50.異形と海神の挟撃3
異世界転生物じゃないのか?と疑問に思う方がいるかもしれませんが正直に言いましょう
作者の私も想像以上に長くなっています!
しかも今回の様な依頼の話が一セットと本命の話が残っているという事態です。この章が終われば元の異世界転生物に戻りますので何卒お付き合いお願いします
後、何故かこの作品が二か月投稿されていない事になっていますが、多分それはもう一つの【教団殺し】と連動している為だと思われます
「くたばれ」
そう不敵に嗤って口にすると瞳を虹色に変えて呪文の詠唱を開始する。その声は低く、おどろおどろしく、妙に不気味で、一人の詠唱の筈なのに何故か二重にも三重にも聞こえた
「【イア、イア、ヨグ=ソトース。ウナグ、ヨソ―」
空には段々と暗雲が立ち込め始め、周囲に起こる波が不自然な程に静かになる。何処からともなく不穏な気配と共に重圧を感じる程の薄ら寒い恐ろしい何かが迫る様な威圧じみた空気が【全ての鮫の父】を中心にゆっくりと降りて来て、その場にいる全ての存在に纏わり付く
「―死を体現せしは銀虹の霊球!!】《招来・銀霊球》!!」
全身が泡立つ様な感覚が強くなっていき、最後の一節が紡がれると同時に分厚い陽光を遮る雲が割れ、そこからまるで竜巻や津波の間近にいる様な、或いは絶対的な捕食者の前に立つ様な、そんな死という名の絶望を体現する様な圧倒的な存在感を放つ直径600m程の玉虫色に輝く銀の球体が【全ての鮫の父】の頭上に現れ、落下を始めた
ゆっくりとして見えたそれは直ぐに【全ての鮫の父】まで辿り着くと、その巨体を呑み込み海中に沈んでいく。霊球が着水した衝撃で発生した大波がUターンした貨物船に向かって迫るが、残り数mの所で半球状の何かが遮る様に接触した部分が消失する
大きく揺れる貨物船の背後では円状に銀色に沸き立つ海面に無数の大小や種類が様々な魚の死体が浮かび上がり、その少し後に中央から湧き出す様に赤黒い鮮血が浮上して銀を染め上げる。それに釣られてか何処からともなく大型の鮫が集まって来るが、色が変わった場所に接触した瞬間に白い腹を上にして絶命した
「良し。仕留めたな」
俺はテラスの中央に移動すると右手を上げて指を鳴らす。瞳の虹色の輝きが増してパチンッという音が船上に鳴り響いた瞬間、テラスの中央にコンテナから現れたゾンビと鮫の変異体が一纏めの山になって虚空から現れた。ゾンビや変異体は全て凍結したかの様に微動だにしない
俺は《倉庫》から大型の保存容器を取り出すと変異体の一体を放り込む。そしてゾンビを引きずり出すと、スマホで様々な角度からゾンビを撮影すると、《倉庫》から刃渡り1m20cm程ある大鉈を取り出した
「頼むぞ。【蛇蝎】」
その言葉と共に右手に握った大鉈【蛇蝎】を正面に向かって真一文字に横薙ぎに振り抜く。それと同時にゾンビの背中の甲羅部分が切り裂かれ、真上に飛んだ
【蛇蝎】を床に突き立てると甲羅部分を別の大型保存容器に入れてそれぞれの転送機能を起動させる。船上から保存容器が消えるとゾンビを変異体の山に戻し、右腕に虹色の魔力を纏ってそれに触れる
右腕に纏う魔力は素早く広がってゾンビと変異体の山を包み込むと、その内部で一気に変化が訪れる
変異体の体表が徐々に端から反り返り始め、剥離していく。やがて体表に罅が入るとそれが広がり、体が割れていった
「…ァ、…ァア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」」」
突如、変異体の山に倒れるゾンビの口から何か声が微かに漏れる。それは段々と大きくなり、変異体の口からも漏れ出た声と合わさって罅割れて耳障りな絶叫の大合唱が船上に響き渡る
【蛇蝎】を素早く引き抜いて後ろに下がったアルベルトの目の前で、甲羅を失ったゾンビの背中から黒いタールの様な表面に虹色の光沢を持つ触手が何本も生まれ、枝分かれしながら近くの変異体に絡み付き始める
能力を切って山から離れると瞬く間に触手が全てを呑み込み、先程倒したゾンビが生まれた繭の様な物を形作ると、頂点から放射状に亀裂が走って中にいる物が繭を突き破って外に出る
体表に目や口が無秩序に存在するナメクジの様なそれは何かが腐った様な悪臭を放ち、皺だらけのブヨブヨとした贅肉を震わせて仰け反っていた上半身を前に倒れさせる
繭を押し潰しながら体が床に着くと、その正面にはゾンビの面影を残した真っ黒な人らしき顔が眼球の無い空虚な穴をこちらに向けて見据えていた
「《刻蝕》が効かない?幾ら再生能力があるにしても細胞の分裂限界があるだろ。【アトゥロスタント】が原因じゃねぇのか?」
そんな疑問を口にするアルベルトの眼の前で異形は背部に生えたやすりか、すりおろし器の様な無数の棘が伸び、先端の鋭い触手となってアルベルト達に向かって一斉に突き出す。船内に下がったカナリアと鏡華の前に立つと、構え直した【蛇蝎】を素早く振るい、迫り来る触手の刺突を細切れにした
「「「オォ、オオオオオオオオ…」」」
異形は全身の口から薄ら寒さを感じさせる唸り声を上げると、全身を震わせてゆっくりと前に蠕動する。斬られた触手は傷口から淡い緑の蒸気を燻らせながら瞬く間に再生して、再びアルベルトに狙いを付けて切っ先を向けて刺し貫こうと揺れていた
完全に再生した触手が一斉にアルベルトに襲い掛かる
