外伝4 青く輝く流星が如く
突然、それは訪れた。
自分の見慣れた右手に、見慣れない紋章が光る。
子供のころ、夢中になって読んでいた本。
それに書かれていたことが、今まさに現実になろうとしているのだ。
「これは……」
右手に光る青い紋章。
伝説の戦士の印。
その手が肉球でなければ、もう少しかっこいいのだろうか。
別に、セリアンスロープに生まれたことが嫌なのではない。
鼻もきくし、早く走れるし、力も強い。
ただ、人間の、器用な手に憧れているだけだ。
「大いなる闇の復活……か」
レストレア王国に向かう馬車の中で1人呟く。
この調子で行けば、明日には王都に着くだろう。
他の乗客は皆眠っているようで、オレに何が起きたか気づいていないみたいだ。
「なんだか、実感がねーな」
自分に、未知のパワーが宿ったことはわかる。
しかし、それがなぜ俺で、今なのかがわからない。
「まぁ、いいか」
馬車の揺れが心地よくて、ウトウトする。
頭が冴えていない時に、余計なことを考えてもしょうがない。
そのまま目をつむって、眠ることにしよう。
目を覚ますと、いつの間にか王都前の門に着いていた。
馬車の主はどこにもおらず、オレの他に乗っていた他の乗客も見当たらない。
「んだよ、誰も起こしてくれねーのか」
馬車から降りてみると、何か様子がおかしい。
普通なら、門番がいて入国の審査をする。
しかし、その門番が見当たらない。
「なんだ……?
何が起こってる?」
馬車の荷物から、自前の槍を取り出す。
幼少期から鍛えられた槍術には自信がある。
もし、盗賊でも襲ってこようものなら、返り討ちにしてやろうじゃねーか。
注意深く辺りを見回すと、右手の紋章が突然光った。
「何だ!?
何が起きてやがる!?」
ドクンドクンと脈打つ紋章。
何かが、近づいてくる。
そんな気がする。
「チッ!
伝説は本当だってことか!」
槍を構え直す。
瞬間、地面に生えていた植物が当然ツルを伸ばし襲いかかってきた。
槍でツルを弾き、その場から飛び退く。
「お出ましか」
「ケケケケケケ!!」
地面に生えていた植物は身体を変化させ、怪物に姿を変えた。
植物に擬態できるとは、ちっとは頭を使えるヤツらしい。
「なるほど、初陣ってわけか。
いーじゃねーか。
試してやるよ、伝説の力!」
紋章の力を開放する。
暖かな光が、全身の毛を撫でた。
「変身!!」
身体を疾風が包み込む。
エネルギーが全身を駆け巡り、気がつけば変身は終わっていた。
獣の鎧に身を包み、持っていた槍も変化している。
「なるほど。そういうわけか。
大体わかったぜ!」
槍……もとい、獣星槍を構える。
敵を見ると、自然と怪物の情報が頭の中に入り込んできた。
マガツサセラニア。
なんだか、よくわかんねー名前をしている。
「ま、どーでもいいな」
地面を蹴り、駆ける。
敵の眼前まで一瞬で距離を詰め、槍で連続攻撃!
しかし深追いはせず、セリアンスロープの敏捷性を活かし、その場でジャンプ。
空中で身体を回転させ、相手の後ろに回り込み、追撃する。
「ケッ!!
ケケケッ!?」
マガツなんちゃらは腕のツルを変化させ、盾にして攻撃を防ぐ。
攻撃を防ぎ終わると同時に、腕を蕾のようなものに変化させて毒ガスを噴射した。
「厄介だな。
だが、面白い!」
槍を斜めに構え、回転させつつ攻撃。
敵の死角から攻撃し、手の蕾を破壊した。
「ケッ!?」
「終わらせるぜ!」
紋章の力を最大限まで開放する。
光が獣星槍へと集まり、稲妻を纏った。
「うらぁあっ!!!」
全力で放つ。
渾身の一撃は、数ミリの誤差なく敵の胸部を捉え、貫いた。
「ケ……ケケッケ……」
マガツなんちゃらは攻撃に耐えきれず爆発。
同時に、ヤツの身体から結晶のようなものが弾け飛んだ。
緑色の炎がしばらく燃えていたが、すぐに消える。
「爆発って……大げさなやつだな」
変身を解いて、一息つく。
敵から飛ばされた結晶は、辺りの草木に付着すると、光を放った。
眩しさに目を覆うと、すぐに光は収束。
見ると、先程までいなかったはずの人間が目の前に現れた。
「あぁ!
助かった!!」
「よかった!
助かったんだ!!」
歓声を上げる人々。
よく見ると、それは馬車の乗客や、レストレア王国の門番であった。
「お前さんが助けてくれたのかい!?
俺っちたちは、突然現れた怪物に襲われて、身体を植物にされていたんだ!」
「あー、いや、助けたのはオレじゃねえ。
もっとかっこいい戦士が、オレたちを助けてくれたんだ」
「おぉ……!
その戦士は、一体!?」
「さぁな。
でも、またいつか、会えるだろうよ」
「そうか……!
その時は、絶対お礼を言わないとな!」
全員が顔を合わせて頷いた。
それを見た時、なんとなく伝説の力が何のためにあるのかを理解した気がした。
「だが、気をつけねーとな」
光竜の伝説によれば、闇に落ちた戦士がいる。
そいつを見つけたらオレはきっと、戦わなくちゃならねー。
「闇の戦士は、世界を滅ぼすほどの力を持ってるらしいからな」
馬車から荷物を持って、槍の柄に引っ掛ける。
向かうはレストレア王国の王都だ。
紋章が、オレを呼んでいる。




