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72.黒獅子vs.蒼狼2

後数話続きます

皆様、最近暑いので体調管理、水分補給はしっかりしましょう

 見つめ合う二人。最初に動いたのは高藤だった


 地面を蹴ると、瞬く間にその距離を縮めて逆手に持つナイフの切っ先をアルベルトに振り下ろす。それを一歩下がって更に体を反らす事で避けたアルベルトに、高藤は瞬時にナイフを小さく投げて順手に持ち替えると、返す刀で鋭い刺突を繰り出した


 アルベルトはそれを半身でかわすと、小さく詠唱する。次の瞬間、高藤はその場から後ろに大きく吹き飛ばされた


 「【ミゼーア】」


 アルベルトが短く名を呼ぶと、アルベルトの背後の瓦礫の角から現れた蒼狼が、真っ直ぐに高藤に向かって宙を駆ける


 高藤は瓦礫の上に足を付くと、その身を黒雷へと変えて【ミゼーア】の脇をすり抜けようとするが、そんな隙を与えずに蒼い粘液が滴る前足を叩き付け、真横に吹き飛んだ


 交差点を血塗れになって転がった高藤は、その勢いを利用して直ぐに立ち上がる。そして直ぐに背後から感じた気配に何か考えるよりも先に身体が動いた


 その場で横に転がると共に先程いた場所にナイフを投げる。高藤の背後から飛び掛かったアルベルトは蒼い粘液で覆われた手甲に付いた鉤爪で地面を抉ると、更に前に出て飛来したナイフを回避する


 即座に空中で身を翻したアルベルトは直ぐ様、人間の物に戻した左手で抜いた拳銃を高藤に向けると発砲する。銃弾はまだ体勢を立て直していない高藤の目の前まで行くと不自然な軌道を描いて外れる


 その事が予想出来ていたアルベルトは着地と同時に拳銃を仕舞うと、《瘴気》を操作して、全長1m程の四分の一が刃になった【突き】ではなく【斬る】事を目的とした漆黒の諸刃の槍を作り出した


 体勢を立て直した高藤に【ミゼーア】が襲い掛かってそれを回避する。そしてその回避先にいた(・・・・・・・・)アルベルトが黒槍を高藤に向けて振り下ろした


 「ウグァアア!?」


 高藤は咄嗟に身を捩って回避しようとするが、間に合わずに肩から腕が切り落とされる。その激痛に思わず声を漏らした高藤は、その身を黒雷に変えるとアルベルトと【ミゼーア】から離れた場所で姿を戻した


 切り落とした筈の腕が戻っている。肩を右手で押さえ、荒い息を吐いてこちらを睨む高藤を見て、アルベルトが口を開いた


 「やはりその能力は(・・・・・・・・)体力の消耗が(・・・・・・)激しいようだな(・・・・・・・)


 アルベルトは初め、黒雷化による高速移動からの奇襲や黒雷による攻撃その物を警戒していた。しかし、先程の回避やナイフでの攻撃で『連続使用か多用が出来ないのでは?』と考えたのだ


 そして今、目の前の高藤の様子から恐らく体力の消耗が激しいのだと結論付けた。特に二度程使用した物理攻撃無効、或いは絶対回避の能力が消耗し易いのだろう


 高藤はアルベルトの言葉に対して言葉も反応も返さない。しかし注意深く見ていないと見逃してしまいそうな程一瞬、微かに顔を歪める。その事がアルベルトの言葉が間違いでない事の確かな証拠であった


 アルベルトは自身の予想が正しかった事を確信すると共に、今までの戦闘で得た情報を整理する


 高藤の能力は大きく五つ


 1.【黒雷】:《瘴気》を帯びた電撃を生み出す能力。電撃による高い威力と速度に加え、《瘴気》特有の物質崩壊効果を持つ。但し効果が低く、治癒能力を阻害する程度の様だ

 2.【渦】:空間か力場を歪めて渦を作る能力

 3.【黒雷化】:自身の体を【黒雷】に変えて電気と同じ速度で移動したり、物理攻撃を無効、又は回避する効果を持つ。但し体力の消耗が激しい為、恐らく多用する事は出来ない

 4.【瘴黒武装】:《瘴気》を操作して漆黒の物質を形成する能力。先程のナイフが恐らくそれだ

 5.【黒獅子化】:【黒雷】を纏った獅子となる能力。御影との戦闘に乱入してきた時に放った咆哮と共に放った放電や【黒雷】による遠距離攻撃が厄介だ。人型と行き来する際、【黒雷】で体を覆うのでその間の攻撃は互いに出来そうに無い


 これらをどう攻略するかが鍵だろう。それに未だ【魔術】を使用していないとは言え、【魔術】が使えないと決め付ける事も出来ない為、それを警戒する必要もある。とはいえ【青梅村】での様子から使えない可能性が高いが


 高藤は肩から手を離すと、その身に黒雷を纏って全身を覆う。黒雷が消えた瞬間に攻撃しようと駆け出したアルベルトは、直前で高藤から放たれる名状しがたい重苦しい気配に足を止めた


 高藤の足元が波打ち、そこから何かが出て来る。それは木製の指や腕の一部が欠けた小さな子供の様な手だった。波打つ地面に手を付いた何かは波紋の中から這い出て来る。首をガクガクと揺らし、錆び付いたブリキ人形の様に関節を軋ませるそれは子供程の大きさの仏像だった


 そのどれもが所々掛けており、中には顔半分が欠落している個体もあった。そして悍ましい事にその欠落した顔があったとみられる空間の奥にはまるでミイラ化した人間の様な、肌がささくれ立って眼窩が窪み、頬がこけ皺枯れた別の顔が存在していたのだ


 眼は爛々と狂的に輝き、乾燥して罅割れた口元は薄気味悪い笑みを浮かべている。波紋から湧き出し、折り重なる無数の不気味な像が蠢く様は、質の悪い悪夢がある種の地獄の様な光景だった


 そしてアルベルトは無意識の内に理解する。あれは(・・・)元々人間だった事を(・・・・・・・・・)


 それと共に以前見た呪具に関する資料にあったとある呪具の名が頭に浮かび、忌々し気に呟く


 「【仏僧兵】か」


 【仏僧兵】


 第二次世界大戦時に旧陸軍が秘密裏に行い、生まれた【一級】指定される呪具で、その材料に使われたのは身寄りの無い孤児だった


 様々な非人道的な呪術実験が行われるも結局実戦に投入される事は無く、理由は終戦までに間に合わなかったとも途中で組織が崩壊したとも言われているが、少なからず作られた呪具は確かに存在していた


 その一つこそが【仏僧兵】であった。更にその上に【仏神兵】と呼ばれる呪具があるとされているが、詳しい記録は一部を除いて戦後に人知れず破棄された為、残っておらず分からなかった


 そしてそれが今、目の前にある。新たな脅威にアルベルトは苦々し気に顔を歪ませたのだった

リアルの都合上、投稿日が前後する可能性がありますのでご了承ください

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