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25話 天真爛漫なジャーナリスト

最近、霧が濃い日が続いている。

それ以外、目立ったことはなかった。


 ザサンの件の後。

俺たちは平和を謳歌していた。


 あれ以来、一度もマガツビトは現れていない。

街の警備も以前よりは厳重でなくなった。

相変わらず紋章は宿っているので、危機が去ったわけではなさそうである。


「しっかし、こうも暇だとどうしたらいいかなぁ」


 学校からの帰り道、ふと呟く。

それを見て隣のジャックが笑った。


「平和ボケしすぎじゃないのか?

 いつまた怪物が襲ってくるかわからないんだぞ?」


「まぁそうだけどさ。

 学校と店の手伝いで人生が流れてく感じが凄いんだよ」


「前からそうだったろ」


 何気ない会話をしているうちに、大通りへ入った。

前に謎の占い師がいた場所には、誰もいない。

てっきりまた会えるかと思っていた。


「そういえば、聞いたか?」


 ジャックが問いかける。

主語がないのでよくわからない。


「何が?」


「怪物を倒す、戦士の噂だよ」


 一瞬、思考が固まった。

ジャックが言った言葉を解釈するなら、俺達の話ということになる。


「カ、カイブツヲタオスセンシ?」


「あぁ。

 なんでも、怪物が現れるとどこからともなく鎧の戦士が現れるんだそうだ。

 セリアンスロープのような獣の鎧。

 ヴァンパイアのような吸血鬼の鎧。

 二人の戦士の目撃情報がある」


「……ふ、2人だけなのか?」


「……?

 あぁ、後は黒い竜の怪物がいると聞いた。

 何度も街に現れているが、誰も仕留められていないそうだ」


「そ、そうか……

 怖いな、そいつ」


 思わずため息をつく。

俺、まだ敵だと思われてるのか。


 いや、見た目はいいんだ、もう諦めたから。

怪物と戦っている時は、できるだけ人に見られないようにしてるから仕方ない部分もある。

でも、もう少しいい噂がほしい。


「ないなら、つくればいいのか……?」


 リースやヴァイト、カーミラに協力してもらえばなんとかなるか?

俺が敵ではなく、味方であることをさり気なくアピールしてもらうとか。

それだ。


「悪いジャック。

 ちょっと急用を思い出した!」


「え、おい。

 店の手伝いはいいのか?」


「ちょっと遅れる!

 伝えておいてくれ」


 ジャックを残し、走る。

ヴァイトとカーミラ、2人共今日は店に来ないと言っていた。

リースも今日は仕事だと言っていたし。

適当に走り回って見つけるしかない。


 辺りを見回しながら走っていると、急に誰かにぶつかった。


「あ、ごめん!」


 そこにいたのは少女だった。

背が低く、周りの人に埋もれていたので見えにくかった。

晴れていれば見えたかもしれないが、今日は霧が濃い。

注意してなかった俺が悪いな、これは。


 よく見ると、手に沢山の書物を抱えている。

落ちなくてよかった。


「あ、こちらこそすみません!」


 彼女は軽く礼をした。

それを見てもう一度謝りつつ、探すのを再会しようとした。


「あの、ちょっといいですか?」


 声をかけられた。

少女が俺の袖を掴んで離さない。


「えっと、なんでしょう?」


「黒い竜の怪物。

 それについて何か知りませんか?」


 彼女の手が俺袖を話した瞬間、の本日二度目の思考停止が起こった。

なんで?

なんでこのタイミング?


 「あ、それ俺です」なんて言えるわけないし。

というか彼女はなぜそれを聞こうとしているんだろうか。


「え、あ、いや、シラナイナー。

 ちょっとわかんないですね」


「まってください!」


 言い残して行こうとするが、再び袖を掴まれてしまった。

いや、できれば立ち去りたい。そういう一心。


「あの、今度は?」


「黒い怪物が、キロフォード領で確認されたそうなんです。

 今噂の、怪物を倒す戦士と戦っていたらしいのですが」


 ここで俺はピンときた。

俺が怪物認識されているのには様々な理由がある。

そのうちの1つが、この噂だ。


 俺は闇に飲まれていた時、ヴァイトやカーミラを襲った。

それを見ていたのは多分、エレナ卿の付き人。

彼が噂を流したのだ。


 そりゃ、仲違いしてるタイミングだから?

