70.猟犬覚醒
タイトルを【刻界の魔術師は生まれ直して気儘に歩む】に変更しました
戦闘は継続です
顔を上げたアルベルトは自身の身体から湧き出す懐かしい力を感じていた
肉体が人ならざる別の物に変質し、心臓や脳等の器官が隣接する鋭角の並行次元に侵食する。特に脳は肥大化する際にそれを抑制する頭蓋骨から解き放たれ、思考能力や演算能力が飛躍的に向上する
また、肉体の変質により、全身の傷口から血液の代わりに蒼い粘液が染み出ると、瞬く間に傷が収縮して何事もなかったかの様に消え去った
それは内部も同じで全身を駆け巡っていた激痛は欠片も無い。あるのはここまで良い様にされた不甲斐なさと屈辱に対する怒りだけだ
背後に蒼靄が集まると、5m程の何らかの獣らしき物の朧気な輪郭が形作られる。それは一見して何なのか判別する事が出来ない様な姿だったが、御影と高藤は一目見て何故かそれが【狼】であると認識した
アルベルトは内から溢れんばかりの力を感じながら、地面に突き立てていた【ダインスレイフ】を引き抜く
この姿こそ【双頭の猟犬】の二つ名を持つ、かつて【樋口圭吾】という名だった男の本来の戦闘形態の一つであり、背後に控える異形の巨狼と彼自身の圧倒的な追跡能力から名付けられた二つ名だった
二人は同時に理解する。あれを相手にしてはいけない。今直ぐ此処から離れなければならないと
本能が激しく警鐘が鳴らし、二人は目に怯えの色を浮かべながら、決してアルベルトから目を離さず、無意識の内に数歩距離を取る
アルベルトは二人を視界に収めると無造作に左手を振るう。一瞬、二人はアルベルトが何をしたか分からずにいたが、次の瞬間空気が、否、空間その物が大きく揺れた
小刻みに揺られる事で平行感覚が掻き乱され、その場に立っていられなくなる。要するに酔った状態に陥ったのだ
これが足止めだと判断した御影は即座に血の短槍や西洋剣を形成すると、アルベルトに向けて解き放つ。その横では高藤が電磁力を使って鉄筋コンクリートの残骸を浮かび上がらせると、援護とばかりにアルベルトに向けて飛ばしていた。敵の敵は味方という言葉は本当の様だ
「さて」
「うむ」
迫る血の槍剣と瓦礫を見た一人と一体は短く声を出すとそれぞれ動いた
先ずはアルベルトが【ダインスレイフ】を振るうと、幾つもの血の銃弾が現れ、回転しながら瓦礫のみに殺到して粉砕する。そして蒼に巨狼は駆ける様にアルベルトの前に出ると、深く裂けた口を大きく開いて血の槍剣を一息で呑み込んだ
その光景は異常だった。何故なら僅かに巨狼の口から離れていた物まで巨狼の口が閉じると共に消えたのだから
巨狼と狩人が駆け出す。向かい来る槍剣や瓦礫を物ともせず、逆に足場にすらして宙を駆け抜けて確実に獲物に近付いていく
「……」
アルベルトが既に最初の半分程の距離まで来た時、高藤は攻撃を止め、その身を黒雷へと変えるとこの場からの逃走を謀る。しかし彼は、否、彼らは気付いていなかった
今接近してきているのが何時の間にかアルベルトだけである事を
黒雷が駆け抜ける先、傾いたビルの割れた窓ガラスの鋭角から蒼い靄が溢れ出す。それは直ぐに先程までアルベルトの背後にいた巨狼へと姿を変えると、水晶の様な鉤爪を振り下ろして地面に叩き付けた
御影が思わず振り返ると、蜘蛛の巣状に亀裂が入って陥没したアスファルトに倒れ伏す高藤と、それを踏みつけて金色の双眸を向けて、先端の鋭い長く赤い舌を揺らす巨狼の姿があった
余りの光景に呆然としていた御影がそれに気付いたのは、ひとえにこれまでの戦闘で培われた第六感とも言うべき危機察知能力の賜物だろう
僅か、本当に極僅かに背後から感じた殺気に、御影は考えるよりも先に素早く地面にしゃがみ込んでいた。その数瞬後、音も無く頭上を通り過ぎる何かと、後を追う様に髪を揺らす微かな風
そこで漸く思考が追い付いた御影は背筋が凍る感覚と共に理解する。今、僅かにでも反応が遅れていれば間違いなく首が落ちていたと
御影は直ぐ様、斥力を生み出して周囲の物を弾き飛ばす。その間に御影は立ち上がると、振り返って腰の拳銃を抜き撃ちした
重力に押されて身体が宙に浮いていたアルベルトに向かって放たれた銃弾が迫る。幾つかの銃弾は振るわれた【ダインスレイフ】によって斬り払われたが、全てではなく銃弾がまるで追尾する様に軌道を変えて脇腹等を穿つ。しかし
「な、何だと!?」
御影はその光景に思わず驚愕の声を上げた。だがそれも仕方ない事だろう。確かにアルベルトの身体を穿った銃弾は、流れ出す蒼い体液に押し流されて地面に落ち、身体に開いた穴は時間が巻き戻る様に塞がってしまったのだから
一連の出来事に動揺して、重力の操作が不安定になる。その隙を見逃さず、アルベルトは強く地面を蹴ると、左眼に一筋の蒼い眼光を走らせ、御影とすれ違いざまに【ダインスレイフ】を振るった
御影は暫く同じ姿勢で立っていたが、数拍後、「ガハッ!」と声を漏らすと白目を向いて、膝から崩れ落ちるとそのままうつ伏せに倒れた
「【狩猟者】撃破。峰打ちだから生きてるだろ」
アルベルトは【ダインスレイフ】を地面に突き立てると外套の裾の裏から手錠を取り出して後ろ手に拘束する。更に足にも手錠を掛けて、万が一舌を噛み切ったりしない様に猿轡を噛ませて、ついでに目隠しをして、足を折り曲げ体を反らせて手足に付けた手錠のチェーン同士を更に手錠で繋いだ。明らかにそこまでする必要はない
会心の出来に満足した思わず額を手の甲で拭うと、凄まじい放電音が鳴り響き、もう一人いた事を思い出してそちらを向いた
そこには再び黒獅子へと姿を変えた高藤が、周囲の空間を螺旋状に捻曲げ、小さな黒雷を弾けさせて今にも飛び掛からんと牙を剥き、四肢に力を溜めていた。【ミゼーア】は飽きて帰ったらしい
黒獅子へと変貌した高藤の左目からは瞳が溶け出したかの様な紅い焔が噴き出し、煌々と輝き揺らめいていた
高藤戦が数話続いた後、他のメンバーの戦闘回です
序にパソコン他、スマホも調子悪いので投稿が遅れる恐れがあります。まぁ、数話位は問題ないですが
しかし違和感があるかもしれませんのでそこはご容赦ください




