇ……」
変身も解除され、俺は元の姿に戻ってしまう。
敵はゆっくりと剣を構えながら、こちらに近づいてきた。
このままではヤツの剣に貫かれて死んでしまう!
「もう……だめか!」
マガツスコーピオンの剣が眼前に迫ったその瞬間。
突然、マガツスコーピオン剣が何かに弾かれた。
一瞬のことに敵は驚き、慌てふためている。
「あれ、一体なにが……?」
辺りを見回すが、何も……リース以外、誰もいない。
リースが助けてくれたのかと思ったが、かくいうリースも驚いた様子である。
何かが飛んできて、その一撃が俺を助けた。
「ガバ……!」
マガツスコーピオンは謎の攻撃に驚き、地面を掘ってどこかへ逃走。
結局、現れた怪物を2体とも逃してしまったことになる。
「あぁ、くそっ!
逃したか!」
「ノア!
大丈夫か!」
リースが駆けてくる。
身体を起こすと、全身に痛みが走った。
「すまない、ノア。
君を助けられなかった……」
見ると、リースの足が震えている。
初めてマガツビトを見た時、俺も恐怖に怯えて動けなかった。
仕方ないことだ。
「いいんだ、リース。
仕方ないよ」
リースは何か言いかけたが、それをやめた。
気まずい雰囲気が流れそうになったので、ここはいっちょ、空気を変えよう。
「しっかし、厄介な敵だな。
あぁ、飛ぶヤツもそうだけど、あの鎧のヤツだ。
剣を使う敵は、どうしたらいいんだ……」
「……伝説によると、竜の戦士は剣技を得意としていたらしい。
しかし、今のノアにその様子はない
紋章の力が完全ではないのか、それとも……」
それもそうだ。
紋章の力が覚醒しようにも、俺は剣なんて一度も触れたことがない。
つまり、覚醒のしようがないのだ。
だってゼロだから、経験が。
ジョンさんのボウガンをいたずらで触った以外、武器に触れたことがない。
肉体は紋章の力でパワーアップしているかもしれないが、剣技とあらば別だろう。
「よし、こうしよう。
ノア、私が君に剣を教えよう
もしかしたら、紋章の力が目覚めるかもしれない」
得意げに剣を見せるリース。
どこか楽しそうなその顔に、俺は目を合わせられない。
「あ、あの……
俺、店番が……」
「大丈夫だ!
剣技の先っちょだけ教える! 先っちょだけだから!」
「やだ!
なんか言い方が嫌だ!」
「一回でいいから!
剣、ヤろう! な!」
俺はその場から全力で駆け出した。
もちろん、変身状態の俺に追いつくような体力おばけのリースから逃げられるはずもなく、すぐ俺は捕まった。
たしかに空気は変わったけど、こんなのは予想していない!
そして、打倒マガツスコーピオンのため、剣技習得の道が始まった。