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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

正しい魔王の作り方

作者: ゆみ丸

 黒い身体に夥しい傷をつけ、魔王は赤黒い血を周りに撒き散らしながら崩れ落ちた。 

 魔物を従え幾つのも町を蹂躙し、人々を苦しめた魔王を倒した瞬間であった。   

  

 仲間が歓声をあげる中、血濡れた剣をせ鞘に収め騎士のクリスは眉間に皺を寄せる。その様子に隊長のグレイクは声を掛けた。 

 「どうした?クリス。何か気になるのか?」 

  

沈黙ののちクリスは言った。 

「ああ、魔王にして呆気なさ過ぎると思わないか?」 

「確かにな…でも俺たちが強くなりすぎたんだろう」グレイクは魔王の死体に一瞥をくれた。その目は白く濁り生気はなく見開いたままだった。 

   

 クリスは魔王の死体をもう一度確認しようと近寄る。 

すると魔王の死体が発光した。咄嗟にクリスとグレイクは剣を構える。 

慌てる仲間たちを無視し光はどんどん大きくなる。 

 


光は巨大な球体となりクリスの腹部を貫いた。 

「ぐっ!」身体が熱い、クリスは腹部を押さえてうずくまる「クリス!!」グレイクが絶叫した。

  

クリスは腹部を押さえたまま、意識を手放しその場に倒れた。   



 



「うっえっうっ」泣き声?

 

誰かが泣いている。 

 

目を開けるとそこは闇の中だった。 

 

誰だ? 

 

誰が泣いているんだ?   

クリスは暗闇の中を歩き回り、泣き声の主を探した。

 

闇の中に小さな人影が見えた。やっと見つけた。 

それは小さな子どもだった。 

 

「ひ、ひとりにしないで、ひっく、僕を置いて行かないで」子どもは顔を上げるとクリスの服を掴む。 

 

子どもは泣きじゃくる、まるで世界の終わりのように。 

 

子どもは泣き続ける一人は寂しい、僕を嫌わないで欲しいと。 

 

 

泣くなよ、終らない慟哭にクリスもいつのまにか泣いていた。 切なさに思わず、子どもを抱き締める。 

 抱き締められ子どもはびっくりしたのか、小さく体を震わせる。 

 

「俺が側にいる。絶対に一人にしない!」抱き締めた腕に力を込める。  

「本当に?」子どもはクリスの顔を泣きはらした目で見つめる。

「本当だ!俺は騎士だ!嘘はつかない!」力強くクリスは頷く。

「僕のこと、嫌わない?」おずおずと顔を上げる。 

「ああ!嫌わない!俺が守ってやる!」子どもの頭を優しくなでる。「ありがとう」子どもは泣き笑いの顔をした。 

  

  

    その瞬間、光が弾け暗黒を染め上げた。




  



 目を覚ますと見知らぬ天井だった。クリスは起きようとしたが身体が重くて上がらない。 

 

 「み、みず…」喉の乾きに身をよじると慌てる人の気配がし、水差しが口に差し込まれた。    

 水を飲み、落ち着くと「大丈夫か?クリス?」心配顔のグレイクがベッドサイドに腰かけていた。 

 

 「グレイクが水をくれたのか?ありがたい」クリスはにっこり笑いお礼を言う、グレイクの顔が何やら赤い。何で、赤くなるんだ?クリスは訝しく思うが、それより気になることがある。 

「魔王は?魔王はどうなった?」かじりつくように言う。 

「魔王は倒した…ただクリス、お前は身体に魔王の呪いを受けてしまった」グレイクはクリスの顔を見ないように告げる。  

 

 

 へっ呪い?俺の身体に? 

 クリスは自分の身体を見た。 

   

 身体が重いはずだ、胸に見たこともない双方の豊かな膨らみがついている。「なんだこれ?」思わず鷲掴みをする。柔らかいまるでマシュマロみたいだ、恐ろしい予感に上衣を脱ぐ。 

「おい!馬鹿脱ぐな!」赤くなって慌てるグレイクを無視する。

予想通り、筋肉だったはずのクリスの胸は柔らかい女性の胸になっていた。   

 

 嘘だろ?女? 

