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23話 宿命を越えて

「伝説の……竜の戦士」


 ザサンが呟いた。

今の俺には、未知のパワーが宿っている。

体の奥底から湧き上がってくるエネルギー。

それは静かで、激しい。


「我の闇を払ったことは褒めてやる。

 だが、姿が変わった程度では!」


 ザサンが駆ける。

だが、今の俺にはスローモーションにしか見えない。

ゆっくりと剣を構える。


 輝光竜剣。

光り輝く剣は、迷いなく、闇を斬り裂く。


 眼の前にザサンが迫る。

剣をゆっくりと、確実に振り抜くと、音も立てずにザサンを斬った。

血の一滴も剣にはついていない。

しかし、ザサンの胴体には刀傷が刻まれていた。


「な、なんだ!?

 何が起きた!?」


 胸を抑えるザサン。

赤黒い血が滴り落ちる。

俺を睨みつけるその瞳から、闘志は消えていなかった。


「クソ!

 くたばれ!

 愚かな人間よ!」


 紫色の魔法陣を展開し、魔法を放つ。

マントでそれを弾くと、ザサンは悔しそうな顔をした。


「これなら……

 これならどうだ!」


 ザサンの爪が巨大化する。

高く飛び上がり、爪を振り上げた。

標的は、もちろん、俺。


 巨大化した爪は、きっと鋼すらも簡単に引き裂けるほど鋭利なはず。

しかし、今の俺には通用しない。


 剣の腹でザサンの爪を受け止める。

勢いを消されたザサンは、たまらずその場から飛び退いた。

次の手段を考えているのか、はたまた余裕がないのか。

ザサンは肩で息をし、こちらを睨みつける。


「そんなんじゃ駄目だ。

 憎しみだけの力では、俺は倒せない!」


「ふざけるな!

 何が憎しみだ! 何が光だ!

 その光を奪ったのは、貴様らだろう!」


 ザサンを黒い霧が包み込む。

赤い稲妻が迸り、怪しく光った。

霧を吸収し現れたザサンは、禍々しく姿を変えていた。


 身体は肥大化し、体毛は赤と紫と黒が混じっている。

鋭く発達した牙と爪を持ち、全身の毛が逆立っていた。

赤く光る瞳は、以前の自分を彷彿とさせる。

闇に落ちた、戦士の目と同じだった。


「貴様が闇を光に変えるなら……

 俺は闇を、さらに深い闇へと変えてやる」


「なんで……

 なんでお前はそこまで!」


 輝光竜剣を構える。

同時に、ザサンは巨大な双剣を召喚した。

先程までとは比べものにならないスピードで移動する。

今の俺でも、目で追えないほどの速さだ。


 背後に殺気を感じて剣を振ると、ザサンの残影が見えた。

身を屈めてその場から駆け出し、眼の前へと剣を突く。


ザサンは確かにそこにいたが、寸前で攻撃を受け流した。

カウンターを食らって視界が揺らめく。

追撃しようとするザサンを蹴り飛ばし、体勢を整えた。


「なんて闇の力だ……

 何がお前を、そこまで……」


「お前は知らないだろう。

 そして、知らなくてもいい。

 ただ闇の前に敗れ去れ!」


 双剣を構えて走るザサン。

瞬間、奴の姿が消えた。


「どこだ……

 どこに消えた!」


 目をつむり、気配を辿る。

しかし、どこにも奴の気配ない。


逃げた……?

いや、そんなはずはない。

奴がこの状況で、逃げるわけがない。


 意識を集中させると、一瞬、ザサンの気配がした。

その方向を見ると、ザサンがリースを人質にとっていた。


「リース!」


「く……くそ……!

 離せ!」


 ザサンは爪をリースの喉に這わせる。

少しかすめただけで、リースの頸部からは血が滴った。


「ザサン……!」


「仲間と言ったな。

 強さとはまた、弱点でもある。

 その希望を絶望に変えてやろうか」


 ザサンがリースの首を締め上げた。


「ぐっ……!

 ぐ……あぁあ……!」


 助けにいこうにも、この状況では手が出せない。

何か隙を作らなければ……

そう思った時。


「おい!

 バカ狼!」


 ヴァイトの声がした。

ザサンが声のする方を見ようとした瞬間、脇から魔法が飛んでくる。

見ると、カーミラが魔法陣を展開していた。


「雑魚が……

 いい気になるなよ!」


 ザサンが片手で剣を構えようとしたとき、上空から槍を振り上げたヴァイトが襲い掛かる!

ザサンはそれを腕でガードするが、流石にダメージが通ったようだった。


「オレを探してたんだろ……!」


「貴様……!」


「どこをみておる!」


 奴がヴァイトに気を取られている一瞬の間。

カーミラは吸血鬼の力を開放し、完全体になっていた。

赤と青の魔法陣を両手に展開し、それを合わせる。


「クリスタル・ヴァルプネイル!」


 赤と青のクリスタルが螺旋を描き、ザサンを襲う。

直撃を免れようと一瞬の隙が出来た瞬間。


「今だ!

 坊主!」


 身体はもう動いていた。

ザサンの懐へ潜り込み、剣を振り抜く。

斬撃とともに剣を投げ捨て、ザサンの腕から離れたリースを受け止め、その場から離脱。

間もなくしてカーミラの魔法がザサンに直撃した。


「リース!

 大丈夫か!」


「すまない……ノア。

 君には助けられてばかりだ」


「そんなことない。

 リースがいなかったら、俺は今頃どうなってたか」


「ノア……」


 背後でクリスタルが砕ける音がした。

あの魔法を受けてなお、ザサンは生きている。


「ノア、あいつは……」


「あぁ、わかってる」


 リースを降ろし、ザサンに向き直る。

ザサンの身体はボロボロだが、今にも襲いかかってきそうなほどの、オーラに満ちている。

彼の信念が、そうさせているのだ。


「ザサン。

 これで最期だ」


 剣を地面に突き刺し、紋章の力を開放させる。

ザサンは……こいつは、俺の拳で目を覚まさせてやる。

左手の紋章が輝くと、炎が舞い上がり、稲妻が迸った。


「人間の……

 人間如きに……この我が負けるはずが!」


 すべてのエネルギーを一点に集中させ、拳を振り抜く。

竜の形をした光が、ザサンを貫いた。


 静寂。

先程までの激しい戦闘の音はなく、ただ静寂がその場を支配した。

決着が今、つこうとしている。

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