42話 輝けるものたちへ
眼の前に、ルクスが立っていた。
その姿はボロボロで、今にも膝を付きそうなほど。
俺は……かつての竜の紋章保持者。
誰かわからぬ、それに成っていた。
「……トドメを刺すなら今しかねぇ!
間に合わなくなるぞ!!」
右後方。
槍を構える大柄の戦士が言った。
青い鎧。
大柄の戦士は、セリアンスロープだ。
ヴァイトと同じネコ種のようだが、身体は華奢でなく、もっとごつい。
「そうですわね。
これ以上力をつけれられては、いくら私たちでも太刀打ちできませんわ」
左後方。
紫色の扇子を持った、女性の戦士。
その姿……紫色の鎧から、カーミラが言っていた先代ヴァンパイア女王を思い出す。
「私が支援する。
ハイエルフの私なら、誰よりも早く支援魔法を使うことができるからな」
後方。
緑の弓を背負ったハイエルフ。
美しい鎧は妙に露出度が高く、目のやり場に困る。
「おい、何してる!
早くやれ!」
セリアンスロープに急かされ、俺は剣を構えた。
凄まじいエネルギーが体中を駆け巡り、解き放たれるのを待ちわびている。
ハイエルフの支援魔法もあり、エネルギーは爆発寸前。
ついに耐えきれず、俺は剣を振り抜いた。
空間ごと斬り裂いてしまうような一撃。
まともに受けたルクスは断末魔を上げながら消滅する。
しかし。
寸前、黒い塊がルクスの手から放たれた。
それは鎧を貫通し、俺の中に入る。
闇のエネルギーが脳を刺激する。
俺はこの感覚を知っている。
闇に支配された時と、まったく同じ感覚。
「おい!
どうしたんだ!」
「何か……様子がおかしいようですわ」
「これは……まさか……!」
3人の声が遠く聞こえる。
そうか……この闇の力は、元々ヤツの、ルクスの……!
気づいた時、俺の身体は勝手に動いていた。
俺の意思ではない。
きっと、先代竜の紋章所持者の意志。
身体のエネルギー全てを使い、闇のエネルギーを2つに分離させる。
紋章の力を開放し、時空間の裂け目を生み出すと、闇のエネルギーの1つを放り投げた。
まもなく裂け目は閉じ、エネルギーの片方が消滅。
もう片方は残ったまま、俺の身体を乗っ取った。
瞬間、時間が加速する。
暴走した俺は仲間を攻撃し、人間たちを襲った。
しかし、俺以外の戦士が力を合わせ、俺の闇を無力化。
同時に、俺は死んだ。
マガツビトを封印した伝説の戦士たちは、俺の骨を細かく砕き、海に撒いた。
この時のことを書物に残し、そして、滅びていった。
そして、時空間の裂け目に飛び込んだ片方の闇のエネルギー。
それは、力を失い、1人の人間になった。
それが。
「紛れもない。
俺だ」
青葉結城。
そういう名前で、俺は生まれた。
西暦2026年、誕生。
生まれてから半年で1人で立てるようになり、同時に言葉も喋れるようになった。
2歳の時には英語を完全に理解し、幼稚園生になるころには神童と呼ばれるほどの才を持っていた。
パスカルの定理を5歳で理解し、応用。
しかしそれに飽きると、次に宇宙物理学や量子力学に興味を持つ。
独自論文を書くと、それが海外で評価された。
俺はわずか6歳という歳で海外の大学に入学できることになった。
両親とともに海外へ渡り、そして8歳の頃。
ジュネーブにあるCERNの大型ハドロン衝突型加速器、LHCを特別に見学していた時。
事件が起こった。
俺自身が元々持っていた闇のエネルギーが目覚めたのだ。
加速実験中、近くに発生した高エネルギーを吸収しようと目覚め、LHCを破壊。
俺のエネルギーと、衝突エネルギーが反応を起こし生まれた時空間の裂け目に、俺は吸い込まれた。
そしてやって来たのが、この世界。
いや、戻ってきたというのが正解だ。
俺は時空間に吸い込まれた影響で、記憶を失っていた。
唯一覚えていた名前。
ノア=アルカ。