  

 クリスは上着だけでなく下衣も脱いだ。そこには本来あるべき彼の象徴はなかった。  

「何で俺が女に!どうなってるんだ?グレイク!」クリスは絶叫し、グレイクに詰め寄る。腕を掴み振ると女性の膨らみも一緒にふるえる。膨らみがグレイクの腕を掠める。 

「グレイク!グレイク?」グレイクは限界だった。真っ赤になり過ぎた彼は鼻血を出し失神した。 

 

 

しまった! 

こいつ女に免疫力なかったんだクリスは慌てて、グレイクから体を離した。

 





 クリスは意識を取り戻したグレイクから、魔王は最後の力で近くにいたクリスに呪いをかけ霧散したと説明された。 

 

何で女性化の呪いなんだ!クリスはグレイクに文句を言った。 

本来弱体化する呪いが力足らず、女性化の呪いに変質した可能性があると宮廷魔術師に言われたそうだ。 


「今、大賢者様は他国にいる。大賢者様が帰ってきたら呪いの解除法もわかるだろう」グレイクがクリスを慰める。 

「大賢者様なら何とかしてくれるだろうけど、この体どうしたらいいんだ?」クリスは女性化した体を恨めしくみた。   

 グレイクはクリスをじっと見つめた後赤くなり、女性のことはわからないから、母親に相談しようと提案した。 





 

  

グレイクの家、ウェット家は代々将軍を輩出している由緒正しい家柄である。一方クリスは教会の前に捨てられていた孤児だった。 

    

クリスは貧困から脱出するため、幼くして小性になった。強くなるため人の倍努力をした。 その姿勢はグレイクの父上の目に留まり、息子のグレイクの剣の相手、話相手として館に連れてこられた。数々の武功をたて騎士の身分に取り立てられた。



「まあ!まあ!可愛いわー。わたくし女の子が欲しかったよー!まつげ長くて羨ましいわ!この子本当にクリスなの?」グレイクの母親のダリアは事情を説明すると大興奮した。 

 

「胸も大きいし、腰もこんなに細くて!」ペタペタクリスに触る。「母上触らないで下さい!」グレイクが怒る。

「まあ、グレイクの物じゃないんだからいいでしょ~」ペタペタまた触る。 触られクリスは固まってしまう。 

 「俺の物です!触らないで下さい!」 

堪らずグレイクがクリスを引き寄せる。えっ?グレイクどうしたの?クリスは驚いた。 

 「い、いや、俺の隊の物と言う意味で…」グレイクはしどろもどろだった。 

「若いって!良いわね~」ダリアはにっこり笑った。  




  

 ダリアに散々着せ替え人形にされたクリスが館の自分の部屋についた時には既にフラフラだった。 

 疲れた、クリスはベッド倒れ込むと自分の腕をみた。細くて折れそうだった。  

 一人になり、クリスは女になった自分の身体が気になった。気にするなと言う方が無理だろう、汗を流すついでに確認しよう、元男のクリスは沸き上がる好奇心を押さえられず、お風呂場に向かった。   


  

 ウェット家は領地内に温泉があり館まで引いてる。温泉は仕事終了時間の違う使用人のために夜間も開放していた。夜遅い今の時間なら人もいないだろう。クリスは裸になるとウキウキと湯船に入った。 

 

  


 「ああっ暖かいー。疲れがとれる~」胸って大きいと浮くんだな、湯船に浮かぶ自分の胸を不思議に思う。肩も楽だし、こんな重い物ぶら下げて、女って大変なんだなークリスが寛いでいると入り口から音がして、グレイクが入ってきた。 


「お!グレイクも今から風呂入るのか?」いつものようにクリスは話しかける。 

 「あ、おま、ク、クリス。こ、ここ男湯だぞ」顔を赤くし、面白いように動揺するグレイクにクリスは笑う。 

「お前、動揺しすぎた。いつも男湯入っているから間違えただけだろう?」 

「間違えただけって、早く女湯行けよ!」 

「嫌だよ!面倒くさい」クリスは熱くなったので湯船の縁に腰かけた。 「こ、困った奴だ」グレイクはクリスの方をみないように体を清め、クリスから離れて湯船に入った。  


 (グレイク、もてるのに女に免疫なさすぎだよな) 

面白そうだし少しからかってやるか、クリスはわざと胸をはだけさせるとグレイクの隣に移動した。  

「グレイク!」 

「何だ?」 

 隣でくっつかれて、固まっているグレイク。 

「知ってる?胸って大きいとお湯に浮くんだよ」お湯に浮く胸を強調してみせる。 

 

「な!からかうなよ!」グレイクは真っ赤になって怒る。 

面白いから、もっとからかってやろうクリスはにやにやする。 

 

「グレイクはモテるのに、女に免疫ないだろう? 

