62.復讐者vs.裏切り者
明日、病院に行くので振替投稿です
少しグロイ描写があります
ふと思ったんですけど【クトゥルフ神話技能】ってニャルラトホテプの化身じゃね?
ガクガクと首を揺らして起き上がった【仏僧兵】は、長年手入れされずに軋む動きの悪い身体を其のままに、グリンと一斉に首だけを回して男を見る。その目は一様に赤く、明確な敵対の意思が宿っている。
そして又もや一斉に男の頭上の空間へと顔を向けた。罅割れた口から埃や欠けた木片を落としながら開くと、口内から無数の闇色の触手を溢れさせ、容れ物に満杯に詰め込まれた長虫の如くウゾウゾと蠢く其れを、男が召喚した羽ばたく何かに向けて一斉に伸ばした。
空を奔り伸びる極細の触手は、空間全体に張られた蜘蛛の巣の様に隙間なく空中に張り巡らせて、身を捩って躱そうとした其れの逃げ場を奪い捕らえる。
引き込まれる触手に落とされた三体のそれは例えるなら翼の生えた大蛇だった。一対の大きな翼は蝙蝠の様であり、蛇の部分はクサリヘビが近いだろうか?頭部は奇妙に歪み、口元と尾の先端には鉤爪の様な返しの付いた捕らえる事に特化した器官を備えている。
体長は優に12m以上はある翼の生えた大蛇は拘束から逃れようとのたうち暴れる。しかし、拘束は解ける事無く、その間にそれぞれの獲物に殺到した、耳まで裂ける程大きく口を開いた【仏僧兵】達によって生きたまま貪り喰われる事となった。
低くしゃがれた断絶魔の絶叫による三重奏とグチャグチャという【仏僧兵】による咀嚼音が暗い室内に響き渡りこだまする。それに一切の関心を向ける事なく、高藤は憎き裏切り者へと地面を強く蹴った。
高藤は先程と同じ様にナイフを男に向けて振るう。肩を竦めて躱した男は手に持つ拳銃で反撃しようとしたが、直前で首目掛けて迫る高藤の鋭い蹴りに気付き、反撃を諦めて両手を使って受け流した。
男が、受け流された事で晒された隙だらけの背中に向けて発砲しようとしたその時、脚に激痛が走り、思わず構えていた銃がぶれて銃弾は高藤のすぐ横を通り過ぎる。男が足元を確認すると、何時の間にか足元まで移動した菩薩型の【仏僧兵】が足にしがみ付き、大きく開いた口で足に齧り付いていた。
「っ!離れろ!」
男はこの時、初めて笑み以外の焦りの表情を浮かべて足を振って引き離そうとするが、【仏僧兵】はがっちりとしがみ付き足の肉を喰い千切って咀嚼する。その隙に高藤は流れる様な動作で裏拳を繰り出した。
男は足にしがみ付く重りを煩わしそうに見下ろしながら余裕のある動きで回避する為に後ろに下がり始める。このままだと再び躱されるだろう。
「ふざけるな!当たれぇええ!!」
高藤が吼えたその時、左手に湧き出した黒靄が高藤の意思に応えて変化する。そして霧は黒雷へと変わると幾条もの宙を跳ね回る雷撃が男へと迫った。
男は舌打ちをすると銃を捨て、空いた手で【仏僧兵】を掴み、盾にする様に前に突き出す。放たれた黒雷が避雷針でもあるかの様に途中で軌道が曲がり、収束して【仏僧兵】に当たると、容易く【仏僧兵】を打ち砕き、木片と血飛沫を撒き散らして突き出した男の腕を蹂躙した。
「グアァアアアッ!!?」
男は腕を内部から焼く激痛に思わず苦悶の声を漏らす。だが其れだけでは終わらず、感電して焦げた臭いのする腕の内部から湧き出した電気が表面で黒く放電すると、周囲の空間ごと捻れる様に歪んだかと思えば一瞬で中心へ圧縮する様に爆縮した。
一瞬で圧縮された二の腕から先があった場所からはオゾンと焦げ臭さが混ざった臭いが漂い、傷口から思い出したかの様に数拍の間止まっていた血液が吹き出す。
「ア゛ア゛ァ…グゥッ……!!?クゥッ、それが君の能力か!!」
