30話 矛盾
「く……くそっ!
このままじゃ!」
クイーンに締め上げられた俺は、身動きができないままでいた。
締め付ける力はどんどん強くなっていき、身体へのダメージも増えていく。
「あらぁ?
伝説の戦士の力も、随分弱くなったのねぇ。
このまま締め付けられてイっちゃうのかしら?」
「……やるしか、ない!」
眼の前にいるのは、マガツビトのクイーンだ。
マガツビトが相手なら、やるしか、ない。
全身に力を溜める。
紋章の力をフルで開放させると、身体が光に包まれた。
次の瞬間には、俺の肉体は真紅に変わっていた。
「あらぁ?」
クイーンが驚き一瞬力を抜いた瞬間。
身体の内側にあるエネルギーを外に向けて放射することで、クイーンの束縛から脱出する。
「見たことないわねぇ。
その姿は」
クイーンは驚きながらも体勢を整えた。
真の姿でいられる時間は少ない。
このままヤツを倒すか、隙を作って逃げるしかないだろう。
輝光竜剣を召喚し、駆ける。
クイーンの尻尾攻撃をジャンプで躱すと、刃を逆さまにして紫色の鱗に突き立てた。
しかし、鱗が固く剣が通らない。
「ふふふ。
ガードは硬いのよ」
すぐに振り払われ、お互いに距離をとった形になる。
鱗が硬すぎるなら、ヒト型の上半身を狙うしかない。
輝光竜剣に紋章の力を送り込み、光の刃を創り出す。
剣を振り抜くと共に、光の刃がクイーンめがけて放たれた。
しかし、それはクイーンの眼の前に現れた壁に防がれる。
「甘いわねぇ。
すっごい甘い。
すっかり食べごろって感じじゃない」
クイーンの眼前に現れた壁は、全て蛇で作られていた。
クイーンと同じ、紫色の鱗を持つ蛇を肉壁にしたのだ。
「駄目だ……!
どうにかヤツの間合いに入んないと……!」
その場から駆けるが、クイーンの手に緑色の魔法陣が展開するのが見えた。
咄嗟に横に回避すると、今までいた場所に緑の刃が放たれる。
あの技は……!
「ウィンドアロー……!」
「ぴんぽーん、大せいか~い。
ソフィアちゃんと一体化してる……まぁ元々一人の存在だから?
あの子が覚えた魔法を使えるのは当然じゃない?」
言いながらクイーンが手を振ると、地面を突き破り蛇の尾のようなものが現れる。
触手のようなそれは、俺の足と腕を一瞬で拘束し、身動きできなくなった。
「また縛りかよ!」
「私ぃ。
一方的に痛みを与えるのが好きなの。
苦痛に悶える顔、絶望に満ちた顔、全てを諦めた顔……
それが見られるから、人間はイイのよぉ?」
「お前も……ザサンと同じマガツビトだろ?
なんで、こんなことを……!」
「あの堅物ちんちくりんと一緒にしないでよね。
私にとって迫害だとか戦争とかはどうでもいいの。
この力で、目の前の存在を屈服させるのが、最高の娯楽……それで充分」
「狂ってる……!」
クイーンは指で何かのサインを描いた。
すると、空間を割って幾多の蛇の群れが俺に襲いかかってくる。
一匹一匹のダメージは大きくなくても、大量の……それに動けない状態でこの攻撃を受けるのはヤバイ。
やがて蛇の群れはいなくなり、拘束も解かれた。
しかし、そのころにはエネルギーを消費しすぎて変身が解除されていた。
生身の状態でクイーンを相手にするのは、無理。
「よく頑張ったわぁ、褒めてあげる。
でも、ここで終わりよ」
クイーンが爪を振り上げる。
思わず目をつむった時、クイーンの叫びが聞こえた。
見ると、クイーンの左肩にクロスボウの矢が刺さっている。
「ノア!」
声の方向を見ると、そこにはヴァイト、カーミラ、リース。
そしてジョンさんがいた。
ジョンさんがクロスボウでクイーンを攻撃したのだ。
クイーンが痛みでその場を放たれ時、すかさずヴァイトがこちらに駆け寄る。
俺を抱えてその場を離脱。
「おい坊主、大丈夫か!」
「あ、あぁ……大丈夫」
「まったく……無理をしおってからに」
すぐ横にカーミラが来ていた。
いつでも変身できるように、2人は戦闘態勢をとる。
「自分の娘が非行に走ったら、止めてやんねぇとな。
ノア、大丈夫か?」
ジョンさんはボウガンの矢を交換し、言った。
そして構え、狙いを定める。
「ジョンさん……俺のこと……
それに。ソフィアの正体を知って……?」
「説明は後だ。
とにかく、まずはこの場を切り抜けるぞ」
俺の前にジョンさん、ヴァイト、カーミラ、リースの4人が立つ。
クイーンは目を赤く光らせ、こちらを睨みつけた。
「……やはりそうだ。
遠目でもわかった。
ヤツが……ヤツが父さんを……!」
リースが剣を構える。
いつか聞いた、リースの父親を殺した怪物。
特徴の一致と、記憶から、犯人はクイーンだと確信したようだ。
怒りに震えるリース。
しかし、その剣には迷いが見えた。
「……わかるぜ、騎士さん。
お前さんが仇討ちしようとしてる相手は、ソフィアだ。
短い間だったが、同じ屋根の下で暮らした中だろ。
当然の迷いだ」
ボウガンを構えながらジョンさんが言う。
姿が変わっても、今眼の前にいるのはソフィアだ。
俺はそれを、少しもわかっていなかったかもしれない。
「ウザいわねぇ……ホント。
でも、貴方たちが束になったって、私には敵わな……!」
突如、クイーンが苦しみだした。
胸を抑え、身体をくねらせながら呻き声をあげる。
「な、なんだ……?
あの蛇女、どうしちまったんだ?」
「どうやら、まだ完全に一体化してはおらぬようじゃな。
クイーンの魂が、はじき出されようとしておる」
カーミラが言うと、クイーンは身体から霧のようなものを噴出させる。
霧が消えると、そこには全裸のソフィアがうつ伏せで倒れていた。
「クイーンを……抑え込んだ、のか?」
「どうじゃろうな……
しかし、邪悪な魔力の増幅は感じぬ。
一旦は、治まったと考えるべきじゃろう」
全員に沈黙が流れる。
やがてジョンさんがボウガンを肩にかけ、頷いた。
それを見て、全員が頷く。
「一回帰るのが正解だな。
エルフのねーちゃんだけじゃなく、騎士のねーちゃんやノアも落ち着いた方がいいだろ」
リースはもう一度頷くと、ソフィアの元に駆け寄った。
リースはソフィアの身体を起こした瞬間、動きを止めた。
「どうした、騎士のねーちゃん。
早くしねーと厄介なことになるかもしれねーぜ」
「わかっている……でも、これは……」
こちらを見るリース。
俺とカーミラ、そしてヴァイトはリースの元へ行く。
そこには勿論、全裸のソフィアがいるのだが……
「おいおい……こりゃ……」
「なるほど……これは妾にも予想できんかった」
「……こんなこと、あるのか」
俺たち3人は、言葉少なく驚いた。
それもそのはず。
ソフィアの胸部に、緑色に光る紋章が宿っている。
エルフを模した紋章。
それは間違いなく、伝説の戦士の証。
四人目の戦士は、すぐ近くに存在していたのだった。




