表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/156

64.猟犬と屈辱

導入終了です

梅雨です。食中毒にはお気を付けて

 男達の背に鋭い氷刃が突き立てられたかの様なゾッとする感覚が襲う。周囲の空気の重みがゆっくりと確実に増していき、息苦しさを覚えて無意識に呼吸が荒くなる


 張りつめた緊張感が室内を支配する。そして間違いなくこの場の支配者はアルベルトだった


 アルベルトが妙に威圧的な笑みを浮かべて何かを小さく呟き始める中、男達は硬直して行動する事が出来なくなっていた


 そこでふと、白スーツの男が鼻に衝く吐き気を催す悪臭に気付く。例えるなら腐臭、あるいは死体安置所だろうか?そんな事が頭に浮かんだその時、背後、正確には後方の天井の隅から猛烈な殺気を感じ取った


 男は警鐘を鳴らす本能に従って素早くしゃがみ込もうとする。しかし、何故か上手く体が動かずその場に倒れ込んでしまった


 「グエッ!?」

 「グアァッ!」


 その数瞬後、先程まで頸があった場所を何かが通り過ぎる気配と共に、部下の潰れた蛙の様な声と悲鳴が聞こえた。何とか首を巡らせて振り返ると、いつの間にか背後二体の化け物が現れていた


 その化け物の全身は青っぽい粘性の膿にまみれ、輪郭は朧で捉え所が無く、辛うじて四足獣らしき形態をしている事が分かる程度だ


 頭部らしき場所に二つ並ぶ双眸は、果て無き憎悪と飢餓に暗く燃えて獲物を見据え、二体いる内の一体の大きく裂けた口内から長く伸びる鮮血の様に赤い舌を、偶々近くにいたスーツの一人の女の頸に巻き付けて先端を延髄に突き立てていた


 もう一体は悠然と宙を漂っているだけの様に思ったが、苦痛に呻く部下の一人が押さえている腕に青っぽい液体が付着した深い傷口から、あれが引っ掻くか噛み付いた事が分かった。しかもあの様子だと青っぽい液体はかなり強い毒物か酸である事も分かる


 白スーツの男が冷や汗を流しながら何とか立ち上がると、正面に立つアルベルトが愉し気に薄く嗤って、口内に溜まった紫煙を吐き出しながら咥えていた煙草を離すと口を開く


 「体が上手く動かないだろ?自慢の娘が作った麻痺毒の煙を吸ったから当然だろうがな。むしろお前は良く動けたものだ」

 「あれ…は、一体…何だ…!?それに何故…!?」

 「【猟犬】。あるいはティンダロスの住民」

 「猟犬だと…!?」

 「あぁ、一度狙った獲物を文字通り時空を越えても執念深く追い詰め、喰い殺す正に【猟犬】さ。それから俺が何故生きてるかは企業秘密って処かな?」

 「何…だと…!?」

 「さて、どうする?」


 見定める様な細められた紅色の眼を向けられた男は、震えそうな体を抑え込んで目で周囲を観察する。部下達は背後に現れた二体の化け物に襲われ、既に暫く聞こえていた銃声が止んでいる


 目標であるシャルロットに攻撃しようにも、背後の化け物を上回る気配を放つ目の前に立つ人の姿をした異形が、男の一挙一動を観察しており、決して隙を見せなかった


 前門の虎、後門の狼なんて騒ぎで無い存在に挟まれて、男は何とかこの状況を打開する方法を考える


  その時、外から微かに聞き慣れた銃声が聞こえる。最初はこちらの異常を感じ取って援護しているのかと思っていたが、様子がおかしい。まるで何かを追い払おうとしている様な…!?


 男はそこまで考えて気付く。もしかするとこの背後は現れた化け物が他にまだいるのでは(・・・・・・・・・)ないか(・・・)?そしてその化け物が同じく現れていると(・・・・・・・・・)したら(・・・)


 流れ出す冷や汗と体の震えが増す。必死に思考を巡らせるもこの状況を打開する方法など思い付く筈もなく諦めかけたその時、隣に気配と影を感じ取り、顔を上げた。そこには、フードの奥に白い無地の仮面を着けた、裾の長い白衣の上にフード付きのローブを着た男が立っていた


 「済まないが彼にはまだ仕事が残っていてね。これで失礼させてもらうよ」


 小型の変声機でも仕込まれているのか妙にノイズがかった機械的な少し高い声でそう言うと、しゃがみ込んで白いスーツの男に肩を貸す


 仮面の男を見た瞬間、アルベルトは直感的に目の前の男をこの場で排除する必要があると判断した。更に言えば下手に手加減等出来ない存在である事をこれまでの経験から見抜いていたのだ


 アルベルトの顔から笑みが消え、能面の様に一切の表情が抜け落ちる。そして無言で右腕に蒼霧を纏わせて、猛獣じみた鉤爪の生えた前脚に変化させると、男の頸を切り裂く為に振り下ろし、更に向こうにいる二体の【猟犬】も爪や赤く長い舌で襲い掛かった


 ビュオッ!と空気を切り裂く音が鳴ったかと思うと、残り数センチの所で、硬い物同士が高速でぶつかりあった様な轟音とミシリと言う軋む音が響いて止まった。それは二体の【猟犬】も同様で【猟犬】達は不快気に男達を睨み付ける


 「危ないなぁ。保険を掛けていなければ死んでいたかも知れない」


 男は面白そうに笑いながらそう言うと、男は白スーツの男と共に体が薄くなってそのまま煙の様に消えた


 アルベルトは二体の【猟犬】に命じて男達を探させるが内心で理解していた。逃げられたと


 一度ならず二度までも標的を目の前で取り逃がすと言う耐え難い失態に、アルベルトは屈辱で顔を歪ませ、力強く歯を噛み締めた。いつの間にか元に戻っていた手は固く握り締められ、ポタポタと血が流れていた

解説

【ティンダロスの猟犬】


・角の時間を祖とする独立種族。鋭角(120°未満)を通して時空を超えて移動する能力を持つ


・【猟犬】と呼ばれているが、獲物を捕らえるまで執念深く追いかけるさまからの呼び名で、実際の姿は決して既存の生物とは似つかない


・不死の生物で、人間を始めとした生物が持つ精神の【純潔】或いはそれに類する物を求めて、時空、特に時間移動をする愚かな旅人に襲い掛かる


・移動能力は高く同時間ならば鋭角を通じて一瞬で、時間ならば1万年に一日の期間で移動する事が可能


・捕食は先端が鋭く尖った細長い赤い舌を犠牲者の延髄に突き刺して精神を吸収する。これにより奪われた精神(POW)は永久に失われる


・攻撃は爪で引っ掻く事で、体から滴る体液が付着すると、水で洗い流すか、布で拭うまで肉を溶解して侵す猛毒となる


・魔術を付与されていない物理攻撃は効果が無い。焔等の影響は受けるが、時間が経つと回復する


・上位種族に【ティンダロスの王】と呼ばれる種族がおり、その頂点に外なる神【ミゼーア】が君臨する

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