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6.森へ

どうもです。朝の珈琲は至福の一時です

 両親と姉のレイチェルに俺が転生者である事を打ち明けて2ヶ月程経った。あの日以降、これからの為に必要な物の用意やこの世界についての勉強を兄のエイブラハムやレイチェルと共に受けていた。ジャクソンからは模擬戦以降、憎々し気な眼で見られるが勝てない事が分かっているのか突っかかって来る事が無くなった


 「―では今回はここまで」

 「ありがとうございました」

 「はぁ~。終わった~!」

 「お疲れ様です。お姉様」

 「アルベルト、そういえばガリウスが部屋に呼んでいたわよ」

 「分かりました。お姉様、マリエルお母さま、失礼します」

 「じゃあね~」


 物に魔法を付与する魔法工学の授業を終えた俺は二人に軽く会釈するとガリウスが待つ執務室に向かう。執務室の前に着くと扉をノックし名乗る


 「アルベルトです」

 「入りなさい」

 「失礼します」


 扉を開けて中に入ると両端に書類が積み重なった机の向こうにガリウスが座って待っていた


 「それで何の用でしょうか?」

 「お前に頼まれたナイフが出来てな。後、何時もの羊皮紙と魔石が20だ」


 そう言ってガリウスは引き出しからA4サイズの羊皮紙の束と革袋、三本の黒茶色の革の鞘に納められた装飾が少ないナイフを取り出し、机の中央に置く


 「ありがとうございます。ナイフを抜いて見てもよろしいでしょうか?」

 「構わんよ」


 ガリウスの許可を得て、俺は三本ある内の一本を手に取り、鞘から抜く。刃渡り50cm程の片刃のナイフで刃が薄い。峰には鋸の刃の様なギザギザした部分―ソードブレイカーがあり、注文通りの出来だった。柄は黒い革が巻かれ、汗を掻いても滑る事は無さそうだ


 俺は想像以上の出来に思わず笑みを浮かべて感嘆の言葉を漏らす


 「これは…、想像以上ですよ。ありがとうございます」

 「何、危険な森に隣接している様な場所だ。それ位構わない」


 俺はその言葉に感謝を口にすると深く頭を下げて退室すると、レイラに羊皮紙と革袋を預けてナイフ三本をベルトに固定して革鎧を着ると訓練場に向かった。訓練場には既に銀に輝く金属鎧を着た30代位の顎鬚が生えた中々男らしい顔の男―レイガード辺境領の騎士団長、アルグス・ドルグレムとその部下達数人がおり、俺に気付くと一礼する


 騎士団達とは1ヶ月位前にガリウスの紹介であった。アルグスとの模擬戦を行った時、俺の事を舐めていたので縮地の応用の短発刺突技、【閃突】を使って一撃で沈めた。これによりアルグスの鎧が砕けて穴が開き、訓練用のダガーが砕け散った。因みに斬撃技は【一閃】である


 それ以降、俺は騎士団の皆と混じって訓練している。アルグスを含む一対多人数の模擬戦は中々楽しい物である。だが、今日は他にやりたい事があった


 「待たせましたね」

 「いえ、私達も今来た所です」

 「実は頼んでた武器が出来ましてね」

 「それでは」

 「えぇ、今日は森に行きたいと思います」

 「分かりました。よろしくお願いします」

 「こちらこそお世話になります」


 俺は騎士団の皆に頭を下げると騎士団と共に【ギルム・ヘルムの大森林】に続く門に向かう。森と領地を区切る壁にある高さ2m程の両開きの鉄扉の前に立つと、アルグスが扉の横にある受付の様な場所にいる男を言葉を交わし、扉を開けた


 門の向こうは手前に赤土の地面が帯の様に横に伸び、その先に鬱蒼と茂る森が広がっていた。俺は腰に付けたポーチから鳥型に切り抜いた羊皮紙を取り出す。嘴の付いた頭部に当たる丸い部分に血文字で【偵鳥ていちょう】と書かれ、末広がりの胴を埋め尽くす様に梵語が書かれたそれを5枚右手に持つと号令と魔力をもって力を解放する


 「【偵鳥】よ。哨戒しろ」


 俺が式神を抛ると薄い紙なのに扇状に滑る様に滑空し、途中で膨らみ40cmの白い鳥に変わると羽ばたいて飛翔した


 「今のは?」

 「式神という使い魔みたいな物ですよ」

 「そうですか。中々便利そうですね」


 戦闘で使われる様な魔法や武器には詳しいアルグスだが、使い魔や召喚術、降霊術等の使役型の魔法に関しては余り良く知らなかった。その為、俺が使う式神はこの世界に無い物だとは分からなかった様だ。初めてマリエルにこれを見せた時、凄く驚かれて説明が大変だった


 俺がその時の事を思い出して少し遠い目をしていると哨戒をしていた式神の一体から思念が届く


 『4番ヨリ報告。1時ノ方向ヨリ接近スル大型生物ヲ確認。仮定名称:キメラ。距離ハ450m先。進路変ワラズ』

 「了解。アルグスさん、やや右前方に大型生物が接近。恐らくキメラです」

 「キメラだと!?こんな表層にか!?総員戦闘準備っ!」

 「はっ!」


 アルグスや騎士団員の反応は間違っていない。キメラとは一般的な山羊の頭部、獅子の胴、蛇の尾を持つ個体を中心に様々な種類がおり、キメラ種という独立した一種族として扱われている。その力は幅が大きいながらも大きく、最低でも騎士団が相手する必要がある程だ


 Fを最低としてE、D、C、B、A、G、Sに区分される冒険者のランクで表すと最低Bに指定され、一流の冒険者でも一人では簡単には狩れず、チームでも手を焼く存在である。何より個体によって能力や耐性、行動等が変わり、他の個体と一切の共通点を持たないという厄介な特徴を持っていた


 「一応、まだこちらに来るまで時間はありますけどね。【爆隼ばくじゅん】、敵射程圏外より強襲せよ!【戦烏せんう】、敵の攻撃を牽制しろ!」


 俺はポーチから新たに頭部に【爆隼ばくじゅん】と書かれた10枚一組の式神と、【戦烏せんう】と書かれた4枚一組の式神を取り出すと紐を解いて魔力を流して放ち、式神としての姿を解放する。白いはやぶさとなった式神は鋭い爪の付いた脚に大人の握り拳程の大きさの黒い結晶を二つ持ち、白い烏は護衛する様に前方に大きく広がって、キメラがいるであろう方向に飛んで行った

解説

【ギルム・ヘルムの大森林】

大陸の中央にある広大な大森林


森の外の魔物より強く、中央に行くにつれて魔物は強大になるが、理由は現在も解明されていない


一説によると巨大な魔力溜まりがあるといわれている


『其処は魔境。人よ、溢れた者らは生存競争に敗れた脱落者に過ぎぬ


 広大な揺り籠は遍くを受け入れ、弱き者を糧に、強き者は更なる闘争に身を投じて高みへと歩む


 生きる能力こそが正義と知れ。弱きは罪と知れ。敗者は淘汰され、屍は勝者の踏み締める大地となる』

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