男は血が流れ落ちる傷口を押さえてこの場所から逃げようと仮面の奥で目だけを動かして辺りを見回して気付く。いつの間にか通って来た筈の通路に繋がる穴が何処にも無い。焦りながら注意深く辺りを観察してもそれらしい物が見当たらない事から、完全にこの場所に閉じ込められた事を男ははっきりと理解した。
「逃げ場は無いぞ」
高藤は無表情で静かに告げると、体の周りにバチバチと黒雷を纏い弾けさせ、周囲の空間を渦巻かせ歪みを形成すると右腕を横薙ぎに振るった。
バチバチと電気が爆ぜる音を響かせ、右腕から放たれた極太の黒雷が鞭の様に撓りながら男の首を刈り取る軌道で空間を薙ぎ払う。
男は素早くしゃがみ込んで躱すと、男を中心に形成された渦巻く力場から横に転がる事で離脱する。直後に爆縮によって再び空間が中心に呑まれた瞬間、爆縮の中心点から放射状に噴き出した黒雷が、何体もの荒れ狂う黒い東洋の龍の様に無数に細かい電気を蒔き散らして宙や地面を蜷局を巻く様に渦巻き、跳ね回りながら無差別に触れた全てを破壊した。
放電や本体の黒雷により、置かれた木箱は粉々に砕け散り、獲物を求めて徘徊する【仏僧兵】は頭や四肢が爆ぜて損壊する。
男は至近距離にいた上に回避動作の途中だった為、何とか体を丸めて小さくなり的に小さくし、手足で頭部等の重要な部位を守るしか出来なかった。
直ぐに殺到する黒雷が男の全身を蹂躙する。事前に用意していた防御の魔術は一瞬で蒸発し、肉が焼け、血液が沸騰する感覚が思考を支配する。
荒れ狂う黒雷の奔流に呑まれた男が最後に見たのは、自身の頭部に迫る何時の間にか間近に迄近付いていた高藤の黒雷を纏う右手だった。
掴んだ男の仮面を一瞬で粉砕し、其の下の頭部を黒雷の超高電圧と内側に渦巻く力で圧潰した高藤が、ゆっくりと前傾になった体を持ち上げる。数秒瞑目して深呼吸をすると、再び開かれた両目からは紅い輝きが引いており、纏う黒雷も弾ける様に霧散する。
荒れ果てた室内で高藤は、頭部を喪失した男の死体を見下ろして直感的に理解する。
――仕留められなかった、と。
確信に近いそんな内心を肯定する様に突然、男の死体が臙脂色の泥の様になり、溶解すると共に、男の着ていた服から転がり出たスマホが勝手に起動した。
直ぐに通話状態になったスマホから声が流れ出る。それは間違いなく先程殺した筈のあの男の声だった。
『全く邪魔をしてくれる。保険を掛けて正解だった』
「何処にいる」
『まさか言うとでも?』
「だろうな。まぁ、何処に居ようと関係無い。必ずお前を殺してやる」
その言葉を最後に高藤は何か声が流れているスマホの下に近付き力強く踏みつける。画面に大きく砕かれて黒くなり沈黙したスマホから視線を外すと、其の身を一筋の黒雷へと変えて残骸だけが残された暗闇を湛える地下室から消えて行った。
翌日、校長室に入って来た、封印の管理者としての役割も持つ毛髪がやや後退した五十代の小太りの男が直ぐに異変に気が付いた。
直ぐ様、同じ役割を持つ職員と共に調査をして、封印の部屋に入って凄惨なまでに荒れ果てた室内を見て、最悪の事態が起きた事を否応なしに理解して愕然とした。
それから数時間後、【怪異対策班】に現れた一人の男が再び人知れず行方を眩ました。
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【神怪課十三支部】支部長室
「―そうですか。【仏僧兵】と【仏神兵】が消失。封印が解かれた、又は盗まれた可能性が高いと
物が物だけに行方を早急に調べる必要がありますね。管理者は……判りました。こちらも捜索を開始します」
アルベルト視点に戻ります。序に本番です




