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84.黄金の戦姫

紀矢子編終了です

次回は八重樫の予定です

 「お待たせしました。お疲れ様です」


 凛とした澄んだ涼やかな女性の声が聞こえたかと思うと、黄金の槍と大楯を持ち、同じく黄金のギリシャ風の兜を被り、長い緩やかなローブを纏った女性が長いブロンド髪を靡かせて紀矢子の背後から駆け抜けて前に出た。そして紀矢子を守る様に立ち止まると、左手に持つ大楯を前に突き出した


 その瞬間、半球状の黄金に輝く障壁が展開し、迫り来る穢れた濁流を完全に防いだ。忌まわし気な幾重にも重複する唸り声とゴォオオオ!とトンネルに風が抜ける様な音を立てて、押し潰さんとする勢いを増した濁流を前に、障壁は軋みすらせずにその全てを押さえきる


 やがてこれ以上の攻撃は出来ないのか勢いを失った濁流は逆流する様に元の場所へと流れて、再び不定形の大きさが変動する大きな塊へと戻った


 「「「ウググ、オノレ…」」」


 忌々しそうな響く低い声を上げる固体と靄の中間の様なそれを見ながら女性―眼鏡を外したジャンヌが前を向いたまま、背後の紀矢子に声を掛ける


 「撤退出来ますか?」

 「無理…ね。今にもこのまま倒れそうよ」

 「そうですか。ではそのまま待機していてください」


 ジャンヌが槍を横に小さく振るうと、紀矢子の周りに円状に文字が浮かび上がり、直ぐに薄っすらと輝く透明な半球状の障壁が展開される。そこで紀矢子の体から力が抜け、その場に座り込んだ


 「さて、下級とはいえ神格ですか」


 そう呟くと、アルベルトのミゼーアの能力を使用する際に変化した、宵闇に浮かぶ魔性の月の様な惹きつけられる様な狂気と不気味な気配を漂わせる黄金こがね色の瞳とは違う、全てを照らし一切の闇を払って討ち滅ぼす太陽の様な鮮烈な輝きを放つ黄金おうごんの瞳を鋭く細めて異形を見据える


 「【夢現境に住まう闘争の女神の八柱の眷属よ。ユスの黄色の髑髏の神官が称える戦の旧神の十二柱の使者よ。忌まわしき穢れた神々を討ち払う力を我に与え、討滅する為に御身を現せ。我は今、汝へと道を開く。招来せよ。旧支配者と外なる神を討ち滅ぼし、【世界を打ち砕く者】!!《ヌトセ=カームブル》の従者の十二姉妹《戦乙女ヴァルキュリア》!!】《戦乙女ヴァルキュリアの招来》」


 詠唱を終えると同時にジャンヌの頭上に黄金の輝きを放つ渦巻く風が吹き拡散すると、そこから身長が2mを優に超えた長身の、ジャンヌと同じ装備の瞑目した美女が現れ、隣に降り立ちゆっくりと目を開いた


 怜悧な印象を与える切れ長の眼の奥の瞳には、目の前の存在に対する強い憎悪と確固たる意志の光が宿り、引き結ばれた口は不退転の決意を感じさせた


 現れた女性を見た不気味な色彩の靄の異形―百万の恵まれたる者の一体にして力を蓄え神格へと手を伸ばした血液を媒介に犠牲者に寄生する生命体である【成り代わる者】は感じる筈の無い掻き乱される様な強い感情に襲われた


 (何だこの感覚は!?何なのだ目の前にいるアレは!?)


 渦巻く名状し難い感覚に混乱しながらも【成り代わる者】は靄と固体の中間の体に浮かぶ口から様々な色を煤で汚した様な暗色のガスの様な物を吐き出した


 美女とジャンヌが同時に前に駆け出すと、ジャンヌが美女の前に出て大楯を構える


 障壁が展開し、暗い色彩のガスを防ぐジャンヌの背を踏み台に上に跳び上がると、構えていた槍を突き出し、その先端から一筋の閃光がガスを貫いて【成り代わる者】へと放たれた


 閃光が本体の左側とぶつかると抵抗も無くあっさりと貫き、光に穢れた色彩が吸い込まれたかと思うと深々と円状に体の四分の一を抉り取った


 「「「ヒギャアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」」」


 悲鳴の様な絶叫を上げて明滅と変形を繰り返し、眼が錯乱した様に素早く瞳孔が拡縮を繰り返し様々な方向に動き回り、暗色の体液を撒き散らす


 やがて元の形態に戻った【成り代わる者】はしかし、その大きさが一回り小さくなっていた


 「「「ウアァアア…!何ダ?何ナノダソノちからハ!?一体何ヲ呼ンダ!!?」」」

 「かつて神代の時代に於いて忌まわしき神々を討ち滅ぼし封じた旧き神です。貴方をこの場で始末します」


 ジャンヌの冷静で相手の命を歯牙にもかけない冷酷な宣言と共に槍を構える。輝きが増し、先端に自身を滅ぼすに値する力が集約していく事を全身で感じ取った【成り代わる者】は、混乱が狂乱へと変わり、無秩序に触手や舌を伸ばしてジャンヌとヌトセ=カームブルへと一斉に突き出した


