外伝5 女王のお目覚め
ふと、目が覚めた。
早い、早すぎる。
まだ200年しか経っていないではないか。
「おはようございます、新女王様。
早速ですが、お着替えの準備をお願いいたします」
執事のヴェルヴェットがテレパシーで言う。
ここはヴァンパイアの国『デルトリアム』の王城の深奥。
血眠りの部屋と呼ばれる、王女が覚醒を待つ神聖な場所。
このタイミングで目覚めたということは、前女王が死んだということじゃ。
「うーん眠い……
あと50年……」
「いけません、女王。
もう刻が迫ってきているのです」
「わかっておるわ。
先から紋章の力を強く感じる。
どうやら、妾はとんでもない運命を背負わされたようじゃ」
身体を起こし、伸びをする。
眠っていた時間が短く、身体が小さい。
本当なら、後800年くらいは眠っていて、セクシーなボンキュッボンのヴァンパイアになる予定じゃったのに。
「女王様。
こちらが、新しいドレスでございます」
「うむ」
白と黒を基調とし、赤のラインが入ったドレスを着る。
代々王家に伝わる神秘のドレス。
着たものに大きさが合う、エルフ特性のドレスじゃが、妾のサイズだと美しさのポテンシャルを活かしきれてないように思えるのう。
「早速じゃが、力を試そうと思う。
ヴェルヴェット、行くぞ」
「はい、女王様」
地下の広い空間。
かつて先祖が残した、魔法を鍛錬する場所じゃ。
この場所を使れるのは限られた者だけ。
「……変身」
小さく呟くと、身体が光に包まれ、戦士の姿になる。
眠りにつく前、書物で見たことをそのまま試してみたが、どうやらうまくいったようじゃ。
しかし、大きさはそのままというのはけしからん。
「……大きさは、変わらんのじゃな」
「女王様自身の、吸血鬼としての力を開放すれば、問題ではないかと」
「うむ。
そうじゃな」
全身の魔力を高め、魔法陣を展開する。
身体の奥底に眠るエネルギーを一気に爆発させ、吸血鬼の力を目覚めさせる。
一瞬で身体は成熟した大人になり、妾の求めていたボンキュッボンになった。
「これじゃこれじゃ♪
しかし、この姿でいられる時間は短そうじゃな」
右手と左手にそれぞれ魔法陣を展開。
赤と青の魔法陣から、クリスタルと氷撃が放たれた。
魔法は地下の岩盤をいとも簡単に破壊し、巨大な穴を開ける。
「……ちと、強すぎるかもしれぬし」
「吸血鬼の力と伝説の戦士の力。
どちらも全力で開放させれば、今の比ではないかと」
「しかし、これでは味方ごと吹き飛ばしてしまいそうじゃな」
「女王様の足を引っ張る戦士なんて、吹き飛んでもらって結構でございます」
「本心とは嫌なものじゃな、ヴェルヴェット」
変身を解除し、吸血鬼の力を制御する。
すると、あっという間に元のサイズに戻ってしまった。
「さて、早速じゃが妾は、レストレアへ向かおうと思う」
「それがいいかと思われます。
どうやら、あそこが決戦の地のようですし」
「……妾が眠っている間に滅ぼされたエルフの里も気になる。
黒の渦を起こした張本人も探さねばならぬ」
眠っていても、多少のことはわかる。
ヴァンパイアの力は、おそらくこの世界の種族最強。
しかし、黒の渦の前には、一族の滅びを確信した者が大勢いた。
アレは確実に、誰かが世界を滅ぼさんとして起こした現象。
「エルフの里は、恐らくクイーンに滅ぼされたものと思われます。
黒の渦と関係しているかはわかりませんが」
「もう目覚めておるのか、クイーンの奴め。
厄介じゃな……
大いなる闇……王の復活だけは阻止せんとな」
「もちろんです、女王様」
「妾は1人で行く。
いや、1人で行きたい」
「わかっております、女王様。
国のことは、お任せください」
「逐次テレパシーで報告する。
変なことをしたらただではおかんからな!」
支度をして、すぐに経つ。
こうしている間にも、紋章がレストレアへ行けとうずうずしておる。
「さて、今回の戦士はどんなものかの」
期待半分、楽しさ半分でレストレアへ向かう。
まぁ、妾1人いれば、どうってことないじゃろうけど。




