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最終話 ノアの方舟

「その姿は……一体」


 ルクスがうわ言のように呟く。

俺は、人間、セリアンスロープ、ヴァンパイア、ハイエルフ。

全ての紋章が融合して生まれた、究極の紋章の力で変身した。


 神々しい白き鎧。

金色の幾何学模様が鎧に刻まれており、胸部の中心には青い宝珠が埋め込まれている。

ヘルムには碧色のライン、精霊のレリーフ。

ガントレットには青のライン、爪のレリーフ。

鎧の背部には紫色のライン、翼のレリーフ。


「原初の姿、か。

 全ての生命が、1つだった、あの刻の」


「いくぞ、ルクス!」


 剣を召喚する。

真っ赤な剣に、竜のレリーフ。

刀身には金色のラインが一線。


「……そうか。

 それが、貴様自身の力か、ノア=アルカ」


 ルクスは赤い稲妻を剣に変化させる。

天使のような翼を出現させると、羽ばたいた。


「我が雷鳴剣を持って、貴様を滅ぼす。

 闇に消えるがいい」


 ルクスが迫る。

雷鳴剣を、俺が持つ剣『凛剣』で受け止めた。

凄まじい衝撃が、地面にクレーターを生み出す。


 しかし、耐えられる。

凛剣の構えを変え、逆手に持って斬り裂く。

ルクスはそれを受けて回避した。


「……やはり、強いか」


 紋章が青く光る。

すると、凛剣は槍に変化。

青い稲妻を纏った槍を、ルクスに放つ。

その一撃はルクスを捉えた。


「ぐっ……!

