32話 心の在処
その日の夜。
月が赤く、不気味に輝いていた。
皆が寝静まった夜中に、ヤツは動き出した。
おもむろにベッドから起き上がったソフィアは、フラフラとどこかへ歩いていく。
俺、リース、ヴァイト、カーミラの4人は、ソフィアを尾行。
着いていくと、ソフィアはとある一軒家の中に入っていった。
「見たとこ普通の家だが……
なんであんなとこに?」
「ネコ坊主にはわからんか。
あの家は"繭"じゃ。
おそらくは……」
「大いなる闇……」
あの一軒家は、俺とティクルが訪ねた家だ。
まさか繭だったとは思いもよらなかった。
「さて、妾たちには今、選択肢がある。
クイーンが出てくるのを待つか、妾たちから攻撃するか」
「それか、狙撃するか。
ですね?」
「そうじゃな、それも……
って、お主誰じゃ!?」
「あ、バレましたか」
いつの間にか、ティクルがいた。
ティクルは「やべっ」みたいな顔をしているが、本人が喋らなければバレなかったと思う。
「よくみりゃ、坊主と一緒にいた嬢ちゃんじゃねーか」
「ティクル、なんでここに?」
「私はジャーナリストです。
真実を突撃取材するのが使命ですから」
「……理由になってないような」
「そ れ に!
ノアが言ったんじゃないですか。
『俺が悪者じゃない記事は、お前にしか書けない!』って。
密着取材くらいしないと、記事は書けませんから!」
目を光らせるティクル。
普通あんなことがあったら、ビビってしまうと思うのだが。
しっかりと真実を追求することは忘れない。
ジャーナリストさまさまといったところか。
「どうすんだ坊主。
嬢ちゃんを連れてくのは危険だぞ」
「そうだけど、このまま置いてくのも危険だ。
俺たちで守るしかない」
「……結局連れてくってことか。
しゃーねぇ。
覚悟決めろよ、嬢ちゃん」
「覚悟はとっくに出来てます。
さぁ、行きましょう!!」
「何で嬢ちゃんが仕切ってんだ」
俺たちは『突撃』をすることに決めた。
4人と1人で家の四方を囲み、俺、ヴァイト、カーミラで同時に攻撃を叩き込む作戦だ。
「少々手荒だが、エルフのねーちゃんの中にいるクイーンを引っ張り出すにはこれしかねぇだろ」
「手加減を忘れるなよネコ坊主。
もし黒コゲにでもしたら、マスターが怒って大変じゃぞ」
「怒るどころの騒ぎじゃねーな」
全員でポジションにつく。
俺とティクルが北、ヴァイトが東、カーミラが西、リースが南。
俺たちの同時攻撃で敵がリースの方に逃げる可能性がある。
そうすると、俺たちはそっちに行くまでに数秒はかかる。
一瞬でも時間を稼いでくれとリースに頼んだので、ここはリースを信じるしかない。
「「「変身!」」」
3人で声を揃える。
同時、俺は刃を飛ばし、ヴァイトは槍を放ち、カーミラが魔法を撃った。
三方向からの攻撃に、家は木っ端微塵になる。
「……どうだ?」
粉塵が舞って何も見えない。
やがてそれが晴れると、瓦礫の山が見えた。
「どういうことだ。
エルフのねーちゃんがいねーぞ」
「ヴァイト!
あれ!」
よく見ると、地面に大きな穴が空いている。
家の床を貫通し、地面に穴を空けてクイーンが逃げたんだ。
「ノノノノノア!!
あれ! あれです! あれ!」
ティクルが俺を叩く。
ティクルの視線の先を見ると、そこにはクイーンの姿があった。
「くそ!
回り込まれてたか!」
武器を構えた直後、目に見えないスピードで尻尾に薙ぎ払われた。
地面を転がり、数メートル先まで吹き飛ぶ。
「ノア!」
気づいたヴァイトとカーミラがこちらに駆けてくる。
しかし、瞬時に尻尾で攻撃され、二人とも吹き飛ばされた。
「は、早い……!」
ヴァイトが体勢を整えながら言う。
この前とは桁違いの速さだ。
「これは……本気を出さないといけんかの」
ヴァイトとカーミラが立ち上がる。
俺も体勢を整え二人と合流し、クイーンの前に立ちふさがった。
リースがティクルを保護してくれている。
ティクルはリースにまかせよう。
「クイーン……!
ここで俺は、俺たちは、お前を倒す!」
「あら、いいの?
