12話 帰るべき場所
「変身!」
変身すると同時、黒竜剣を呼び出す。
視界に映るのは大量のカマキリ野郎。
マガツマンティス(子)と表示されている。
「子供ってことは、親がいるのか!」
だいたい想像はつく。
昨日倒しそこねたのが親だ。
親を探さなければいけないが、子の数があまりにも多すぎる。
「くそ!
これじゃキリがない!」
迫りくるマンティスの子供をばったばったと斬りつけていくが、その数は一向に減る様子がない。
子供の攻撃は一撃がそんなに重くないものの、塵も積もればなんとやらだ。
ここを突破して親を探すしか道はないだろう。
「なら、コレだ!」
黒竜剣に紋章の力を宿す。
エネルギーが迸ったと同時、剣を振り抜くと、緋色の刃が放たれた。
斬撃はマンティスの子供をまとめてぶった切り、かなりの数を減らすことに成功する。
「よし!
このまま行くぞ!」
剣を構えて、敵を斬りながら走る。
目標は、この紋章が導く場所。
そこにきっと親がいる。
どれだけ敵を倒しただろうか。
流石に疲れてきて、途中からは変身を解除して走っていた。
変身状態は、身体能力が強化される代わりに、エネルギーの消費が激しい。
親と戦う前に力尽きたら意味がない。
やがて目の前に開けた空間が広がった。
そこでは、マンティスの親とヴァイトが戦っていた。
マンティスは昨日よりも巨大化しており、身体の色も黒くなっている。
カマが禍々しい形に変異しており、強さが増しているようだ。
名前も、マガツマンティスマオウになっている。長ったらしい。
「チッ……
こんな時に来やがったか」
ヴァイトは悪態をついた。
しかし、威勢とは裏腹に、ヴァイトはマンティスとの戦いでかなり消耗している様子。
あちこちにダメージを受けているようで、傷がいくつもあった。
「俺は、あんたと戦う気はない。
この力は、そのためにあるものじゃない」
「お前何を言って――」
「俺のこの力は、人を守るためにある。
きっと、多分、そうだから」
紋章の鼓動が強くなるのを感じる。
エネルギーの開放を今か今かと待ちわびているその様子は、飢えた獣のようにも思えた。
「変……身!」
紋章の力を開放させる。
緋色の光とともに、全身をエネルギーが駆け巡った。
きっと今の姿も、邪悪で凶暴な怪物そのもの。
「見た目なんて関係ない。
守ることに、意味がある!」
剣を構えて走る。
マンティスはカマを振り下ろし俺の攻撃へ応戦。
昨日とは比べ物にならない力だ。
「な、なんだぁ!
こいつ、パワーが……」
「ギシャァッ!」
マンティスの攻撃を紙一重で躱す。
ブォン! と空気を裂く音が聞こえたかと思うと、その一撃は地面をえぐるほどのものだった。
ヴァイトが苦戦するわけだ。
「あれを受けたらたまったもんじゃないな……
どうしよ……」
脳裏にソフィアが浮かんだ。
寂しそうな顔をした、ソフィア。
そうだ、俺はここで負けてはいられない。
辺りを見回す。
マンティスの子供の大群が迫ってきている。
早く親を倒さなければ、数の有利も取られて勝ち目がなくなってしまう。
「やばい……!」
その時、鎧に身を包んだリースが現れた。
マンティスの子供の群れに勇猛果敢に立ち向かっていく。
「リース!
危険だ!」
「ここは任せてくれ、ノア!
信じて、くれるのだろう!?」
昨晩のことを思い出す。
そうだ、俺も信じている。
俺は、1人じゃない!
心の中で、ギアが変わる音がした。
「これに賭けるしか!」
勢いよく走り出し、マンティスに正面から突進。
当然、受け止められ、そのまま投げ飛ばされてしまう。
背中から地面に叩きつけられ、鈍い痛みがした。
「ギシャシャシャシャ!」
勝利を確信したマンティスはゆっくりとこちらに近づいてくる。
両手のカマを打ち鳴らし、鋭い音を立てる様は獲物を品定めするまさにハンター。
やがて直ぐ側までやってきたマンティスは、両カマを振り上げ、思いっきり振り下ろす!