自分の名前だと思い、そのまま俺はノアとして生きていた。
「それが、俺」
「空っぽの俺」
気がつくと、黒い闇が見えた。
黒き太陽がゆっくりとこちらに落ちてきている。
間もなく衝突だろうか。
エネルギーの波がここまできている。
水位もだいぶ増しており、世界が完全に死のうとしている。
俺の傍らに立つルクスは、黒き太陽を見上げていた。
「……我は魂と肉体に分離された。
魂は君になり、肉体はこの世界中のどこかへ消えた」
ルクスが遠い目をする。
その目が見つめているのは、きっと黒き太陽ではない。
「君がこの世界に戻ってきたのは驚きだったよ。
私と先代が融合した名残で、君は変身能力を手に入れた。
そして、君が闇を断ち切った時、我が魂が完全に分離したのだ」
「……俺は、あの時、初めて『ノア=アルカ』になったのか。
それまでは……」
「あぁ、それまではただ魂の器だった。
しかし、君は君という存在になった。
だから我は分離し、リュウビという姿になれたのだよ。
我が顕現できたのは、全て、君のおかげだ」
俺は、ずっと怪物に間違われていた。
それは、変身後の姿のせいだとずっと思っていた。
でも、きっとそうじゃない。
俺は確かに、怪物だったんだ。
「……ルクス。
どうやって肉体を?」
「クイーンの力だ。
人々の恐怖を刺激し、遺伝子の奥底にある我に関する記憶から、肉体をクローンとして生成した。
莫大な時間がかかったが、おかげで、前と同じような姿になれた。
まぁ……少しは違うがな」
「お前が、王って言われる理由がわからない。
ザサンも、ガルナも、クイーンも、マガツビトはなぜお前を」
「強いからだ。
ザサンには我の力を。
ガルナには能力の一部を。
クイーンには賢を与え、逆らえば殺すとも言っている。
代わりに、我自身も奴らの死で弱体化するが」
ルクスは魔法陣を展開した。
ゆっくり俺の前に手をかざすと、魔法陣の光が強くなる。
「少し喋りすぎた。
さらばだ。
我でもなく、青葉結城でもなく、ノア=アルカよ。
本来生まれることなどなかったのだ、輪廻の果てへ消えるがいい」
「俺は……」
「哀れだな。
仲間は来ず、孤独に死ぬ。
君に相応しい最期だ」
ルクスが言った瞬間、轟音が響いた。
顔を動かし空を見ると、黒き太陽を、レーザーのようなものが貫通。
黒き太陽は破壊され、同時、空中に魔法陣が展開。
レーザーが魔法陣を通ると、レーザーが消滅。
空の彼方に浮かぶ死の太陽に、光が灯った。
死の太陽はみるみるうちに力を取り戻し、かつての輝きを取り戻す。
闇に覆われた世界に、光が満ちた。
雨も、いつの間にか止んでいる。
「ふん、少しはやるようだ」
ルクスが言うと、身体の一部が溶けた。
不完全な姿になるが冷静さは失わない。
「クイーン、ガルナ。
少しの役にも立たなかったか」
「……みんな!
やって、くれたんだな!」
人工太陽のものとは違う、暖かな光が地上を照らす。
すると、光を受けたルクスが苦しみだした。
「……ぐっ!
忌々しい……光めが」
今まで上がっていた水位が、どんどん元に戻っていく。
太陽の復活と関係があるのかわからない。
しかし、レストレアを飲み込んだ水は、もうそこにない。
地面に背をつけ、俺は倒れていた。
耳で、鼻で、目で、口で、身体で。
全てを使って世界を感じる。
遠くから聞こえる、人々の声。
暖かな空気の匂い。
眩しい太陽の姿。
そして、仲間。
「……そうだ」
ゆっくり立ち上がる。
左手に紋章が宿った。
竜と、セリアンスロープと、ヴァンパイアと、ハイエルフ。
全ての紋章が重なり、1つになる。
「な、なんだそれは……?
君は……いや、貴様は何者だ?」
「俺は……俺は、ノア=アルカ。
空っぽじゃない。
俺には、俺がある!」
光が、優しく俺を包み込む。
光が収束した時、俺は、伝説の戦士になっていた。