良かったら、少し俺で練習してみるか?」真っ赤な顔のグレイクを上目遣いで見上げる。 

  

 

途端にグレイクが真顔になった。 

 

本気で怒ったか?ヤバいやり過ぎたクリスは焦った。 

「グレイクからかいす……ぎゃ!!」謝罪は最後まで出来なかった。

   

 グレイクに唇を塞がれたからだ。 

 

 嘘だろ、クリスは呆然とした。あの女に免疫のないグレイクが? 

「ま、待って」思わず弱々しい声が出てしまう。声の弱さにクリス自身が驚いた。  

 グレイクは止まらないクリスに更に深く口づける。

 「あんまり煽るなよ。我慢してるんだからな」グレイクが耳元で囁いた時には、クリスはグレイクをからかった事を後悔していた。   

 



 転がるように温泉から上がったクリスは自分の部屋に逃げ込んだ。思い出すと顔が赤くなる。 

 (グレイクが、あのグレイクが、俺に口づけするなんて、男だぞ俺は!今は女か?外見変わっても中身は俺なんだぜ!)  

 グレイクと口づけをして不思議なことに嫌悪感がなかった、むしろもっと触わって欲しいと思ったことにクリスは恐くなった。 

(明日からどんな顔してグレイクに会えばいいんだ?) 

一人悶々とベッドに潜り込むと布団を頭までかぶり丸くなった。


  

 クリスの心配は杞憂に終わった。クリスが起きたとき既にグレイクは王宮に魔王討伐の報告に行きいなかった。     

 

 「クリスちゃんが倒れたでしょー!だから王様に詳しい報告ができなかったみたい。あと魔王討伐の祝勝会の相談かしら?いつもグレイクたちは警護する側だけど、今回はお祝いされる側になるから誰の部隊を護衛にするかの相談ねー」ダリアは優雅に紅茶を飲みながら続ける。     

「クリスちゃんはお留守番」 

不満そうな顔をしていたようでダリアに釘を差される。 

魔王の呪いにかかった自分が王様に謁見できる訳もないが、一緒に行きたかった気持ちが強かった。       

 

「大丈夫よー!クリスちゃん、祝勝会には行けるわよ~」   

「本当ですか?」喜んだクリスだったが、次のダリアの言葉に凍りついた。 

「ええ!素敵なレディーとして参加しましょう!わたくしが淑女のたしなみを教えてあげますわ」   

「俺は男なんで嫌です!」    

「今はかわいい女の子でしょ?女性として参加するなら怪しまれないようにダンスぐらいできないと~」にこにこと詰め寄られる。 「確かにそうですが」クリスは焦る、ダリア様は逃がしてくれそうにない。 

「早速、ドレスを買いに行きましょう~。 

買い物が終わったらダンスとマナーとあと言葉使いも直さないとね~楽しくなるわ」 

(グ、グレイク早く帰ってきてくれー!)

ダリアは嫌がるクリスを引きずるように馬車に向かう。   



 

 

 

グレイクは館に帰宅するとすぐにクリスを探した。   

クリスはダンス指導によりぐったりしていた。慣れないヒールに長いスカートで踊りにくかった。 

椅子にもたれるクリスとは対照的にダリアは優雅に紅茶を飲んでいる。  

「お帰りなさい、グレイク。 

あなたの頼み通りにクリスにダンス、マナーを教えたわよ」 

ダリアの言葉に恨めしくグレイクを睨む。 

「グレイク、お前のせいか!お前のせいで俺はひどい目にあったぞ!」食い付かんばかりのクリスに「言葉は丁寧に」ぴしゃりとダリアは告げる。

 

(ぐぬぬぬっ!!何でこんなことに!) 

落ち着かせるためにクリスは深呼吸をした。 

 

「わたくしを置いていくなんて酷いですわグレイク様」(てめえ人を置いてきぼりにしやがって!) 

