77.処刑後の危機
ちょっとした三人に関する説明と処刑回です
残酷な描写があるので苦手な方は気を付けてください
此処で少し三人、特にカナリアと鏡華の話をしようと思う
【第十三支部】に於いて孝義、カナリア、鏡華の三人は基本的に共に行動し、アルベルトに転生以前の男―樋口圭吾の部下だった事から三つ首の猟犬になぞられて【ケルベロス】と呼ばれる事があった
そこである者が暇潰しに『三人の中で一番ヤバいのは誰だ?』というアンケートを行った事がある
その結果、孝義と圧倒的な差をつけてカナリアと鏡華が選ばれた。その理由が孝義が『理性的で公私を交えず行動出来る』事に対して、二人は『スイッチが入った時、何をするか分からない』からであった。その事から【忠実なる猟犬】と孝義が称されるのに対し、カナリアと鏡華は【狂犬姉妹】と仲間達に呼ばれていた
カナリアの物質創造能力と、【盲目の封縛姫】の二つ名を持つ鏡華の鎖による拘束能力、更に複数の魔術を使って時折ターゲットを拷問や凄惨な目に遭わせる事があったからだ。それも笑みを浮かべて
その為、多くの被害者が精神を病むか完全に壊れて精神病院送りになる事があった
因みに、カナリアは元々はそんな事は無かったが、当時ジャンヌが手を離せない時があり、その時に一見すると大和撫子の真面な女性に見える鏡華に深く考える事無く任せた結果こうなった。なってしまった
後にその事を知った樋口は鏡華を呼びつけて叱り、考えなしに任せた事を頭を抱えて死ぬ程後悔したという
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カナリアは紺の動き易いジャージの様なズボンのポケットから一本の細長い小型のボイスレコーダーを取り出すとスイッチを入れ、中に録音された音声が流れだす
カナリアの声で紡がれるそれは、深い水底から響く様な低くおどろおどろしい声で言いようがない不気味さがあった。それとは別にカナリアは自身の口でボイスレコーダーから流れる物とは別の【歌】を紡ぎ出した
号泣する様に、或いは吼える様に歌うカナリアの声がボイスレコーダーから流れる声を絡みあって響き渡る。そしてその内、権蔵の身に変化が起こった
「ングッ!?ゴハッ!?ガッ!?」
顔の痛みに暴れていた権蔵の動きが更に激しくなる。腕や顔等の露出している部分の血管が浮き出し、火脹れの様な物が現れる。更に呼吸が苦しくなると、口や鼻からは次々と潮の生臭い海水らしき水が溢れ出し、服や体を濡らしていった
血液を沸騰させて対象を破壊する《ハスターの歌》、肺を海水で満たし窒息させる《深淵の息》
それがカナリアが使用した魔術の名だった
朗々とカナリアが奏でる魔術の二重奏で、権蔵の体が壊され、呼吸すら許されない。暫く笑みを浮かべて詠唱しながら眺めていたカナリアは唐突に顔を曇らせると、詠唱を止めて呟く
「飽きた」
「では終わりにしましょうか」
カナリアの言葉に鏡華は言葉を返すと、右手を横に振るう。すると権蔵の手足や首に絡まる鎖がジャラジャラと音を立てて締まり、更に外側へと引っ張られ始めた
「ウグッ、ゲホッ!や、止めでぐれ!降伏ずる!刑務所に戻る!だがら――ッ!!」
「さようなら」
鏡華の無慈悲な言葉が告げられると共に鎖が引かれた力で権蔵の手足や首が引き千切られる。支えを失った体はその場から落ちて、グシャリと傷口から【血金】を垂れ流して暫し痙攣する。その近くには権蔵の手足と、両目が飛び出そうな程見開かれた苦悶の表情を浮かべる頭部が少し遅れて落ち、そして胴体の痙攣が止まると同時に、臙脂色の汚泥へと変化すると【血金】の熱によって発火し、直ぐに炎に包まれた。
「相変わらず悪趣味…な…。どう云う、事だ?」
「人間ではなかったと云う事でしょうか?」
「後で報告しよう。それで何故今まで何もしなかった?」
孝義は眼の前で起きた異常について考えながらも油断無く見据え、今まで腕を組んで何もせずジッと見ていたマッチョの男に問い掛ける
「ん?あぁ、何やら面白そうな見世物が始まったから見ていただけだ。それに折角三人いるのに態々一人一人相手する必要はないだろう?」
「大した自信だな」
孝義の皮肉気な言葉にマッチョな男は肩を竦める
「そうでもないさ。先手は譲るから掛かって来ると良い」
「舐めやがって。鏡華、カナリア」
「えぇ」
「うん」
無防備に両手を広げる男に、孝義は二人に声を掛けると【鬼斬】を構えて地面を蹴る。鏡華は素早く鎖を伸ばして男の手足に巻き付け、気を付けの姿勢で拘束する。カナリアは重力球を三つと無数の銀の針を自身の周囲に形成して浮かばせると、男に接近する孝義の邪魔にならない様に調整して一斉に撃ち出した
三人だからこその言葉を交わす事無く出来る見事な連携だった。鏡華による行動の阻害、カナリアの遠距離からの毒針による蓄積するダメージ、孝義による肉薄後の強力な一撃
バランスの取れたそれは大抵の者を容易く打ち倒す事を可能にするだろう
「ふん」
――相手がそれを上回る規格外でなければ
鏡華の生み出した鎖が容易く引き千切り、左腕を引くと筋肉を大きく隆起させ、接近する孝義に殴り掛かった。バン!という圧縮された大気が破壊される音が鳴り、直ぐ傍まで来ていた孝義に凄まじい速度で迫る
「グッ!?」
咄嗟に【鬼斬】を拳と体の間に滑り込ませて右に跳ぶも、男の拳の威力を完全に殺す事は出来ずにカナリアと鏡華の下へ大きく吹き飛ばされる。鏡華は右手の白杖を捨てると素早くカナリアを抱き締め、新たに左腕から伸ばした鎖をカナリアごと自身に幾重にも巻き付けて球状の防壁を構築した
吹き飛ばされた高藤が鏡華の障壁に大きな音を立てて激突する。障壁の表層数枚がその衝撃で砕け散り、その下の障壁に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。高藤も叩き付けられた衝撃で肺の中の空気が押し出され、苦悶混じりに息を吐くとバウンドして少し前に体が弾かれた
高藤は飛びそうな意識を辛うじて繋ぎ止め、よろけながらもなんとか両足で踏み止まる。強固な外殻ですら軽減出来ないダメージに朦朧としながらも男を見ると、そこには弾かれた銀の針が転がる中で、無傷で悠然とこちらに歩み寄る男の姿があった
それから数分後、その場に立っているのはほとんど最初に現れた時と変わらないマッチョな巨漢だけだった。建物は崩れ、アスファルトがめくれ上がった中で、【異形化】が解けた孝義や、カナリア、鏡華がボロボロになって地に伏している
「ふん、他愛ないものだ」
「…グ、ゥゥ…!」
鼻を鳴らして肩を竦める男に、満身創痍の孝義が【鬼斬】を杖の様に突いて体を揺らしながら立ち上がろうとする
「諦めろ。俺には敵わない」
冷たく見返してそう言うと、男は軽く腕を引いて再び殴ろうとする。その時
「止めたまえ」
落ち着いた低めの男の声と共に引かれた腕に手が置かれる。男が振り返ると、そこにはツーブロックの眉毛と顔が濃いガタイの良い日本人のスーツ姿の男性が立っていた




