プロローグ3.護衛依頼、災禍の気配
やっと日本編本番に入ります。序にストックが飽和気味になってきたので後、一話投稿しようと思います
密談の会場に中華料理店の個室を思い浮かべるのは私だけでしょうか?
想定以上に長引いているので3章を増やしました
翌日、車で横浜の中華街にある指定された中華料理店にやって来ていた。裏手にある備え付けの駐車場に車を停めると、自分と同じ様にスーツを着ているジャンヌと二人で店へと入る。クウとシオンは荒事になる可能性を考えて紀矢子に預けてお留守番で、孝義、カナリア、鏡華の三人は別の車に乗って待機している。
「イラッシャイマセ!何名デスカ?」
「待ち合わせだ。ホームズって名前の筈だ」
「畏マリマシタ!ゴ案内シマスネ!」
片言の糸目のアジア人の店員の案内に従って二階に上がると個室の前に案内された。
「デハゴユックリ~!」
店員がそう言って立ち去った後、扉を開けて中に入る。
部屋の中は窓が無く、赤を基調とした部屋の周りを1.5m程の虎や竜が描かれた屏風が囲んでいる。様々な料理が乗った回転する大きな円卓と、それを一周する様に配置された背凭れのある木製の椅子が中央に置かれ、その向こうに立つ三人のスーツ姿の男と、その前に座る一目でその三人より上質な物と分かるスーツを着た、ウェーブがかったブロンド髪の十代後半くらいに見えるイギリス人の若い女性が勝気な碧眼でこちらに観察する様な視線を向けていた。
「久し振りね。圭吾」
「あぁ、久し振りだな。お嬢」
若い女―シャルロット・ホームズの言葉にアルベルトは軽い笑みを浮かべながら一番近くの椅子に座って置かれていた烏龍茶を飲む。それを三人の内、最も若い二十歳くらいの金髪の男が不快気に顔を顰める。
シャルロット・ホームズ
有名な探偵の一人、シャーロックホームズを先祖に持つイギリス有数の家系で、代々イギリス王室からナイトの称号を受け取る有力な一族、ホームズ家の現当主を務める女性で、【解き明かす者】を意味する【solver】の異名を持つ頭脳型の特異体質者である。
暫くこちらの言動を探る様な視線を向けていたシャルロットは、何処か納得した様な表情を浮かべるとやや強張った顔を緩めて小さく笑って口を開いた。
「半信半疑だったけど。如何やら本当に貴方みたいね。圭吾」
「信用してもらえて何よりだ。相変わらずガキっぽい見た目だな」
「お前いい加減に―っ」
アルベルトの軽口に先程顔を顰めた男が堪りかねた様に一歩前に踏み出して文句を言おうとした所でシャルロットが片手を上げて制すると、言葉の最後に少し頬を膨らませ、非難する半眼でこちらを見る。男はその親し気な様子を苦虫を嚙み潰したような表情で見ていた。
「異世界の部分はまだだけどね。整形と言われた方が現実味があるわ。それと貴方に言われたくないわ」
「だろうな。だが、この類の冗談を言わないのを知っているだろ?」
「まぁね。全く、貴方は何時も私の思い通りにならないわね」
アルベルトはシャルロットの言葉を笑うと、一転して顔を引き締めて真剣な表情で尋ねる。
「はははっ。それで?仕事について聞こうか。今度は何に首を突っ込んだ?」
「【ファルス製薬】って製薬会社を調査してたら背後に教団組織があってね。それに狙われちゃったわ」
「そう言う所も相変わらずだ。で、何て名前だ?」
「【ファルシア】。【無形なる崇拝】傘下の教団ね」
「何だと…?」
近くに置かれていたエビチリを食べながら呆れた様子で尋ねたアルベルトだったが、シャルロットの口から出た名前に目を見開いて思わず声を漏らした。そして詳しく聞こうとした時、右耳に装着していたイヤホンから孝義の声が流れてきた。
『怪しい連中がそっちに行ったぞ。六人組、まぁ、只の客かもしれんが雰囲気がこっち側っぽくてな。後、クソッたれな話があるが聞きたいか?』
「あぁ」
何時も来ている外套の下に着ているスーツの襟裏に隠す様に付けられたマイクに囁く様に短くそう答えると、孝義は困った様に、そしてあからさまに面倒事だと分かる声で告げる。
「さっき緊急速報があった。【東京第一特殊刑務所】が襲撃され、陥落したらしい」
「何…だと…?」
アルベルトは先程、【無形なる崇拝】の名が出た時以上に驚き声を漏らす。【東京第一特殊刑務所】は国内で最初期に建設、運用された対【魔人】及び【特異体質者】専用の現時点で国内最大級の刑務所だ。アルベルトがかつて樋口圭吾だった頃に一度収容していた場所でもある。
最初期ながらも【公安0課】及び【神怪課】本部の共同で設計から警備まで行われ、並みの【魔人】や【特異体質者】なら容易に捻じ伏せる事が可能な程の力を有している事をアルベルトは身を持って知っている。そこが襲撃され、あまつさえ陥落する等とても信じられなかった。
シャルロットの方を見てみると、左側に立つスキンヘッドの大柄の黒人男性が何か耳打ちをしており、それを聞いているシャルロットは驚いた様に目を見開いている。
「圭吾、【東京第一特殊刑務所】が」
「あぁ、らしいな。それに怪しい奴らが来たらしい。折角の料理が名残惜しいが出るぞ」
アルベルトがそう言った瞬間、微かに聞こえる銃声と共にシャルロット達の背後の壁を貫いて、先程アルベルトに文句を言おうとした若い金髪の男の頭部が、真後ろから額の中央を通って撃ち抜かれた。
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首都・東京某所にある【東京第一特殊刑務所】でこの日かつて無い程の最悪の事態を迎えていた。突如現れた数人の集団によって占拠され、多くの受刑者が解放されたのだ。
職員の一人が辛うじて外部へ緊急事態を伝える事に成功したものの、その数時間後に到着した者達はその凄惨な光景を見て何もかもが既に遅かった事を悟った。
職員は全員死亡。更に受刑者とみられる死体がかなりの数が転がっていた。その死体のいずれも損傷がかなり激しく、まるで互いに殺し合ったかの様だった。
「酷いな。こいつなんて腹が裂けて臓物を垂れ流してやがる」
「頭部喪失。更に凍傷確認」
「まるで地獄だ。…ん?」
駆け付けた全身を防護服で覆った職員の一人が何か動いた気がして振り返る。そして先程調べた片目が潰れ、腹が裂けた死体が起き上がって濁った眼をこちらに向けているのを見て一瞬固まった。
動き出した死者に呼応する様に周りに転がる死体が起き上がり始め、周囲から仲間の驚愕や困惑が混ざった声が聞こえて来る。最初に動いた死者と固まって見つめ合っていた職員は、死者が大きく口を開けた事で衝撃による拘束が解けた。
「緊急!緊急!死体が起き上がった!至急増援を――」
プロらしく素早く拳銃を抜き撃ちしながら異常事態の報告と応援要請を送るが、その声は死者の口の中から凄まじい速度の伸びた、異様に長い毒々しいどす黒い紫色の触手じみた舌に胸を刺し貫かれて即死した事で途切れる。
刑務所内の至る所で発砲音が鳴り響くが、その数は次第に少なくなっていき、やがて途絶えた。更に職員達が開いた扉から蘇った死者達が群れ成して街へと解き放たれた。
――災禍はまだ始まったばかりである。
次回は孝義達見張り組です