「一人で淑女の練習は寂しかったですわ」(一人で練習させやがってこのバカ!)ひきつり笑顔で恨みを込めて言うがグレイクは言葉通りに受け取った。 

 

「クリス!!」感極まったグレイクに抱きつかれた。   

「ぐえ!」淑女らしからぬ声が出た。 

「一人にして悪かった。俺も寂しかった」ぎゅうぎゅう抱き閉められて息も出来ない。 

「グレイク苦しい!離せ!」堪らずクリスは抗議した。

「あんまりお前がかわいいもので、すまん」グレイクは抱きしめる力を弱めたがクリスを離そうとしない。 

「グレイクお前キャラ変わりすぎだぞ、こんな女にベタベタするキャラじゃなかっただろう」 

「お前にはベタベタしたい」 

クリスは開き直ったグレイクに抵抗を諦め、ただ抱きしめられていた。 

  

ダリアは歓喜した。 

女性にまったく興味なく、舞い込むお見合いすべて断りまくっていた息子に春が来たと。  


  



 きらびやかな王宮で行われている祝勝会に二人は招かれてい

た。王は、魔王討伐を労いグレイク隊に恩賞を与えた。 

また、クリスが呪いを受けたと知られると呪いを恐れ隔離を望む声や、下手をすると死刑と言い出しかねないため、対外的にクリスは最後の戦いで負傷し療養しているとした。      

 (負傷って俺はここにいるんだけどね) 

グレイク隊に隊列出来ない自分が悲しくなり、女の身体を恨めしく思った。 

 


 堅苦しい祝勝会が終わると引き続き夜会パーティーになった。た。立食する者、談笑する者、連れだってダンスする者、沢山の人の中クリスはグレイクを見つけられずにいた。  

  

 煩わしい事に沢山の男性のお誘いを受け、断るのに時間がかかっていた。 

「誠に嬉しいのですが、わたくし先約がございますので」ひきつり笑顔を張り付け、ダリヤに教わった通り淑女らしくお断りする。 

「先約より、僕を見てよ」甘ったるく囁く、目の前の貴族の若者は引いてくれない。う、めんどくさい。早く退いてくれ~。 

 貴族の若者は酔っているのか呂律がまわっていない、強引にクリスの腰に手をまわす。「嫌がる振りで僕の気を引きたいんだ」と一人で納得しクリスを引き寄せる。  

「やめて下さい!」(この馬鹿貴族離せ!気持ち悪い) 

クリスは身体を引こうとするがびくともしない。 


「おい!離せ!」 

鋭い声とともにクリスの身体が声の主に引き寄せられる。 

「グレイク!」グレイクの助けにクリスはほっとする。

殺気を押さえきれない視線に貴族が凍りついた。魔王を討伐した猛者な睨まれてはたまらない。 

「俺の婚約者に触らないで頂きたい」 

「婚約者!ち、違う、」クリスの否定の言葉はグレイクの睨みに押さえ込まれた。 

(怖い。睨むな) 

 グレイクの婚約者発言に会場が色めき立つ。 

噂好きなご夫人達は、ダリアに群がった。ダリアは嬉々としてグレイクの溺愛ぶりを話す、盛り上がる御婦人達。

(うっ、外堀が埋められていくー。)

グレイクは、クリスの腕を強引に引くと会場を後にした。 

 


 


 グレイクは休憩用の客間にクリスを押し込んだ。   

「グレイク痛いぞ、離せ!」クリスの抗議にグレイクはやっと手を離した。安心したクリスだったがグレイクに押し倒された。 

「な、何!」 

「ずいぶん楽しそうだったな?」グレイクは怒っていた。 

「男どもに話しかけられて楽しそうに見えた!」お仕置きとばかりに乱暴に口づけられる。    

「た、楽しくない!お前が見つからないから探してたんだ、男どもに話しかけられて断るの大変だったんだぞ!」

「そうか?満更でもなさそうに見えたぞ!」グレイクの視線はまだ鋭い。 

(ううっ!これじゃ、浮気を咎められた妻みたいじゃないか) 確実に妻ポジションにされている、クリスは焦った。 

「誤解だ!誤解。お前以外に触られて気持ち悪かった」クリスは慌てた(俺、今何で言った?) 