 その力は……!」


 瞬時にルクスに近づき、槍を回収。

槍を光に変え吸収すると、紋章が紫に輝き、背中に翼が生えた。

天空へ舞い上がり、魔法陣を展開させる。


 赤、青、紫、緑、金色。

5つの魔法陣が重なり、1つになると、魔法陣からエネルギー波が放たれる。

ルクスはバリアを張り、なんとかそれを受け止める。


「我の知らぬ……魔法だと」


 翼を引っ込める。

魔法陣が緑に光り、弓が召喚される。

矢を三本同時に放つと、螺旋を纏いルクスへ向かった。

ルクスが張ったバリアは、俺の放った矢によって完全に破壊される。


「なっ!?」


 初めて見た、ルクスの表情。

俺はそれを見逃さない。

紋章が赤く光ると、弓は剣に変化。

さらに、紋章の力を開放する。


 金色の光が刃を形成し、巨大な1つの剣となる。

大きく振り上げ、構えた。


「これで……!」


 斬撃が弧を描き、ルクスを斬り裂く。

ルクスはそれを、なんとか耐えていた。


「……舐めていた。

 貴様や人間たち、輝けるものたちの力を」


 ルクスは魔法陣を展開。

空を覆うほど巨大な魔法陣の中心に、自らが浮かぶ。


「王たる我の、最期の一撃。

 貴様が防ぎきれなければ、世界は終わる」


「……ルクス。

 俺は、俺たちは、お前を倒す」


 紋章の力を最大に開放させる。

竜の翼が生え、光が俺を包み込んだ。


「ルクス・ステラ!」


 ルクスが魔法を放つ。

大地を揺るがすエネルギーの波動が一点、俺に向けて放たれた。

俺は拳に全ての力を込め、エネルギーの波動の果て、ルクスめがけて振り抜く。


「うぉぉぉぉおおおぉおおおおおおおおおお!!!!!」


 光り輝く竜が拳から放たれる。

その竜は、ルクスの魔法を貫通し、魔法陣の主、ルクスをも貫いた。

世界に光の粒子がばら撒かれ、魔法陣は消失。

力を失ったルクスは地に落ちた。


「……ルクス」


 倒れるルクスの傍らに行く。

身体が光に包まれ、ルクスは消滅寸前だった。


「我は、光に消えるのか」


「あぁ」


「光は、眩しいな」


「……あぁ」


「……光があれば、闇もある。

 その逆もしかり、我と貴様たちは表裏一体。

 いずれ、また、試練は訪れる」


「光と闇が、争う必然なんてない。

 共存していける」


「……この世界が、星が、それを成すならば。

 我はそれを見届けよう」


 ルクスはそう言い残し、光に消えた。

最期に見た彼の表情は、とても穏やかで、笑っているように見えた。




◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   




 世界が終わりかけた日から、一ヶ月が経った。

街の復興は、ガルターやリースを中心とした王立臨時復興団体の活躍により、だいぶ進んでいる。

一度は王を失ったが、第一王子が即位し、その手腕を振るわせている。


 壊れた喫茶店も元通りになり、今日から営業再開。

営業休止期間の間に考えた新メニューを、今日から提供するらしい。

ジョンさんとソフィアは張り切って仕事をしている。


 ヴァイトも、喫茶店で働くことになった。

手先も器用だし、そこそこイケメン。

ウェイターとしての人気を博しそうだ。


 そういえば、ティクルが黒い竜の怪物に関する記事をレストレアジャーナルに載せていた。

二匹いたとか、一匹はいい方、比較的に。

みたいな抽象的な記事だったけど、ティクルの味が出てるいい記事だった。

俺の誤解も、これで解けるといいな。


 カーミラは一度ヴァンパイアの国に里帰り。

ルクスの騒動を受けて、ヴァンパイアは人間たちとの関わりを増やすべきと考えたらしい。

小さな女王は敏腕だ。

きっといい方向に導いてくれるだろう。


 そして、俺は。


「……本当に、行くのか?」


 ジョンさんが身支度を整える俺に言った。

普段は見ない、男らしい、騎士の目で。


「うん。

 まだ、リースの話では、まだ怪物が出てる地域があるらしい。

 太陽が人工じゃなくなったから、数は限りがあるし、全部倒したら戻ってくるよ」


 ルクスの事件以降。

ヴァイトたちが持っていた紋章は、全て俺に宿っている。

紋章が1つになり、確かに俺の右手の甲に。


 人工太陽が及ぼした影響は大きく、マガツビトもどきがまだ残っている。

レストレア以外にも出現しているらしいので、俺はその残党狩りをする度に出るつもりだ。


「ちゃんとソフィアには話したんだろうな?」


「話してある。

 どこにも行かないって約束したし」


「旅に出るってのは、どっかに行くってことじゃねえのか?

 まぁ、そこらへんはお前たちの中で完結してるだろうから、言うだけ野暮か」


 俺は笑顔で頷いた。

ジョンさんは困ったもんだみたいな顔をしている。


「……ソフィアは店番で俺くらいしか見送れねぇが。

 達者でな。

 たまには連絡くらい寄越せ」


「うん、わかってる。

 それじゃあ、行くよ」


 荷物を背負い、裏口から出る。

手を振るジョンさんの姿は、なんだか小さく見えた。


「……さて、まずはどこに行こうか」


 マガツビトもどきの残党は、ルクスの件以降世界各地で出現している。

砂漠の街、エルドラ。

海を渡った先にある、魔法の国フォバリエ。

エルフの里や、ヴァイトの故郷、グルンジャ。

ヴァンパイアの国も。


「まずは……情報収集だな」


 そろそろ行こう。 

次の目的地はきっとどこか遠い場所。

少しの荷物と、覚悟と、希望を持って、

光の導く先へ、伝説を運ぶために。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

『【悲報】伝説の戦士の俺、街に現れたモンスターを退治するも、モンスターの仲間と間違えられて騎士団に追われる』は、これにて完結となります。


沢山の閲覧、ブックマークありがとうございました。


後日、最終章『最後の手紙』という外伝章を投稿します。


最後までよろしくお願いいたします。

今までありがとうございました!

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