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10話 誤解、あの日の約束

「ちょっと待て!

 話せばわかるって!」


「勝負に待ったはねぇ!」


 槍を振り回し攻撃してくるヴァイト。

俺は攻撃を避けてはいるが、その全てを避けることは難しく、何度か当たってしまう。

というか、この人全く話を聞いてくれない。


「なんで伝説の戦士同士が戦わなきゃいけないんだ!」


「何故……?

 それはなぁ!」


 ヴァイトの渾身の一撃が腹部を捉えた。

地面をえぐりながら数メートルは吹き飛ばされる。


「光竜伝説……。

 ソイツによれば、伝説の戦士の1人は、戦いの後、闇の力に飲まれたっていうじゃねーか。

 そして、お前のその禍々しい姿、まさに闇の戦士」


 言われて、自分の身体を見る。

一応、見た目が悪いことは自負している。

確かに、黒いし、全体的にトゲトゲしているし、兜も凶悪な怪物そのもの。

よく考えてみれば、俺の持っている剣も黒いし、


 王立騎士に敵と勘違いされても仕方ない。

それに、ソフィアにも。


 光の戦士なら、白とか、青とか、金とか、赤が普通。

眼の前のヴァイトは青い鎧に銀色のラインが入った姿。

パット見、正義の味方に見える。


 光竜伝説……もっとちゃんと読んでおくべきだった!

こんなことになるならなおさら!


「待ってくれ!

 色なんて関係ないだろ!」


「オレを騙そうってか。

 そうはいかねぇぞ」


 なんとか体勢を整え立ち上がった瞬間、再びヴァイトの攻撃が眼前に迫る。

剣で受け止めるも、力は向こうのほうが強いのか徐々に押され、隙が出来た瞬間に蹴りで吹き飛ばされてしまった。


「くそ~!

 やりやがったな!」


 槍だけに。

ではない。


 俺は黒竜剣を構え、走る。

ヴィイトの攻撃を射なし、脇腹をすれ違いざまに斬る。


「ぐっ!?」


「どうだ!」


 瞬間、思考を支配する謎の感覚があった。

脳を駆け巡るそれは、黒い稲妻のようにも思える。


 あれは恐怖、憎悪、嫉妬、妬み……そんなものではない。

むしろ、もっと快楽的な。

ヴァイトを斬った瞬間、そんな感覚がした。


「隙だらけだな!」


 謎の感覚に思考を持っていかれていたせいで、ヴァイトの攻撃が避けられない。

鋭い突きが胸部に直撃し、またも吹き飛ばされる。


 同時に、槍を構えるバイト。

右手の紋章からエネルギーが槍へと流れ込み、稲妻を放つ。


「これで終わりだ!」


 凄まじい光とともに放たれる槍。

稲妻を纏った槍は、一瞬で俺を捉え、そして――


「ぐああああああっ!!」


 今まで感じたこともない痛み。

全身を駆け巡る鋭い痛みと共に、変身が解除された。


「こんなガキが戦士か。

 俺の一撃を受けて、生きてることは評価してやる」


 ヴァイトが近づいてきて、再び槍を構える。

身体が全然動かない。

骨でも折れているのか、断続的な痛みが全身を駆け巡る。


「悪く思うなよ、坊主」


 まさに万事休す。

トドメを刺そうとヴァイトが槍を振り上げた。

瞬間、どこからともなく飛んてきた魔法の刃がそれを阻止した。


「増援か……?

 興が冷めた。

 次はないと思え!」


 ヴァイトは構えを解くと、どこかへと去って行った。

魔法が飛んできた方を見るが、誰もいない。

一体誰が俺を助けたんだ?


「ノア!

 大丈夫!?」


 疑問に思っていると、聞き慣れた声が聞こえた。

痛む身体を動かすと、遠くからソフィアが走ってくるのが見えた。


 まさか、ソフィアが俺を?

……いや、それはない。


 靴が片方脱げているし、息も荒い。

その状態で魔法陣を展開するのは難しい。

魔法は精神を研ぎ澄まさなければ発動できないから、走った直後に魔法を唱えるなんて出来ないのだ。


「そふぃ……あ?」


「よかった、無事で

 怪物が来たって騎士さんが言っていたから……」


 どうやらソフィアは、俺がマガツビトにやられたと思っているらしい。

変身したところは見られていないようだ。


「なんで、ここが?」


「……ハイエルフだからね。

 セリアンスロープほどじゃないけど、耳はいいの」


 言いながら、ソフィアは息を整え、俺の胸部に手を当てる。

白緑の魔法陣が展開し、光を放った。


「ヒール!」


 ソフィアのヒールによって、痛みが少し軽減された。

しかしこれは一時的なもの。

怪我が治ったわけではない。


 ヒールは上級回復魔法である。

魔法をかけた相手の治癒能力を飛躍的に上昇させるとともに、痛みを和らげる。

魔法で怪我が治るのではなく、魔法によって怪我の回復が早くなるのが正解だ。

この魔法を使えるのは一部の上級魔法使いだけだ。


「ごめん、ソフィア。

 ありがとう」


 立ち上がろうとするが、身体に力が入らない。

思ったよりも傷が深いらしい。


「無理しちゃ駄目よ。

 ほら、肩につかまって」


 ソフィアの肩をかりて立ち上がり、ゆっくりと歩く。

一歩一歩踏みしめながら、ゆっくりと。

途中までお互い無言だったが、やがてソフィアのほうが口を開いた。


「……急にいなくなったりしたら、駄目って言ったのに」


 あの日の記憶が蘇る。

ソフィアと交わした約束。

厳密には、約束ではないのだけれど。


今回、ソフィアが来てくれていなかったら、俺はもしかしたら死んでいたかもしれない。

死んでいたら、俺はソフィアとの約束を破ってしまうことになる。


「ごめん」


 口から出たのは、その一言だけだった。

すぐ近くにあるソフィアの顔が見れない。

なんだか俺が、とても責任感のない男のように思えたからだ。


 人を守る力。

伝説の戦士の力。

俺はそれを、少し過信していたのかもしれない。

自分の覚悟がまだ、追いついていないのかもしれない。


 喫茶店に帰るまで、俺とソフィアの間に会話はなかった。

やけに長く、ゆっくりとした、沈黙が胸に痛い時間だった。

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