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外伝7 霧の中の白昼夢

 燃える里を背に、私は一人、彷徨い歩いていた。

エルフの森が、燃えている。

私の住む世界が、燃えている。


「誰か……誰か、助けてぇぇええええ!!」


 私の声は、火の音にかき消され、溶ける。

やがて全身に力が入らなくなって、その場にへたり込む。


 一瞬で、里が滅ぼされた。

怪物によって、滅ぼされた。


 そして私は、ただ一人生き残っている。

走って、走って、走って、だたひたすら逃げた。


 でも、もう駄目だ。

死。

心臓の鼓動が早まるのと同期して、死の足音がやってくる。

迫りくる恐怖に、吐き気を催した。


 燃える木々が倒れる音。

顔を上げると、そこには里を滅ぼした怪物がいた。


 蛇のような下半身を持ち、全身が不気味な紫色の鱗で覆われていた。

上半身はヒト型、女性のようだ。

長い髪が触手のように蠢くのを見て、私は動けなくなる。


「何を、願う?」


 異形が語りかける。

不気味な7つ目がこちらを見つめ、鱗が火を反射して赤く光った。


「何を願うの?

 エルフの子供ちゃん」


 悪魔の囁き。

エルフの古い伝承に残されいる。


 願いを叶える悪魔は、願いを叶える代わりに大事なものを奪うという。

子供のころ、誰もが聞く御話。


「わ、わたしは……」


 眼の前に悪魔が迫る。

悪魔は身体をうねらせ、ゆっくり、ゆっくりとその身体を近づけた。

少しでも動いたら、触れてしまいそうな距離。


「何を、願う?

 何でも叶えてあげるわ」


「わたしは……いきたい」


「いきたい。

 生きたい……。

 生命を、繋ぎ止めるのが願い?」


 涙を流しながら、ひたすらに頷く。

恐怖に支配され、今にも狂いそうだ。


「わかった。

 その願いを、叶えてあげましょう」


 瞬間、辺りが光に包まれた。

霧のようなものが私の身体に入ってきたかと思うと、柔らかな心地に支配される。

次の瞬間にはもう、ベッドの中にいた。







「あれ……私、なんでここに?」


 いつものように、ベッドに入って眠りについた。

はずなのに、気がついたら見知らぬ場所にいる。


 辺りを見回す。

普通の家……。


 テーブルがあって、椅子があって、2階建ての一軒家。

けれど、妙に暖かく感じる。

少しだけ、幸せな心地もする。


 扉を開いて外に出ると、夜だった。

霧が立ち込めていて、少し不気味な雰囲気。

霧が深くても、ここが街の外れの方であることはわかった。


「私、なんでこんなところに……?」


 記憶を辿ろうとすると、頭が痛くなった。

頭の中がごちゃごちゃして、よくわからない。


「家に……帰らないと」


 家……。

私の家って、どこだったっけ?

っていうか、私は、誰だっけ?


「あれ、おかしいな……

 どうしちゃったんだろ、私」


 少しして、思い出した。

私はソフィア。

ハイエルフの、ソフィア。


 でも、なんで思い出す必要があったんだろう。

疲れているからかな。

何で疲れてるんだろう、私。


 何もかもがわからなくなっていく。

まるで私が、私じゃなくなっていくみたい。

違う、最初から、私なんてなかったみたいに。


 ふらふら彷徨って、喫茶店に戻ってきた。

私の家、喫茶『シャーロック』


 裏口からそーっと入る。

お父さんとノアは寝ているみたい。

自室のドアをそーっと開けて、ベッドに横になった。


 ひどく疲れている。

街の外れから歩いてきたからかな……。

でも、あの家にいた時から、疲れてたよね。


「あのお家、すごく落ち着くお家だったなぁ」


 想いを馳せる。

なんであんなに落ち着く家だったのかわからない。

そもそも、なんであんな場所にいのかな。


「ハイエルフの私でもわからないな」


 瞼が重くなる。

眠い。

深い微睡みに身を落とすと、心が楽になった。


 霧が立ち込める夜。

私は森の中に光る、7つ目の怪物の夢を見た。

怪物はが、私に近づいてきて、やがて飲み込もうとする。

目は、覚めなかった。


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