73.黒獅子vs.蒼狼3
次で終わる···筈
取り敢えず暑いので皆様、水分補給はきちんとしましょう
地獄の底から湧き出す様に下にいる者を踏みつけて這い出る【仏僧兵】は、赤子の様に四肢をついてゆっくりとアルベルトに向かって来る
アルベルトがそれに対処する為に槍を薙ぎ払う構えを取った時、それは起きた
黒雷の繭が弾け、黒獅子と化した高藤が姿を現すと【仏僧兵】を踏み潰し、頭を下げて湧き出す【仏僧兵】を喰らい始めた。口からはバリボリという硬質な物が砕ける音と共に、木や乾燥した骨肉の破片らしき物が零れ落ちる
更に、外側にいる【仏僧兵】が一斉に黒雷を放電したかと思うと、黒雷柱とも言うべき高電圧の黒雷の柱に呑み込まれ、一瞬でその姿を消した
この現象は段々と黒獅子に近付いていき、やがて黒獅子を中心としてゴロゴロと鳴る極太の黒雷柱がドォーン!!という腹の底に響く様な轟音を鳴らして天高く伸びた
数秒後、黒雷柱が消えると、そこには一切の傷も疲れもない人型になった高藤が、両手に幅の広いチェーンソーの様な刃と思われる部分が高速回転する物を持って、今すぐにでも飛び掛からんと前傾姿勢で膝をたわませ、腰を低く落として立っていた
「【ミゼーア】。俺の中に戻れ」
「む?何故だ」
「何となく自分の力で潰したくてな」
「そうか…。では戻ろう」
アルベルトの言葉に瓦礫の鋭角から傍らに現れた【ミゼーア】はやや不満気にそれだけ言うと蒼靄に姿を変えて、アルベルトの身体に染み込む様に姿を消す
最後の一欠片がアルベルトの身体に消えた時、申し合わせたかの様にアルベルトと高藤が同時に地面を蹴った
瞬間、互いの距離が僅か1m以下になるまで迫る。高藤が高速回転する幅10cm程ある外側に行く程、刃が小さく細かくなるチェーンソーを振り下ろす
アルベルトは姿勢を低くして、更に首を傾げる事でそれを紙一重で回避すると、そのまま刃の根元を持っていた槍で鋭い突きを放つ
攻撃直後の硬直がある為、【黒雷化】して回避するかとアルベルトは思っていたが、高藤はその予想を覆し、攻撃の動作を維持したままに地面を強く蹴って、身体を捻る事でまるで高跳びの背面跳びの様なフォームでアルベルトの上を跳び越えた
「なっ!?」
アルベルトは驚いて思わず声を漏らす。そんなアルベルトに構わず高藤は両手の回転する刃をアルベルトの無防備な頸に向けて、身体の回転の勢いを乗せて振り下ろす。対するアルベルトは敢えて前に出る事でその攻撃の間合いから外れる事に成功した
高藤は身体を大きく捻って足から着地すると、一瞬で姿勢を深く下げて、アルベルトに向けて銃弾の様に駆け出す。アルベルトは反転すると両足を踏み締め、黒槍の刃に魔力を込めると凄まじい速度で真一文字に振り抜いた
黒槍に込められた魔力は煌々と燃える黒焔となり、高速で振り抜かれた事で燃える黒い斬撃となって高藤へと襲い掛かる
「!……っ!」
高藤は初め、両手のチェーンソーを振るう。すると中央のチェーンが伸び、空中でたわんだ楕円の輪を形作りながら鞭の様にしなって黒焔の斬撃に叩きつけられた。しかし、斬撃はそれを弾き飛ばし、勢いを弱める事なく高藤へと突き進む
チェーンソーの刃を元に戻した高藤は、既に目前にまで迫った斬撃に対し、進む勢いを緩める事なく身体を後ろに倒すと、そのまま足を伸ばして斬撃の下に潜り込む様にスライディングをした
黒焔が鼻先を掠め、その熱量が顔を焦がす。しかしそれでも高藤は顔を背ける所か瞬き一つせずに、斬撃と地面の間をすり抜ける事に成功した
高藤は上半身の力だけで身体を起こすと共に、左右のチェーンソーを交差させて前に出す。その直後、直ぐ傍まで来ていたアルベルトが振り下ろした黒槍と正面からぶつかり合い、高速で金属が連続してぶつかる耳に響く様な甲高い音と、噴水か粘性の低い火山が噴火した時に湧き出す溶岩の様な赤みがかった黄色い火花を接触部から飛び散らせた
一瞬の接触。紅の獣の双眸と、金と紅のオッドアイの視線が交錯し、刹那のこの瞬間互いに次の一手へと身体を動かす
アルベルトは弾かれる力に逆らわずに黒槍を真上に打ち上げられながらも前に一歩踏み出す。高藤は弾いて引いた腕を戻しながらも身体を仰け反らすと、それを撫でる様に真下から振り上げられた黒槍の石突きが紙一重の所を通りすぎた
高藤の左右から振り下ろされる黒雷を纏う一対のチェーンソーの攻撃を、アルベルトは地面に刃先を突き刺して回転する力を利用して後方に下がり、左右に身体を傾ける事で最小限の動きで回避する
「――切り裂け《幽体の剃刀》」
回転する刃の連撃を回避しながら早口に呪文の詠唱を終えると、何処からともなく現れた不可視の剃刀が高藤の腕を切り裂いた
「っ!?」
予想外の攻撃に僅かに高藤の動きが鈍り、小さな隙が生まれる。アルベルトはその隙を見逃さず、黒焔を刃に纏わせた槍で高藤の脇腹を貫いた
「うぐぅっ!?」
脇腹を深く切り裂かれ、更に黒焔で傷口を焼かれた激痛に高藤は堪らず苦悶の声を漏らす。それでも尚、両足は地を踏み締め、目に宿る闘志は揺るがない
高藤は左手のチェーンソーを手放すと、素早く槍の柄を掴み固定する。そして右手のチェーンソーに膨大な黒雷を纏うと、アルベルトが槍から手を離すより早く振り下ろして肩から袈裟切りにした