俺が『怪物を倒す戦士』と戦っているので?

敵だと思われるよね普通。

……最悪だ。


「あー、そうなん、ですね。

 ちょっとその辺りは詳しくないので……

 では、また!」


 行こうとすると、三度袖が掴まれた。

袖を掴む力がやたら強く、引き戻される。


「……あの、なんでしょうか?」


「私、黒い竜の怪物を調査してるんです。

 知ってますか? レストレアジャーナル。

 記者なんですよ」


「あぁ、知ってる。

 新聞だろ?

 掲示板とかに張り出されてるのもよく見る」


「あー、ならお話が早いです」


 彼女はそう言うと、レストレアジャーナルの記事を見せてきた。

『未確認生命体!? 黒い怪物の謎を追う』という次回予告が書かれている。


「明日中に記事を完成させないとダメなんですけど、実はまだ一文字も書けてなくて」


「……それを」


「手伝って欲しいんです」


「却下!」


「えー!

 なんでですか!?、なぜですか!?

 か弱い乙女が助けを求めてるんですよ?

 ここは助ける場面じゃないですか! タイミングじゃないですかー!」


 急に饒舌になった。

むしろこれを狙ってぶつかってきたのでは?


「いや、俺も忙しいし。

 大体、締切がヤバイのは俺のせいじゃないだろ?

 自分でなんとかするべきだ」


「それは、もちろんそうです。

 でもでも、さっきぶつかった縁があるじゃないですか。

 こんなに沢山人がいるのに、偶然、このタイミングでぶつかるって運命感じちゃいません?

 っていうかもう奇跡じゃないです?」


「か、感じない。

 凄い盛るな、いろいろ」


 この子は強い。

なんというか、圧が。

捕まえて離さないという感じの執念に似たものを感じる。


「ねーいいでしょー。

 お願いなので手伝ってくださいお願いしますできる限りのお礼はしますからー……」


「そんなこと言われてもなぁ……」


 ……ん? まてよ?

この子はレストレアジャーナルの記者だよな?

黒い竜の怪物が、実はいいヤツみたいな記事を書いてもらえば、印象がよくなるのでは?

あっ、それじゃん。

そうなとれば!


「あー、うん。仕方ないなぁ。

 まぁ、なんだ、ここで会ったのも何かの縁だ。

 わかった、手伝おう」


「本当ですか、マジですか?

 ありがとうございます、サンキューです!」


「お、おう……

 協力するのはいいけど、情報を悪用したりとかダメだからな」


「わかってますよもちろん。

 これでもレストレアジャーナルの記者ですからね。

 そこらへんはうまいことわきまえてますよ」


「ならいいんだ。

 それで、記者さんはなんていう名前なんだ?」


「そういえば自己紹介がまだでした。

 私はティクル=アーペンです。

 親しみを込めて、ティクルと呼んでいただいて結構ですよ?」


 ティクルはそう言って手を差し出した。

なんか、なんだろう。

距離感が難しいな、この子。


 いや、向こうがそういう感じなら、俺も合わせた方がいいな。

そっちの方が楽だし。


「よろしく、ティクル。

 俺はノア=アルカだ。

 ノアって呼んでくれ」


「ノアですね。

 わっかりました。

 ではでは、早速行きましょー!」


「行くって、どこに?」


「黒い怪物のアジトに、ですよ」


 アジト……?

そんな場所あったっけ……まさか喫茶店でもないだろうし。


 ティクルはずんずんと目的の場所へと歩いていく。

もしかしたら俺は、とんでもないことに自ら首を突っ込んでしまったかもしれない。


「何してるんですかー?

 早く行きますよー!」


「あぁ、悪い悪い!

 今行く!」


 心の奥底から湧き上がる『不安』の二文字。

この感情でまた闇落ちしたらどうしてくれるんだ……

などとも言えない俺であった。

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