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18話 不審な死

 レストレア王国キロフォード領。

人狼伝説の残る地の領主、エレナ=キロフォードが変死を遂げた。

エレナ卿の死体が見つかったのは、領地外れの森。

外傷はなく、毒が盛られた形跡もなかった。


 俺とヴァイト、カーミラ、リースの4人は、エレナ卿変死の現場に来ていた。

なぜ、俺たちがなぜ、この場所にいるか。

それは、数日前に遡る。







「皆に、頼みがある」


 いつもの喫茶店で店番をしていると、突然リースが頭を下げた。

今日、ソフィアとジョンさんは買い出しのために店を空けている。

ジャックは「ソフィアさんがいないのなら、行く意味がないな」と今日は喫茶店に来ていない。

すなわち、ここにいるのはいつもの面々。


 リースの言葉を聞いたヴァイトとカーミラが、顔を合わせキョトンとしている。

かくいう俺も、食器を拭く手が止まっていた。


「急にどうしたんだ、騎士のねーちゃん。

 改まってオレたちの頼みなんて」


「何か大事なことのようじゃな

 妾たちでよければ、話を聞こう」


 ちなみにカーミラは、あの戦いの後普段のサイズに戻った。

大人でいられるのは、一瞬のようだ。


 リースは大きく息を吸い込んで、呼吸を整えた。

自分を律するように一度咳払いをし、口を開く。


「皆、エレナ卿が亡くなったのは知っているな?」


「あぁ、辺境の貴族じゃな。

 人狼伝説が残っておる土地を押し付けられた曰く付きの貴族」


「そのエレナ卿がどうかしたってのか?」


「あぁ、外傷がなく毒が盛られた形跡もない。

 何かの発作を起こしたと言われているが、なぜ領地外れの森にいたのか。

 それが問題だ」


「ん?

 どういうこと?」


 リースは他殺を疑っているのか?

だとしたら、なぜ俺たちにこの話を?


しかし、いまいち要領がつかめない。

頭にはてなマークを浮かべていると、再びリースは言葉を続けた。


「エレナ卿の死体の近くに、狼の足跡があった

 それも、巨大な」


 ヴァイトが小さく「なるほど」とつぶやいた。

カーミラも何かに納得しているように頷く。


「え、なに、どういうこと?」


「まだわかんねーのか、坊主。

 マガツビトの仕業かもしれねーってことだよ」


「ちょっと待ってくれよ。

 狼種のセリアンスロープの仕業かもしれないじゃないか」


「うむ。

 その線も否定できぬが、外傷がないのはちとおかしい。

 狼種のセリアンスロープはあまり器用ではない。

 外傷残さず人を殺めるなんてまず無理じゃ」


 それに……とカーミラは付け加える。


「人狼伝説の人狼は、恐怖で人を殺めることができるというからの」


 思わず、生唾を飲み込んだ。

みんな、妙に感が鋭い。

物分りが良すぎる。

皆が鋭いだけだよな? 俺が鈍いわけじゃないよな?

可笑しくないよな?


「それでだ。

 私ともう1人の騎士が事件の調査をすることになった。

 上の命令で好きに人員を集めて調査してもいいらしい」


「なーるほど。

 それでオレたちにってことか。

 まー、マガツビト関連だとしたら、確かにオレたちが必要だな」


「で、でも、紋章はうんともすんとも言わなかったぞ?」


「索敵範囲でもあるのじゃろ。

 でなければ、街に現れる前に紋章が反応しているはずじゃからな

 キロフォード領は辺境じゃし、反応がなくてもおかしくはない」


 言われてみれば、今まで紋章が反応したのは街にマガツビトが現れた時だけ。

どこからやってきているのかわからないけど、街の外に反応したことは一度もない。


「無茶な願いだとは思う。

 しかし、もしマガツビトが犯人だとしたら、私たちでは対処ができない。

 恥ずかしいことだが、きっと、勝てないだろうから

 だから頼む。どうか私に力を貸してほしい」


 深く頭を下げるリース。その拳を力強く握られている。

力を求めて騎士になったリースには、思うことがあるようだった。


「オレは乗るぜ。

 マガツビトの仕業なら、伝説の戦士であるオレたちがなんとかしねーとな」


「妾も同じくじゃ。

 人狼伝説の正体も気になるところじゃしな」


 2人が俺を見る。

答えは既に決まっていた。

しかし、なかなか声に出せなかった。


「も、もちろん俺も!

