74.黒獅子vs.蒼狼4
予定通り···良かった
「が、はっ…!」
黒雷を撒き散らし回転する刃に深く抉られたアルベルトの傷口から鮮血が飛び散る。槍から手を離し、背中を丸めて黒煙が立ち上る胸の傷口を押さえて数歩後退ると、咳き込み血の塊を吐く
手の甲で口元を拭って身体を起こすと、口角を無理矢理吊り上げて笑みを作って言った
「やってくれるぜ。かなり効いたよ」
アルベルトはややひきつった薄い笑みを浮かべたまま腕を小さく振る。何となく嫌な予感を覚えた高藤が槍から手を離すと、地面に転がった槍が突然発火し、黒い粒子となって拡散した
やや光量が下がった交差点でアルベルトは困った様に笑う
「勘が良いな。あのまま燃えてくれれば楽だったのに」
笑いながらもアルベルトの眼は笑わず油断無く高藤を見据え、両腕が黒鱗に覆われた水晶の様な爪を持つ蒼い獣の腕へと変化させた。袈裟斬りにされた傷口もいつの間にか流血が止まっている
アルベルトは地面を蹴る。高藤は右手に持つ黒雷を纏うチェーンソーを斜めに力強く振るう。そこから黒雷の斬撃が放たれ、大気を打ち鳴らして、地面を跳ね回りながらアルベルトへと突き進んだ
更にいつの間にか手元に戻っていた左手のチェーンソーからも同様の斬撃が横真一文字に放たれ、そこから流れる様に無数の斬撃が縦横無尽に襲い掛かってきた
アルベルトは最初の斬撃を半身でかわし、次の斬撃をその場で転がる事で回避する。そこから針の穴に糸を通す様な精密さで暫く斬撃をかわしていたアルベルトだが、その隙に黒雷化して真横に迫っていた高藤に気付くのが一瞬遅れた
確実にアルベルトを殺さんとする高く澄んだ駆動音を鳴らすチェーンソーに対し、アルベルトは回避する事を諦め、右腕に黒焔を纏わせると未だ正面から襲い来る斬撃もろともチェーンソーを殴り付けた
斬撃は拳圧で消失し、拳に纏う黒焔とチェーンソーに纏う黒雷がぶつかり合う。黒い火花と放電が両者の間に飛び散り、衝撃が波となって同心円状に空間ごと大気を揺らす
互いに互いの攻撃の威力で後ろに弾かれて数歩下がる。そして同時に互いに向かって地面を蹴った
アルベルトは高藤のチェーンソーの振り下ろしをかわすと溝尾に手刀による突きを放つ。それを半身でかわした高藤は更に身体を捻り、軽く跳ぶとアルベルトの頭目掛けて後ろ回し蹴りを繰り出した
アルベルトは屈んで高藤の脚に手を添えて受け流すと、脚を伸ばして高藤の脚を払った。高藤はバランスを崩して倒れながらも、即座にアルベルトにチェーンソーを振り下ろした
アルベルトは振り下ろされるチェーンソーの腹を殴り付けると、地面に手をついてブレイクダンスか器械体操の様な横捻りを加えた宙返りすると、伸ばした脚の踵を高藤の頭に振り下ろして地面に叩き付けた
ズドン!という轟音が響き、高藤の血塗れの顔がバウンドして跳ね上がる。一瞬、気絶していた高藤は直ぐに意識を取り戻すと、黒雷化してその場から離脱した
アルベルトは数メートル離れた場所に移動した黒雷を纏う高藤に向かって駆け出す。高藤は纏う黒雷を操作すると、幾条もの黒い雷撃をアルベルトに向かって放つ
対するアルベルトは黒焔を両腕を中心に纏うと、進路を変える事無く真っ正面から突き進んだ
正しく迅雷と呼ぶべき高速で宙を駆ける黒雷が直ぐにアルベルトの眼の前まで到達する。それを正面から見据えたアルベルトはなんと黒焔を纏う右手で黒雷を殴りつけた
大気を打ち鳴らし全てを破壊せんとする黒き雷を、拳と共に吹き抜ける黒く揺らめく漆黒の焔が己の輝きにせんと焼き尽くす。その光景に驚きながらも黒雷を放ち、纏う黒雷の密度を上げて黒獅子と化そうとしている高藤に肉薄すると《瘴気》で棒を形成し、高密度の黒雷の上から高藤を横薙ぎに殴り飛ばした
高藤は地面を転がりながらも黒獅子へと姿を変えて、最初に使用した咆哮と共に放つ全方位攻撃を発動した。既に駆け出していたアルベルトは棒を鍔の無い刀に変化させると、黒焔を纏わせ、次の一歩で地面を踏み締めると力強く斬り上げ、黒焔の斬擊を放った
地を走る三日月を半分にした様な黒焔の斬擊は、半球状に広がる黒雷の一部に当たると僅かの間拮抗し、深く黒雷を斬り裂く
高藤が放つ黒雷と数回ぶつかり合い、斬擊は打ち消されたものの、その後ろから黒雷を斬り裂いて迫るアルベルトを止める事は出来ず、直ぐに距離が詰められる
その場から逃れようと足を動かして、そこで初めていつの間にか足が黒い触手の様な物に縛られている事に気が付いた
高藤は一瞬考えて、先程燃えて霧散した槍の《瘴気》が未だ停滞しており、それを操作した事に気付いた
そしてこの思考が明確な隙となり、アルベルトが振り下ろした刀が黒獅子の頸に吸い込まれる。高藤は僅かに頭を動かしてアルベルトを見ると、目に目的を果たせなかった悔しさを滲ませ、意識を失った
地に伏した黒獅子の身体がバチンという音と共に僅かに膨張すると、霧散してうつ伏せで倒れる高藤が現れる。能力を全て解除して、眼を元に戻したアルベルトは高藤を観察する。全身がボロボロで、能力を使っていたとはいえ良くあそこまで暴れ回る事が出来たと感心する
更に良く見ると、今回出来たとは思えない負傷もあるので、如何やら先程の乱入以前に何者かと戦闘を行った事が窺えた
「色々調べる必要がありそうだな」
そう呟くとアルベルトは高藤を肩に担いで【第十三支部】へと歩き出した
……御影宗一の事を完全に忘れて
暫くアルベルトの出番は無いです




