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26話 霧

「着きましたー!

 ここが黒い竜の怪物のアジトです!」


 ティクルが連れてきたのは、街外れにある一軒家だった。

あまり手入れがされておらず、伸びた蔦や草で大変なことになっている。


「こ、ここが……?

 なんか人とか住んでなさそうだけど」


「でしょ?

 だからこそ、怪物はここにアジトを構えたわけなんですよ!」


「いやいや……

 ていうか、そもそも目撃情報とかあるのか?」


「ありますよー、勿論。

 ここ数日、黒い甲冑を着た不審人物が出るらしいです。

 特徴は、黒い甲冑、竜のような兜、突然消える。

 これらを照らし合わせると、まさに黒い竜の怪物じゃありませんかっ!?」


 力説するティクル。

特徴だけで言えば、俺にそっくりではある。

でも俺はこんなところに来てはいないので、明らかに偽物か人違いだ。


「この情報、まだ騎士団も知らないんです……!

 情報が新鮮なうちに、早く行きましょう!」


 勢いよく先行しようとする彼女を大慌てで止める。


「いやいや待て待て待て。

 まさか普通に乗り込むつもりじゃ……」


「それ以外何があります?

 突撃以外だと……

 あっ、狙撃とかですか?」


 やけに物騒なことを言う。

この子は突撃するか狙撃するかしか、考えがないのかもしれない。


「もし本当に黒い竜の怪物がいたらどうするんだよ。

 噂通りなら、俺たちボコボコにされてもおかしくない」


「確かにそうですね

 でも……」


 ティクルはそう言って俺に向き直った。

真剣な眼差しで俺を見る。


「私、黒い竜の怪物は、悪い怪物じゃないと思うんです」


「悪い怪物じゃない……?」


「はい。

 街のみんなや騎士さんたちは、怪物をみんな怪物というくくりにしてます。

 でも、怪物の中にもいい怪物がいると思うんですよ」


「いい怪物って、人を襲わない怪物じゃないのか?」


「そうかもしれません。

 でも、黒い竜の怪物が人を襲ったって話もきかないじゃないですか」


「た、たしかにそうだけど……」


 何かの確信があるわけではない。

でも、なんとなくそう思う。

ティクルは一種の勘のようなもので判断しているのかもしれない。


「大体、誰も倒せてない怪物が、街を襲わないのはなぜです?

 そんなに強いなら、いまさら街はボロボロです。

 なんで襲わないんですか!?」


「お、俺に言われてもなぁ……

 あの、アレだ、何か理由があるとか……

 逆に、ないとか……」


 言った瞬間、ティクルが固まった。

三秒ほど固まったかと思うと、突然どこからともなくノートを取り出して何かをメモ。

書き終えると、俺に親指を立てた。


「ナイスですノア。

 完璧じゃないですか!」


「な、何が!?」


「黒い竜の怪物は、街を襲わないんじゃないんです。

 襲う理由がないんですよ!」


「は、はぁ」


「他の怪物は街を襲っています。

 それは多分、上から命令されてるとかそういうのです。多分。


「多分って」


「でも、黒い竜の怪物は、命令とかがされているわけじゃなく、独立しているんです」


「な、なるほど?」


「黒い竜の怪物は、何か別の目的でこの街に現れているんです。

 それさえ掴めば、明日の記事は完成します!」


 それが難しいんじゃないかなぁ。

と、黒い竜の怪物本人は思うわけです。


「というわけで、このアジトに突撃しましょう!」


 一瞬目を離した隙に、ティクルは一軒家の扉を開いた。

ノックもせずに。まさに突撃。


「おい!

 流石にそれは失礼……って」


「……え。

 なんです、これ」


 扉の先は、確かに家だ。

しかし、その家は異常だった。


 まるでジャングル。

緑、自然に侵食されたようになっており、ところどころが腐敗していた。

巨大な花がテーブルと思わしき家具から生えており、ハエがたかっている。

床には草が生い茂っており、大量の蛇が這い回っていた。


 それらをひとしきり見た後、ティクルは扉を閉めた。

一呼吸して、言う。


「見なかったことにしましょう」


「できるかぁっ!」


「いや、冷静に考えましょう。

 あれは、無理です。

 人が立ち入れる領域じゃないですよ「


「わかってるよそんなことは!

 でもみなかったことにできるレベルでもないじゃん!」


「当たり前です!

 見なかったことにしておいて放っておきましょうって話じゃないですか!

 私はか弱い乙女なんですよ!?

 トラウマになって夢とかに出たらどうしてくれるんですか!? どうするんですか!?」


「逆ギレすんな!!」


 ギャーギャー2人で騒いでいると、少し落ち着いた。

いやまさか家の中に自然あふれる土地が広がってるなんてなぁ。

ははは、夢だよ夢。

そういうことにしておく。


「でもこれだけ異様だと、怪物の一匹や二匹いてもおかしくないですね」


「おかしくないって、どういうことだよ」


「雰囲気的に……?

 出てもおかしくないなって」


「えぇ……」


 その時、王都中央広場の方で大きな物音がした。

遠くから人の悲鳴がきこえる。


「話をしてたら、もしかして本当にでちゃいました……?」


「そんなわけ……!

 多分、何かの事故……だと思う」


「なんで分かるんですか?

 超能力者ですか?」


「いや、それは……」


 理由は簡単だった。

紋章が反応していない。

マガツビトが現れれば、紋章が反応するはず。


「勘、だよ」


「勘ならしょうがないですね。

 でも、我々はジャーナリストです。

 事件あるところに闇あり、闇あるところに陰謀あり。

 真実を伝えることが我々の使命です!」


「何で俺もジャーナリストになってるんだ!

 って、おい、待て!」


 走り出すティクル。

彼女の後を追っていくと、問題の広場にたどり着いた。

そこには信じられない光景が広がっていた


「……嘘、だろ」


 破壊された街並み。

騎士の死体。

むせ返るような、グロテスクな臭い。

その中心に立っていたのは。


「……なんで、どういうことだよ」


 黒い竜を模した鎧に身を包んだ異形。

かつて噴水広場で見た時と、間違いなく同じ姿の俺。


俺が、霧の向こうに立っていた。

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