私を倒すってことはぁ、ソフィアちゃんを殺すってことよ?」
「そうはいかねー。
てめーを倒してエルフのねーちゃんも助ける」
「あーら威勢のいいセリアンスロープニャンねぇ。
おねぇさん、嫌いじゃないわよ、オラオラ系」
「からかってんじゃねー!
今すぐ脳天に槍をぶっさしてやろうか」
「キレるでない。
言葉に翻弄されれば、目的を見失う」
カーミラがヴァイトを諭すと、ヴァイトは舌打ちして構えを解いた。
クイーンはそれを見て嗤う。
「流石はヴァンパイア。
私のキライな種族だけあるわ」
「奇遇じゃな。
妾もお主は大嫌いじゃ」
静かな空気が流れる。
いつ、誰が、どう動くのか。
時がゆっくりと流れていく。
やがて月が雲に隠れた瞬間、その時は訪れた。
クイーンが動く。
身体を地面に這わせ、高速で移動すると、まずはカーミラを狙って攻撃。
カーミラは紙一重でそれを躱し、距離をとる。
俺とヴァイトが両サイドから攻撃をしかけるが、魔法で作り出したバリアに防がれた。
「面倒な魔法を使うじゃねーか!」
「バリアの魔法……
ハイエルフの得意技だってソフィアが言ってた」
俺とヴァイトも距離を取る。
状態は先と変わらず、再び膠着状態になった。
今度はこちらから仕掛ける。
ヴァイトが先陣を切って駆け出す。
同時、カーミラが魔法陣を展開した。
俺は紋章の力を開放し、真の姿になる。
「安直な攻撃ね!
でも、スキよ!」
尻尾に捕らわれるヴァイト。
それを読んでいたカーミラは、魔法を放った。
「プリズムレイン!」
光の結晶が天から降り注ぐ。
結晶は綺麗にヴァイトを避け、クイーンだけを攻撃する。
魔法攻撃を受けて、クイーンはヴァイトの拘束を解除。
ターゲットをカーミラに変える。
ヴァイトは槍を構え、紋章の力を開放した。
全エネルギーを槍に集中させると、青白い稲妻が槍を包み込んだ。
「おらぁっ!!」
ヴァイトが槍を放つ。
カーミラはヴァイトの攻撃を見て、魔法陣を展開。
「クリスタル・プリズン!」
クイーンの周りに巨大な結晶を生み、クイーンの行動が制限される。
そして、ヴァイトが放った一撃がカーミラへ。
雷を纏った一撃は、クイーンの直前でストップ。
槍から雷撃が放たれ、クイーンをダウンさせると同時、麻痺させる。
「坊主!
今だ!」
「わかってる!」
今までの間、俺は拳に全エネルギーを集中させていた。
緋色の稲妻が拳を包み、今か今かと開放を待ちわびている。
ヴァイトの攻撃が放たれた瞬間、俺は、もう駆け出していた。
結晶による拘束、ヴァイトの一撃による麻痺、そして、俺の……!」
「目を覚ましてくれ!
ソフィア!!!」
拳をクイーンめがけて放つ。
拳はクイーンに当たらず、直前で激しい光を放った。
ザサンにも、似たような攻撃をしたことがある。
それで気がついた。
この光による一撃は、浄化の一撃。
暖かな光は、未来を照らす光。
その者の、心を写す光。
もし、ソフィアに意志が残っているなら。
クイーンとソフィアがまだ乖離しているなら。
可能性は、ある。
「くっ……!
何よ……! この、光は!
く、苦しい!」
クイーンが苦しみの声を上げる。
光は、どんどんクイーンを包み込んでいく。
「ノ……ア!
やめ……て!」
クイーンがソフィアの声を出す。
しかし、それが彼女の言葉でないことは、俺にはわかる。
「目を覚ましてくれ! ソフィア!
俺の言葉を聞いてくれ!」
クイーンの中の、ソフィアに語りかける。
身体中の力を、拳に宿しながら。
「俺は…… 俺はどこにもいかない!」
「……ノ、ア?」
「俺はどこにもいかない!
ソフィアがどっかに行っちゃったら、約束はどうなるんだよ!
俺は、俺は……!」
光が強くなる。
まるで朝日が昇ったかと錯覚する眩しさだ。
「俺は、どこにもいかない!
守りたいものが、いっぱいあるから!
だから、目を覚ましてくれ! ソフィア!!」
一際激しい光が、辺りを照らす。
光の先に、その姿はあった。




