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36話 終焉への変奏曲

 ルクスが現れて、しばらく経った。

大きな音がしたかと思うと、レストレアの王城が崩壊。

禍々しい黒い城へと姿を変えていた。


 人工太陽を変化させたせいか、地上にも変化が起きている。

建物が黒い何かに侵食されており、木々や花などが枯れ始めていた。


 地表の温度は急激に下がり、枯れた木で炎を起こす。

そうでもしなければ、凍えて死んでしまうからだ。


 生き残った人が何人いるのか、定かではない。

しかし、息絶えていく人がいるのは確か。

黒い太陽の侵食は、自然だけではなく、人間にも影響を及ぼしているからだ。


「ルクスを倒す作戦を考えねーとな」


 喫茶店に集まった俺、ヴァイト、カーミラ、ソフィア。

リースは生き残った人たちの避難誘導。ジョンさんはそれを手伝っている。

今この状況を打開できるのは、俺たちしかいない。


「ジャックとティクル……大丈夫かな。

 無事だといいけど」


「坊主の幼馴染とうるさい嬢ちゃんか。

 無事だろ、って言えねー状況だからな」


「思ったよりも大いなる闇の力は強大じゃ。

 人工太陽を黒く変化させ、アレから更に力をもらっておる。

 このまま放っておけば、ルクスの力はもっと強まるじゃろう」


「ってことは、早めになんとかしなきゃ……

 うーん……どうしたら……」


「厄介なことに、黒い太陽はこっちに落ちてきている。

 色々な意味で、妾たちに残された時間は少ないようじゃな」


 カーミラが腕を組んで足を小刻みに動かしている。

いい案が浮かばない、そういう様子だ。


「ヴァンパイアは闇を好むんだろ?

 じゃあ別に、チビガキ的にいいんじゃねーか?」


「よくないわ!

 妾たちは、完全な闇では生きられぬ。

 太陽と月があるように、光と共存している関係でもあるのじゃ。

 黒の渦の時も、実際ヴァンパイアは滅びかけたしのう」


「……意外と弱いんだな、身体」


「そうじゃなかろうがっ!

 はぁ、ネコ坊主はのんきでいいのう……」


「のんきってなんだよ!

 こっちは少しでも気が楽になるようにだな!」


「もっと方法があるじゃろうがっ!!」


「ま、まぁまぁ二人とも、落ち着いて。

 喧嘩してたら、大いなる闇には勝てない。

 ハイエルフの私にはわかります」


「人間の俺にもわかる」


 ソフィアの言葉に、ヴァイトカーミラは喧嘩をやめた。

ルクスを倒す作戦を考える。

ずっとそれで、時間を使っている。


「……そういや、あのヤロー。

 坊主に妙なこと言ってたな。

 坊主のおかげでなんとかってよ」


「……あれ、俺にも意味わからないんだよな。

 なんで俺とアイツに関係が――」


 その時、見たこともない景色が脳裏に写った。

鉄の塔、灰色の建物、光る板。

変な格好の人々が、鉄の蛇に乗って移動している。


「な、なんだ……今の」


「どうかしたか、坊主」


「い、いや、なんか……

 なんか変だった……」


「そういえばノアは、8歳から前の記憶がないって言ってたよね。

 私と最初に会った時、よくわからないこと言ってたし」


「あれ? そうだっけ?

 俺何って言ってた?」


「絵本の中に来たとか」


「は……?」


 自分で言うけど、何いってんだ俺は。

絵本の中に来たって……なんだそのわけわからんことは。


 じゃあ何か?

俺は絵本の外にいたの?

絵本の外って……どこよ。


「ふむ。

 まぁ童のことじゃ。

 不思議なことを言うのも仕方ないじゃろうな」


「だな。

 オレも昔は、この世界の外側があるって思ってたしな」


「そっかぁ……

 何かの手がかりになると思ったんだけど」


 ソフィアはうなだれる。

しかしすぐに立ち直り、ルクスを倒すための作戦を考え始めた。


「私の支援魔法を上手く使って、皆を強くすれば倒せるんじゃない?」


「ふむ、そうなると……

 あの太陽をどうにかするのは、妾にまかせてもらえんか?」


「チビガキ1人でどーすんだ?

 いけんのか?」


「これでもヴァンパイアの女王じゃ。

 そして、伝説の戦士でもある。

 少しばかり、ノアに協力してもらうがな」


「お、俺?

 別にいいけど……」


「ありがたい。

 そうと決まれば今日はできるだけ力を蓄え、明日、作戦を始め――」


 瞬間、喫茶店の扉が勢いよく開いた。

扉を開いたのはリース。

何かと戦った後のようで、傷ついている。


「……られないようじゃな」


「ど、どうしたんだリース!?」


「……クイーンが復活した!

 それに、見たことない敵もいる」


「見たことない……敵?」


「それは、我輩が説明しよう」


 リースの後ろからガルターが現れた。

リースよりもボロボロで、身体のいたるところから血が流れている。


「おいおい……大丈夫かよ」


「待っててください!

