82.土壇場の覚醒
回想が終わり戦闘に戻ります
【第十三支部】設立については書く予定は現在ありません
それからは特に語る事は大して無い
互いに言葉を交わす事が無いまま数日経ち、樋口の絞首刑による死刑が執行。其れなのに何故か生きて再び自身の牢獄へと戻って来て、それから更に数日経って再び執行されて又生きて戻ってきた後、更に数回処刑方法を変えて執行された数日後に、唐突に【第十三支部】設立と、樋口や紀矢子を含む十数人の囚人の強制的な所属を条件とした釈放が宣言、というか通達がされた
一癖も二癖もある囚人達は全員が条件を了承し、【第十三支部】が設立と共に活動が開始された。最初は互いに関わり合う事はなかったが、支部長である荒八木剛三郎の指示と互いの得手、不得手を補い合う形で交流し、馴染み合う事が出来た
紀矢から紀矢子へと名を変えた彼(彼女)も任務の傍ら、兄の情報を集めていた。そして今、探し求めていた男が眼の前に立っていた
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「ハァアア!」
―ガキーーン!!
紀矢子が風を切り裂いて袈裟斬りに振り下ろす白刃を兄はニヤリと厭らしい笑みを浮かべて真正面から迎え撃つ。圧倒的な膂力の差に押されて下がる紀矢子に兄は返す刀で豪速の刃が紀矢子の下に迫る
「フッ!!」
すぐさま体の前に日本刀を滑り込ませると角度を付け、体を捻って攻撃と同じ方向に向き合うと後ろに跳ぶ。刀の腹に当たった刃が滑るとガチガチと音が鳴り、火花が散る。攻撃と同じ方向に跳ぶ事で衝撃を軽減した紀矢子は着地すると直ぐに前傾姿勢になり前に踏み出した
「無駄だ!何度やっても向かってきても俺には届かない!」
兄の言葉通り今まで何度も切り結んでいたが、一度もその刃は届いておらず、むしろ向こうからの攻撃で細かな切り傷が所々に刻まれていた
「クッ!」
「どうした!?こんな物か!?」
重く鋭い連撃に紀矢子は受けに回るしかなく、思わず声を漏らす。その時、下からの斬り上げで刀が弾かれて明確な隙を晒した
「しまっ!?」
兄が笑みを深めて日本刀を振り下ろす。紀矢子は視線を逸らす事無く被害を最小限に抑える為に体を動かしていると、掲げられた日本刀を持つ腕の中央に高速で飛来した何かによって吹き飛ばされた
「ギッ!?」
「なっ!?」
少し遅れてドパンッ!という大口径の銃声が微かに鳴り響いた事で、一連の出来事が紀矢子の危機を救う為の、針の穴に糸を通す様なかなり高度な超遠距離狙撃による支援射撃であった事を理解する
紀矢子は直ぐに刀を構え直すと裂帛の気合を込めた声を上げて切り掛かる
「はぁああああああああああああ!!」
「っ!舐めるなぁ!!」
兄は驚く事に銃弾で腕を吹き飛ばされた激痛で意識を失わないどころか、宙を舞う日本刀の柄を握り締めた右手の切断面に近い部分を掴むと、それを柄にして上段から縦一文字に振り下ろした
日本刀には濃密なまでに圧縮された魔力が刀身に渦巻き、重圧を感じさせる闘気が大気を歪める。その凝縮された狂暴な猛威を前に額から冷や汗を流す紀矢子は、眼の前の脅威に対処する為に集中力を高めていった
その時、キンーッ!という清らかな澄んだ金属を鳴らしたような音が自身の内部から響く。眼の前の光景が酷く緩慢になり、周囲の雑音が一切なくなる。しかし紀矢子は既にそんな事は頭になかった
何かを思考する前に体が動き、流れる様に切り掛かる為に振り上げていた腕が体の前に引き寄せられ、刃先を左下に下した受けの構えを取る。それと共に今まで以上に感じられる自身を循環する魔力の流れが腕に向かい、そのまま自身が構える刀―【血吸・童子切安綱】へと流れて薄い膜となって覆われる事を感じ取った
流れ出る自身の魔力が形成する薄皮の様なそれは、これまでにない程の魔力を使いながらも今までにない程繊細で緻密な操作で形成された強靭な結界の姿
―其れは正しく極限まで高められた集中力が無我の境地へと到達した証
―其れはこれまでの自分を越え、新たなる段階へと到達した事で発現した力
―其れは風の無い凪の湖畔の様な漣一つない明鏡止水の域まで達した平静の精神
ゆっくりと振り下ろされる兄の日本刀の刃と【血吸・童子切安綱】の刃がぶつかる刹那、纏う魔力の解放と共に兄の日本刀を斬り返した
瞬間、兄の体が正面に吹き付ける魔力の暴風ともいうべき奔流と共に、大きく後ろに吹き飛ぶ。対する紀矢子はその場から動く事無く、斬り上げたままの体勢で立っていた
「グオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?
何故だ!?何故お前がその技を!?【反鏡】を使える!?」
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【反鏡】
それは《仙防術》に於ける反撃の技の奥義にして終着点の一つ。武具や己の肉体に極限まで高め且つ圧縮された魔力で覆い、敵の攻撃と接触する刹那に解放し、敵を討ち倒す技
この時、敵の攻撃の威力を体の動きのみで最小限まで吸収し、尚且つ吸収した敵の攻撃に加え、自身の攻撃、魔力の解放による威力を最大限まで相手に打ち込む事が出来る程の膂力と体幹が求められる技であった
だが、実は紀矢子には本来この技を使える要素が一切無い。その不可能を覆したのが直前に至った境地だった
極限まで制御された魔力は体表だけでなく、筋肉、骨の細胞一つ一つまで行き届き、その能力を最大まで引き上げて今まで以上の力による自壊を防ぐ。脳は極限まで研ぎ澄まされた思考が一切のリミッターを解除し、所謂火事場の馬鹿力と呼ばれる力を発揮して今まで以上の能力を得る事に繋がった
この二つが噛み合う事により、本来なら扱う事が叶わない大技を土壇場で使用した上に成功し、且つ反動でその後に自壊する事で再起不能になる事態を避ける事に成功していたのだった
次回、紀矢子回は終わる筈、多分