「俺なら良いのか?」グレイクが艶っぽくクリスをみる。 

(確かにグレイクに触わられても嫌じゃない、これは?)

 

「ああ、そうだよ」負けたとクリスは思った。 

グレイクは笑うと押さえきれずにクリスに口づけた。 何度も口づけを繰り返し息が上がる。 

 

 

「僕はいつまでも待てばいいの~」 

 

グレイクがクリスのドレスに手をかけた瞬間天井から声が降ってきた。驚愕して天井を見上げると逆さに人が生えていた。 

「大賢者様!」グレイクが大声をあげる。 

大賢者と呼ばれた少年は天井から出てくると部屋にあった椅子に腰かけた。 

 

 「僕、一大事って聞いたからドラコンの巣穴から急いで帰ってきのに、帰ってきたら本人達はイチャイチャしてるしつまんないよ!」頬を膨らませて抗議する。 

「すいません大賢者様」グレイクは土下座せんばかりに謝る。     

(こんな子供が?)  

クリスを見て大賢者は笑う「こんな子供が大賢者様って顔に出てるよー。少なくとも僕は千年前から生きてる。君たちより物知りだよ」 

クリスの隣に飛行移動し下腹部に触わり「君には時間がないよ」と大賢者は言った。  




「時間が?」 

「早く受胎しないと魔王の卵は破裂するよ」 

「魔王?卵?何の事ですか?」 

「新しい魔王の卵がクリスの中にあって男性と交じわらないと受胎しないんだー。 

受胎しないと新たな魔王は産まれないし受胎しないままだと中で破裂してクリスは死んじゃうんだよー」 


「な、何だって!!」グレイクもクリスも驚きに目を見開く。 

 

「クリスが女性化したのも魔王を産むためだよー」賢者は朗らかに告げる。 

「せっかく魔王を倒したの無駄だったのか?クリスは呪いを受けてしまった」グレイクは力なく膝をついた。 

「呪いも祝福も表裏一体。クリスは魔王の卵に触れた、選ばれたんだよ」賢者はにっこりする。  

 

「選ばれた?」 

クリスは唐突に思い出した暗闇で出会った子供のことを。

 

 「泣いていた。一人にしないで嫌わないでほしいと言ってた…あれが魔王の卵?」    

「君はなんて答えたの?」  

「一人にしない俺が側にいる守ってやるって答えた」クリスは下を向き唇を噛んだ、あれが契約だったんだ。  

 

「ま、待って下さい。クリスは知らなかったんだ! 

それに人々を苦しめた魔王を倒したのに、また魔王を産むなんて意味がわからない」グレイクが唸る。     

  

 「本来魔王は魔物を統べる者、善も悪もない。前魔王を悪しき者にしたのは人間だよ。産まれた時から嫌われ疎まれ迫害され人間に憎悪しかなかったんだ」 

「君はどうする?」大賢者はクリスを真っ直ぐ見据えた。 

「産まれる前から魔王を否定するの?嫌って人間の敵にしたいの?」  

 

 

僕を嫌わないで、   

慟哭が耳に甦る。 

 

 

「俺は約束したんです。嫌わないと!守ると!魔王を人間の敵にしません!」クリスはキッパリ言った。 

 

   

「クリスが決めたなら俺も協力する」 

「いいのか?グレイク!」 

「ああ、受胎するには男が必要だし、お前を誰かにやるつもりもない」グレイクがクリスの肩を抱く。  

「産まれる前に結婚して、前魔王みたいにならないように温かい家庭の中で育てよう! 兄弟も沢山いると良いだろう!」   

(グ、グレイク) 

グレイクが爛々と未来を語る。 

 

「良かったー。魔王も喜ぶと思うよ。とりあえず早く受胎した方がいいよー。僕、王様に説明しとくからー」大賢者は姿を消した。 

 

「ま、待って下さい大賢者様ここでですか?心の準備まだです」クリスは叫んだが無駄だった。 

 

後ろには未来を実現化する気満々のグレイクが立っていた。






 


2人から産まれ、育てられた魔王は魔物を正しく統治した。無暗に人を殺すのを禁じ、人間と対等に外交をした。 

彼は人々に恐怖を与える存在ではなく聖魔王と呼ばれた。

二人の子供は魔王を入れて6人予定

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