 一人と一柱が同時に盾を構える。歪な五芒星の中央に目とも円の皿の中に小さく灯る火ともとれる印―《旧き印(エルダー・サイン)》が刻まれた盾は、その中央の印が明るく輝くと共に、襲い掛かった触手や舌が殺到した


 その暗い極彩色の津波というべき物量に叩き潰されるかと思うも、しかし次の瞬間、盾の輝きに祓われるが如く触れた傍から忽ちの内に霧散する。そしてその向こうに無傷の女性が悠然と涼しい顔で立っていた


 そしてこの時、【成り代わる者】は遅まきながら体が削られる苦痛の中で理解した


 これは【恐怖】だと

 常にこちら愚かで哀れな傀儡たる犠牲者共に与え感じさせていた感情だと

 それが今、自身が感じている

 与えている時は滑稽で、面白く、愉悦的だった感情は今は只恐ろしい


 今まで機能していなかった生存本能という名の警鐘が喧しく大音声で鳴り響く


 此処から逃げろ!と

 敵う相手ではない!と

 このままでは確実に滅ぼされる!と


 僅かな冷静な思考が現れた時、それからの行動は早かった


 攻撃しながらも後方に注意を向けると、一気に靄の様な残滓の尾を引いて逃走を図る


 次の瞬間、二条の閃光が体を抉る。大部分を持っていかれたものの、僅かに体が辛うじて残り、その場から離脱する事に成功した

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 逃走して暫くした頃、薄い霧状の体になった【成り代わる者】は力を取り戻す為の獲物を探していた


 今の彼、又は彼女は先程の戦闘によって肉体の大部分と共に力を失った。今の彼にとってその存在を保つ為に一刻も早く宿主を見つけて血液に潜む必要があった


 あてもなく彷徨う【成り代わる者】はその時、一人の少女を見つけた。黒い日傘をさし、黒い刺繍の入った長手袋を着けて同じく黒い上品なワンピースを着た17歳くらいに見える少女は、開いた右手を動かし何かを指示し、時折スマホを取り出して何者かと会話をしている


 丁度いい獲物を見つけた


 そう思った【成り代わる者】は直ぐに少女へと忍び寄ると、一気に飛び掛かった


 次の瞬間、右手が虫や嫌な臭いを払う様に【成り代わる者】に向けて軽く掌を開いて振るわれる。それと共に【成り代わる者】の存在はこの世から完全に消し去られた


 『?どうした、アン』

 「何でもないわ、カール。ある程度事態が鎮静化したら【神怪課】と連絡を取りましょう。【第十三支部】辺りが丁度いいんじゃないかしら?」

 『分かった。何て連絡をする?』

 「『【黄昏の魔女】アンシャトレーヌが貴殿らとの共闘、或いは共同戦線を持ち掛けている』とでも言ったら良いんじゃない?」

 『ではその様にしよう』

 「宜しくね」


 スマホを仕舞った少女は先程消滅させた存在の正体を終ぞ知る事無く、部下達への指示を再開した

解説

【成り代わる者】

・オリジナル神話生物。【百万の恵まれたる者】と呼ばれる邪神【ニャルラトホテプ】の関心から恩恵を受ける種族の一種

・血液を媒介に対象に寄生し、その名の通り【成り代わる】。記憶等も奪う為、親しい者でも気づかない場合が多い

・血液を摂取する程力が強大になり、中には下級の神格と同等の力を持つ個体もいる

・流動する異次元の気体の様な肉体の為、純粋な物理的ダメージは全く効果はない。魔術や魔術が付与された攻撃、電気は有効な損傷を与え、特に後者は甚大な被害を与える

・極度の低温、凝固剤等の化学物質は対象の動きを止め、物理的損傷を与える事を可能にする。また、一般的な液体が瞬時に蒸発する程の高温は【成り代わる者】を完全に死滅させる事が可能である

・僅かな傷口からでも寄生が可能。また、対象にトラウマを与える幻覚を見せる事もある


・STR:宿主(1D6+α) ・CON:4D6+α ・SIZ:宿主(1D6+α) 

・DEX:3D6 ・(APP:宿主) ・INT:4D6 ・POW:6D6 ・(EDU:宿主) ・移動:徒歩8/浮遊3 装甲:異次元の気体  耐久:CON+SIZ+α +αは吸収したSTRD3分増加、またダメージ毎に減少

攻撃・拡大:100%:幻覚による1D6SAN喪失

  ・触手:1D6+DBか《組付き》

  ・寄生:《組付き》後、POW対抗。成功後に次のラウンドから毎ラウンドSTR、CON、POW、INTを1D3吸収

  ・吸血:1D6のSTR吸収

  ・嘲笑:POW対抗失敗時にそのラウンドの判定-20%

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