「ここだ!」
身体をひねって回転させ、その場から離脱。
勢いよく振り下ろしたカマは止めることが出来ず、凄まじいパワーで地面を叩きつけた。
そして。
「ギシャッ!?」
カマが地面にめり込んだ。
全力を込めた一撃だったのだろう。
カマは深くめり込んでおり、抜けそうにない。
「よっしゃ!
今のうちだ!」
紋章の力を開放させ、黒竜剣に集中させる。
緋色の光が剣に集まり、光の刃を作り出した。
「だあああああっ!!」
剣を振り下ろすと、緋色の斬撃がマンティスめがけて放たれた。
その一撃はマンティスのカマにヒットし、そのチャームポイントを破壊。
「これで武器が無くなったな!」
チャンスを逃すわけにはいかない。
無防備になったマンティスに連続で斬撃を加えていく。
武器を失ったマンティスは、攻撃を防ぐことができず、一方的に攻撃を受けてしまう。
「ギッ!
シャッ!?」
「うおおおりゃああ!!」
紋章の力を全開にして、拳を放つ。
光を纏った一撃はマンティスの胸部に直撃し、マンティスは吹き飛んだ。
満身創痍で立ち上がるも、必殺の一撃に肉体が耐えきれなかったのか、マンティスは爆発大炎上。
同時に、マンティスの子供も消滅した。
「よし!
これで一安心だ」
「そうか、これがお前の戦い方か」
振り向くと、ヴァイトが槍を構えて立っていた。
釣られて、俺も構える。
「……いや、違うな。
どうやらオレは勘違いをしてたらしい」
構えを解くヴァイト。
同時に槍も消滅した。
「守るために戦う、か。
確かに、そのとおりかもしれねーな」
「ヴァイト……」
「お前、名前は?」
「俺はノア。
ノア=アルカだ」
「そうか、ノアっていうのか。
いい名前じゃねぇか」
手を差し出すヴァイト。
その手はネコ種のセリアンスロープだけあって、可愛らしい。
怖い見た目とは裏腹に、ピンクの肉球がチャーミングだ。
「よろしく、ヴァイト」
「伝説の戦士同士、これから仲良くしようぜ」
ヴァイトと硬い握手を交わす。
心強い仲間が1人増えた瞬間だった。
変身を解除しようとした時、遠くから王立騎士団の面々がやってくるのが見えた。
相変わらず、俺を敵だと思っているらしい。
「見つけたぞ、怪物!
今日こそ息の根を止めてやる!」
髭面のリーダーが言うと、騎士全員がうおおおおお! と声を上げた。
勘弁してくれ。
「なんだ、追われてんのか?」
「見ての通りだ!」
「ま、まて!
皆聞いてくれ、この人は……」
リースが擁護しようとした瞬間。
騎士団の表情が変わった。
「見ろ!
同士がピンチだ!
今こそ、我々の絆を示す時!」
……話にならない。
俺は全力でその場から駆け出した。
騎士団はヴァイトをスルーして、俺のみをターゲット。
まぁ、ヴァイトの見た目はヒーローっぽいもんな!
「あああああ!
早く帰りたいいいいいい!」
騎士団から逃げることに若干慣れつつある俺は、今日も街中を走り回るのだった。
「……ただいま」
騎士団をまいて、1人で喫茶店に戻ると、誰もいなかった。
静かな、とても静かな空間が広がっている。
「ソフィア……ジョンさん。
2人とも、どこ行ったんだ」
城まで避難したのか、街を出ていったのか。
それとも、マンティスの大群にやられてしまったのか。
椅子に座って頭を抱えると、視界の端に揺れる金髪が見えた。
カウンターの裏から生えているアンテナのような金髪。
間違いない、あれはソフィアのアホ毛だ。
「……ソフィア。
いるんだろ」
声をかけると、アホ毛がピンと立った。
やがて、おそるおそるといった感じで、カウンター裏からソフィアが顔を半分だけ出した。
「驚かせようと、思って」
「そんな心臓に悪いやり方じゃなくても」
カウンターまで近づいていって、ソフィアを見る。
ソフィアはアホ毛を揺らしながら、チラチラと俺を見るばかりで、視線を合わせようとしない。
「ただいま、ソフィア」
もう一度言う。
するとソフィアは、顔を赤らめながら立ち上がった。
「おかえり、ノア」
俺は、ジョンさんに拾われて、初めてここに来た時のことを思い出した。
「ただいま」という言葉の響きに感動したのを覚えている。
そしてその感動は、今も俺の心にぬくもりを与えてくれていたのだ。
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