14話 ヴァンパイアの力
喫茶店の2階。
俺の部屋でリース、ヴァイト、カーミラ、俺の4人でプチ円卓会議が開かれていた。
店番はソフィアに任せてある。
一応何かあったときのために、ジャックを置いてきた。
ずっとソフィアを見ているだけだが、肝心な時には役に立つだろう。
4人で丸くなり顔を突き合わせる。
やがて長い沈黙のあと、ヴァイトが口を開いた。
「で、件のことについてだが」
「まったく、この妾をこんな狭い部屋に閉じ込めおって。
妾の国なら極刑じゃぞ」
「オレにはこの嬢ちゃんが女王には見えねぇ」
「俺もそう思う」
「すまないカーミラ殿。
私も、その……」
3人の意見が一致した瞬間である。
見るからに、カーミラは女王に見えない。
だって、小さすぎるんだもの。
「だーかーらー。
さっきから言っておるじゃろ。
ヴァンパイアの女王は力が強すぎる余り、その力を制御しなければならぬ。
この姿は仮の姿で、本気を出せば凄いんじゃぞ」
「まぁ、一旦その話は置いておこう。
嬢ちゃん、なぜその紋章が宿った?」
ヴァイトが目を光らせる。
可愛らしい肉球からは、少しだけ爪が伸びていた。
「何故と言われれば、わからぬな。
しかし、怪物の出現とともに紋章は現れた。
これで十分じゃろ」
「カーミラはこの力がなんだかわかるのか?」
「伝説の戦士の力、じゃろ?
妾の先祖も紋章を宿したことがある。
書物も残っておったし、お主らよりは理解しておるつもりじゃが」
横を見ると、ヴァイトと目があった。
どうやら、この紋章は偽物とか子供のいたずらとかそういうものではない。
本物の紋章だ。
「妾は他の紋章持ちを探しておった。
紋章がうるさく反応する方に来たらお主らが集まっておったのじゃ。
2人も見つかるとは思っていなかったがの」
「嬢ちゃんを入れてこれで3人か。
おい坊主、他に目星はついてねーのか?」
「今の所は、全然。
力は同じく目覚めているはずだけど」
紋章が宿るトリガーは、怪物の出現。
それならすでに、紋章が宿っていることに気づいてもおかしくない。
「力が覚醒しきっていねぇとか……
あえて力を使っていないのか」
ヴァイトは腕を組んで唸った。
喉がゴロゴロいっているので、なんだかしっくりこない。
「しかし、これで戦士は3人か。
伝説の戦士が3人もいれば、マガツビトが現れても安心だ」
「でもリース。
カマキリ野郎みたいに複数出てきたらどうする?」
「それは……」
リースは黙って下を向いた。
マガツビトがどれくらい存在するかわからない。どこからやってくるかもわからない。
大いなる闇という存在についても、わからない。
戦士が多ければ、確かに安心だ。
でも、本当にそうだろうか。
「そういえばカーミラ。
大いなる闇についてわかることってあるか?」
「ふむ、妾が知る限りの情報なら、共有しよう。
じゃが、どうやらそうもいかぬみたいじゃ」
左手の紋章が鈍い光を放った。
この脈打つ感じは、マガツビト。
「くそっ!
こんな時に……!」
「仕方ねぇ。
行くとするか」
「私は避難誘導をしよう。
評議会も中止させなければ」
全員立ち上がり、勢いよく階段を降りた。
裏口から出て、紋章の反応する方を目指す。
紋章の導く方に行くと、街路樹に掴まるマガツビトを発見した。
マガツカメレオン。
気味の悪い目玉をギョロギョロ動かし、こちらを見つめている。
「なんか気持ち悪いヤツじゃな……」
「つべこべ言ってねぇで、やるぞ!」
「「「変身!」」」
3人で声を合わせて叫ぶ。
紋章の力が開放され、俺は竜の戦士に。
ヴァイトは獣の戦士に。
カーミラは吸血鬼を模した紫の鎧に、黒いラインが入った戦士に変身する。
大きさは、相変わらずちっこい。
「よし、行くぞ!」
俺とヴァイトはそれぞれ剣と槍を召喚し、走る。
カーミラはその後ろで魔法陣を展開した。
「さて、初陣を飾るとしようかの」
魔法陣が光を放つ。
瞬間、赤いクリスタルが俺とヴァイトめがけて……って。
「あぶなっ!!」
俺とヴァイトはギリギリで避けた。
クリスタルの魔法は、カメレオンに向かっていくが、いとも簡単に避けられる。
先程までカメレオンが掴まっていた木は、粉々に砕け散った。
「おいチビガキ!
どこ狙ってんだ!」
「誰がチビガキじゃ!
魔法陣の前におった、お主らが悪いんじゃろ!」
「んだと~!!
女王だからって調子に乗りやがって!」
「ちょっと!
喧嘩してる場合じゃ……」
一瞬目を離した隙に、カメレオンが消えた。
紋章の反応はまだ残っているので、近くにいるはず。
「あれ……どこ行った……?」
喧嘩するヴァイトとカーミラを無視して、敵を探す。
しかし、どこにも見当たらない。
一旦探すのやめて、2人の喧嘩を止めようとした瞬間。
背部に鈍い痛みが走った。
「いてっ!」
後ろを振り向くが、敵はいない。
しかし、横から、後ろから、正面から。
様々な方向から攻撃が飛んでくる。
「あだっ!
いてっ! どうなってんだ!」
「ノア!
今助けるぞ!」
ヴァイトが俺を助けようと槍を構えた瞬間。
「プリズムレイン!!」
クリスタルの雨が辺り一面に降り注いだ。
俺とヴァイトを巻き込んで、カーミラが魔法を放ったのだ。
放たれた魔法は、1つ1つのクリスタルが攻撃魔法になっており、当たるとめちゃくちゃ痛い。
「いでででででっ!
チビガキ!
オレたちもろとも殺すつもりか!」
「見えないんじゃから、範囲攻撃が手っ取り早いじゃろうが!
見えない敵に槍を構える馬鹿がどこにおる!」
「てめぇ言わせておけば~!!」
「ちょっと!
ねぇ! 2人とも!」
カーミラの攻撃魔法に驚いたのか、敵はどこかへ消えたようだ。
紋章の反応が消えている。
「せっかく戦士が3人揃ったのに……」
出会ったばかりの3人。
チームワークは最悪。
このままじゃ、いずれ同士討ちしてしまうかもしれない。
頭を抱え、俺はずっと喧嘩してる2人を止めに入るのだった。