 今回復を……!」


 ソフィアがガルターとリースにヒールをかける。

みるみるうちに傷がふさがっていった。


「このレベルの回復魔法を見るのは初めてだ。

 迷惑をかける」


 ガルターが礼を言う。

そして一呼吸置いた。


「すまない。

 それで、見たことない敵についてだが。

 ソイツは人間になりすましていた」


「……マジか」


「だから気づけなかった。

 避難誘導中に正体を現し、人々を襲った。

 我々は時間稼ぎをするために戦ったが、このザマだ」


「で、ソイツは今どこに」


「ここにいる」


 気がつくと、ソイツは喫茶店の椅子に座っていた。

珈琲を飲み、優雅にくつろいでいる。

その視線の先は、ソフィア。


「あぁ……ソフィアさん。

 今日もお美しい……。

 けれど、そんなソフィアさんをここで殺さなければならないなんて。

 王は酷なことを命令する」


「……ジャック?」


「……あぁ、そういえば()()()は君の友人でしたね。

 設定を忘れるところでしたよ。

 申し訳ありませんが、君の友人を、少し借りていました。

 初めて君が変身した日、ジャックという人間の身体の中に入ってから、ずっと」


「気配を消すのが……うまいらしいのう」


「得意なんですよ。

 ここで、正体お披露目というわけですが」


 ジャックは……いや、ジャックの身体を借りていたヤツは、正体を現した。

鋭い目をした、鷹のような男。

腕と翼が一体化しており、羽の一枚一枚が、黒鉄のように輝いている。


「私の名前はガルナ。

 ザサンがお世話になったようですが、まさか彼が負けるとは思ってもいませんでした。

 まぁしかし、クイーンのおかげで王は復活。

 計画通り、貴方方を抹殺します」


「……おいチビガキ。

 お前が太陽をどうにかすんだよな」


「……あぁ」


「じゃあ、ここはオレに任せな。

 時間がねーんだ、作戦始めるしかねーだろ」


「……礼を言うぞ、ヴァイト。

 すべてを終わらせて、また会おう」


「ハッ!

 当たり前だ。

 失敗したらただじゃおかねーからな、カーミラ!」


 変身するヴァイト。

槍を構え、ガルナの前に立ちふさがる。


「行け、お前ら!

 一番槍はオレにやらせろ」


「……いや、我輩も残ろう」


 ガルターが剣を構え、ヴァイトの横に立った。

怪我はもう完治している。


「……いいのかよ。

 アンタ、騎士団のお偉いさんなんだろ。

 死ぬかもしれねーのに、いいのかよ」


「ギルガンナの(せがれ)よ。

 もとよりそのつもりだ。

 騎士としての誇りと生命。

 すべて賭けてでも、戦い抜いてみせよう」


「戦いぬくんじゃねー。

 勝つんだろーが」


「……そうだな!」


 二人は同時に地面を蹴った。

ヴァイトがアイサインを送ってくる。

俺は戸惑いながらも頷き、走る。


 俺、カーミラ、ソフィア、リースの4人で王城を目指す。

カーミラ曰く、絶好のポイントでなければ太陽をどうにかできないらしい。


 走って走って、走る。

不意に目の前を霧が包む。

霧の中には、クイーンが立っている。


「……お主、姿が」


「あら久しぶり。

 私ぃ、ソフィアちゃんと分離しちゃってぇ、不完全になったの。

 でもぉ、王が私をさらに美しい姿にしてくれたのよ!」


 クイーンの上半身。

女性の部分はもとに戻っている。

さらに言うなら、胸が大きくなり、背には幾何学模様が。

ティアラのようなものを被っていて、髪の毛の蛇は、真っ白になっている。


「面倒なヤツじゃ……

 ノア!

 こうなったら全員でやるぞ!」


「その必要はないわ」


 ソフィアがクイーンの前に立つ。

変身し鎧に身を包むと、魔法陣を展開した。


「プロテクション、ヴァリアブルミラー、ディアブルレッグ、ヴァルキュリア、ファルシオン!」


 いくつもの魔法を同時に詠唱。

すると、俺たち全員に支援魔法がかかる。


「今の私にできるのは、これだけ。

 私の決着は、私がつけるから……ノアたちは……!」


「あら、私の元カノちゃん。

 邪魔するつもり?

 でも、たった1人で勝てるのかなぁ?」


「……1人ではない。

 私が助太刀しよう。

 貴様は、父の仇だ」


 リースが抜刀する。

ソフィアの隣に立ち、剣を構えた。


「あらあら?

 両手に花ねぇ。

 全部摘み取って、王への献上品にしちゃおうかしら」


 クイーンは両手の爪を伸ばし、構える。

リースがこちらを見て、ただ1つ、頷いた。


 俺はそれを見て頷き返し、カーミラの腕を掴んで走り出した。

向かうは王城。

ルクスのいる場所。

世界の滅亡は着々と迫ってきている。


世界の終末まで、残り1日。

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