 俺もやるよ」


「決まりじゃな。

 すぐにでも行けるが、どうする?」


「すまない、こちらの準備がまだでな。

 経つのは明日でもいいか?」


「異論はねーぜ。

 そうとなりゃ、オレは明日に備えるとするわ

 明日の朝また来る。

 寝坊すんなよ、坊主、チビガキ」


「妾もそうするとするかの

 ネコ坊主とおると、身体が痒くてたまらんからな」


 お互い嫌味を言いながら、睨み合う。

相変わらず仲がいい。


 カーミラとヴァイトは席を立って、喫茶店を後にした。

それを見送り、吹き終わった食器を片付けた時、ふとため息が出る。


「すまない、迷惑だっただろうか?」


「いや! そういうわけじゃなくて。

 なんとなく迷ってて」


「迷っている?」


「うん。

 思い返してみれば、伝説の戦士の力が突然手に入ったけど、なんで俺なんだろって。

 ヴァイトは槍術の使い手だし、カーミラはヴァンパイの女王様だろ?

 でも、俺にはそういうのないから、よくわかんなくて」


「なぜノアなのか……か」


 リースはじっとこちらを見つめた。

凛と真っ直ぐな瞳に、俺は視線を合わせることができない。


「それはわからない。

 しかし、私にその力があればと思うことは、いくらでもある」


 そう言い残し、リースは喫茶店を後にした。

扉についたベルが揺れる音だけが、店内を支配する。


「……今日は、もう閉めるか」


 喫茶店の看板を下げ、店を締める。

またジョンさんに「勝手なことすんな!」って怒られんだろうな。

そう思いながら、カウンターに伏せて目を閉じた。





「おい坊主!

 起きやがれ!」


「いったぁ!!」


 鼻に痛みが走ると同時、目が覚めた。

頭を上げると、目の前に見慣れた面々が立っている。

どうやら眠っていた俺を起こすために、ヴァイトがデコピンを鼻にしてきたらしい。

鼻ピンじゃん。それじゃ。

 

「ヴァイトにカーミラ……

 それにリースも」


「時間だ。

 そろそろキロフォード領に向けて出発する」


「えっ!?

 ソフィアとジョンさんは!?」


「上で寝ておるよ。

 誰かさんがあまりにもぐっすり寝ておるから、起こさなかったんじゃと」


「え~!?

 帰ってきたなら起こしてくれよ!」


 急いで荷物をまとめ、準備する。

たまに聞こえる急かす声が、焦燥感を掻き立てた。


「おっけ!

 終わり!」


「では行くとするかのう。

 キロフォード領、楽しみじゃな」


 喫茶店を出ると、キロフォード領に向かう馬車があった。

1人の騎士が乗っており、俺たちに気がつくと降りて挨拶をする。


「始めまして。

 クロッカス=ドッガーだ。

 リースから話は聞いている。

 なんでも、相当腕利きの戦士だとか」


 俺たちは顔を見合わせる。

ヴァイトだけ少し嬉しそうだ。


「クロッカスは最近入団した、期待の新人だ。

 上級騎士にも劣らない実力を持っている」


「君たちには期待しているよ。

 色々な意味でね。

 では、行こうか」


 馬車に乗り込み、目指すはキロフォード領。

人狼伝説の残る、曰く付きの場所だ。

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