41話 その光は明日を照らす
「さて、やるかの」
眼の前に迫る黒き太陽。
アレをどうにかする……もとい、粉々に打ち砕くのは妾の役目じゃ。
先代を超える魔力を持つ妾なら、可能。
そう考えておったが、自信はない。
ノアを行かせたのも、太陽が直撃すればいくら伝説の戦士といえ助かる可能性が限りに買うゼロだから。
少しでも離れていれば、助かる可能性があるかもしれん。
「……そんな小さな可能性を頼る、か。
しょうがないのう」
魔法陣を両腕に展開。
自分の中の全てのエネルギーを開放させる。
そうでもしなけりゃ、あの太陽を壊すなど到底不可能じゃ。
そういうレベルで、アレは手強い。
なんせルクスの加護を受けておる。
どうしろっていうんじゃ。
……ま、人工太陽を壊すなんて、人生で一度しか経験できんじゃろう。
それに、全力を発揮できるチャンスでもある。
ノアの血を吸って、久々の本気モードじゃ。
「やってやるわい。
ヴァンパイアの女王を舐めるなよ!」
青の魔法陣と赤の魔法陣が重なる。
螺旋を描き1つになると、紫色の魔法陣が展開。
さらに巨大さを増し、まるで花のようになった。
「クリスタル・オグリストヴィアス・プリズムレギナ!!」
魔法陣から放たれる魔法。
最強の威力を込めたエネルギー波動。
黒き太陽に向かって真っ直ぐ飛んでいき、着弾するかと思ったが。
直前で何かに防がれた。
バリア……のようなものが張っておる。
「……まさか、こんな面倒なことをしておるとはな」
黒き太陽を覆うバリア。
おそらじゃが、ガルナとクイーンが柱となって生み出したバリアじゃろう。
ならばガルナとクイーンの死をトリガーに、破壊されるもの。
つまり、これを破壊するのは力技では不可能。
「無理をさせる……!
じゃが、破壊できなくとも、落ちてくるのは防ぐことはできる……!」
皆のことじゃ、きっとすぐに奴らを倒してくれる。
それまで妾は、この魔法を維持し続けるのみ。
全力を常に、まっすぐ、撃ち続ける。
「じゃが……厳しいのは事実じゃな」
エネルギーを開放するのには限界がある。
黒き太陽は落下と共にエネルギー量を増しておるから、いずれ本当に防ぎきれなくなるじゃろう。
「頼むぞ……!」
魔法を放ち続けていると、ポツリと雨粒が鼻頭を叩いた。
すぐに雨は大降りになり、水位が上がっていく。
この勢い、街ごと水没するのにそう時間はかかるまい。
「な……!
まさか、ルクスの奴め!」
こんな作戦まで立てておったか……!
まさかルクスが天候を操る技をもっておったとはな。
「……どちらにせよじゃ。
妾にも、皆にも、世界にも時間切れがある。
なら、撃ち続けるのみじゃ……!
みせてやる、ヴァンパイアの底力を!」
力を強める。
秘められたヴァンパイアの力を限界まで、限界のその向こうまで発揮させる。
背中の羽を伸ばすように。身体全体に力を行き渡らせる。
魔力は湯水のように湧くわけではない。
節約しつつ、大量に使う……!
なんとか黒き太陽の落下は防いでおる。
じゃが、少しずつ押されてきておるのも事実。
雨によって水位もかなり増してきておるから、一度撃つのを止めて、水に沈まない場所を確保しなければならぬ。
辺りを見回しても、使えそうなものはない。
ヴァンパイアの力、飛行能力を使えばどうとでもなるが、今は少しもエネルギーを温存しておきたい。
魔法を打ち続けて、幾分経ったじゃろうか。
黒き太陽の落下速度はどんどん早くなっておる。
このままでは妾の攻撃では防ぎきれない……!
「流石に、今回ばかりは無理かもしれんな……」
口から弱音が出た。
瞬間、声が聞こえる。
『なんだ、いつもは強がってんのにその程度かよ。
ま、ヴァンパイアの女王っつっても、まだガキだししゃーねーか』
「な、なんじゃとこのネコ坊主!
貴様に言われる筋合いはない!」
力を強まると同時、魔法の威力が上がった。
少しだけ、落下速度を押さえることができている。
「こ、これは……」
『いいかげん気づきな。
そんなんじゃダメなことくらいわかってんだろ、女王様。
感情も力の一部だ。
ノアが覚醒した時のことを思い出せ』
「ノア……が……」
闇を振り払い、力を覚醒させたノア。
その時のノアと、今の妾。
何が足りないか。
考えればすぐわかることじゃ。
「……ネコ坊主にそれを教えられるとはのう。
墓参りには、行ってやる……!」
『まだ死んでねーよ馬鹿野郎!』
ヴァイト。
お主に声で、妾は吹っ切れることができたぞ。
やってやる。
何がなんでも、この太陽をぶっ壊す。
「妾に……光を……!」
眠りから目覚めて、戦士の力に目覚め、皆と出会った。
ヴァンパイアの寿命は驚くほど長い。
きっと妾が死ぬ前に、皆は死んでしまうじゃろう。
じゃが、それでいい。
生物の輪廻、生きる年数は違えど、共にする時間に変わりはない。
この風情もへったくれもない太陽如きで、それを終わらせてたまるものか。
初めて出来た友達、初めての仲間。
妾に光を見せてくれた人たち。
妾はそれを、失いたくない。
だから、妾はこいつをぶっ壊す!
「はぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」
魔力の増幅を感じる。
翼が巨大化。
飛行しながらでも魔法を撃つ。
黒き太陽の落下が止まった。
バリアにヒビが入り、やがて音を立てて割れる。
「ヴァイト! ガルター! リース! ソフィア!
みんな……よくやってくれた……!
あとは……任せるが良い!」
3つ目の魔法陣を展開……!
金色に輝く魔法陣は、紫色の魔法陣と融合。
立体になった六角形の魔法陣から放つ、妾の最強極大魔法!
「プリズムエンド・エタニティ!」
魔法は黒き太陽を貫通し、内側から完全に破壊。
バラバラになった破片すら、一瞬で破壊されていく。
「……あとは!」
空に遠隔で魔法陣を展開。
プリズムエンド・エタニティが魔法陣を通ると、その魔法は魔法陣を通してつながっている太陽へ放たれる。
爆発的エネルギーを得た太陽は活動を再開。
闇を払い、光をもたらした。
「は……はぁ……
妾も、やれば、できるもんじゃな……!」
全エネルギーを使い果たし、倒れ込む。
弱くも、暖かな光を全身に感じる。
「まっておれ……ノア。
いま、妾も、そっちへ……」
暖かな光の中。
熱い衝動が胸を焦がす。
その時、光の彼方に皆の姿が見えた。