それを《縮地》で瞬時に前に出て掻い潜ったアルベルトは下段に構える【蛇蝎】に魔力を纏わせると、素早く振り上げて異形の顔の脳天目掛けて体重を掛けた一撃を振り下ろす
「《仙斬術》地之型【屠龍の息吹・天逆】」
【蛇蝎】の刃が異形の額にめり込み深く切り裂くと同時に、纏う魔力が解き放たれて傷口から荒れ狂う時化の海や嵐の如き奔流が流れ込み、異形の体を内部から蹂躙する
速く鋭い渦巻く魔力の流れに異形の体内はズタズタに切り裂かれ、かき回され、柔らかな体は内側からの力で大きく膨れていく。やがて荒れ狂う魔力の奔流は異形の中央に集まると背筋を噴き出す斬撃が縦断した
体を真っ二つにされて尚、生命活動を止めずに断面から無数の触手を蠢かせる異形にアルベルトが空いた左手で触れると、虹色に輝く瞳を今まで以上に輝かせて一言呟く
「《刻蝕・回帰》」
その瞬間、アルベルトの左手から虹色に輝く魔力が、異形の表面を流れる様に広がり包み込む。そして触れている顔の部分から順に人間らしき肌や鮫らしき鱗が現れると、直ぐに粒子状になってボロボロに崩壊を始め、やがて地面に着く前に消えていった
十分もしない内に異形が消失すると【蛇蝎】を杖の様に突いて、既に覆う魔力が消えた左手で元の色に戻った眼を押さえる。しかし船の揺れでよろけると、そのまま後ろに倒れて座り込んだ
俺は倦怠感を感じながら【蛇蝎】を手放して床に開いた《倉庫》に落とすと、ポケットからスマホを取り出して孝義に繋げる
「疲れた。後は頼んだぞ」
『了解』
俺はそれを聞くと、先程から感じていた強い眠気に従い、後ろに倒れるとスマホを持ったまま目を閉じた
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数十分後のとある一室。数人の白衣を着た男女が薄暗い小さな会議室の様な場所でプロジェクターでスクリーンに映し出された動画を見ていた
何処かの船のテラスを映した音声の無い映像は、最後に途中から船上に降り立った少女が放った銃弾が当たり、破壊されて砂嵐に変わって終了する
それを見た男女の一人がプロジェクターの傍に座るこの映像の持ち主の若い男に非難を口にする
「おい、これはどういう事だ?確認の為に設置したカメラに気付かれて壊された上に、肝心のあれが映っていないではないか」
「申し訳ありません。しかしあのコンテナに設置していたセンサーの信号から確実にあれは計画通り外に出ました。後は適当な軍か何かに連絡してぶつければ良いでしょう。
先程映っていた侵入者達も今頃あれの仲間入りしている頃だと思いますしね」
「ふむ、今例の貨物船はどうなっている?」
「はい。……え?」
先程、男を非難したどっかりと椅子の背凭れに寄り掛かった小太りの男の問いに、向かいに座ってタブレット端末を操作していた若い眼鏡を掛けた女が、現在の貨物船の位置をGPSで調べると短く疑問の声を漏らす
「どうした?」
「いえ、あの、現在、例の貨物船は川崎港に停泊しています」
「何だと…!?何かニュースになっているか?」
「それが何も。失敗でしょうか?」
「クソッ!あれをまだ知られる訳にはいかん!直ぐに誰か確認に行かせろ!」
「分かりました!」
そう言ってタブレット端末を操作していた女は小走りで部屋から出ていく。室内が俄かに慌ただしくなる中、映像の持ち主の男は人知れずこっそりとスマホで、とある人物を写した画像を見る。
そこに写っていたのは銀髪を靡かせてテラスに立つアルベルトの姿だった。
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数時間後、黒いコートを着たガスマスクの人物によって貨物船から脱出したアルフレッドは、とある施設の会議室らしい広い部屋へと呼び出されて、長机を囲む椅子の歯一つに座っていた。
彼自身、自分が今回の依頼人にとって何時でも切り捨てられる末端の人間である事を自覚している為に、来た時に出された湯気が立ち上る珈琲に手を付けていない。今回の失敗で例えば目の前の珈琲に入れられた毒で殺し、死体を人知れず処分される等と云う末路は御免なのだ。
アルフレッドは右胸の内ポケットに入れた拳銃を撫でる。其れは、頭ではこんな拳銃でどうにかなるとは思っていないが、其れでも無いよりは増しだと自分に言い聞かせる事で少しでも安心しようとする無意識な動作だった。
誰も来る気配の無い扉を何度も視線を向けながら苛立ちと不安から貧乏揺すりをして机を指で叩き、いい加減誰か来ないか一度廊下を確認しようと立ち上がった其の時、室内の四方の隅から薄緑色の煙が噴き出し、瞬く間に充満した。
「何だ此れは!?……グゴッ!ギッ!ゴアァッ!?」
突然の事態に思わず叫んだアルフレッドは、直後煙を吸ってしまった事で直ぐに身体に異変が起こった。
身体が直接燃やされる様に熱く、氷海に潜った様に凍てつく様な寒さが同時に発生し、骨が軋み、筋肉が千切れ裂ける様な痛みが襲い、とてもでは無いが立っていられる状態では無くなり、其の場に膝を突く。
其れでも立ち上がり、何とか扉に迄辿り着いてノブを回すも扉は開かない。どうやら外部から遠隔で施錠されていたらしい。
「ウグッ!クッ…ソが……ッ!」
アルフレッドは悪化して細胞一つ一つに分解される様な激痛で力尽き、崩れ落ちて其のまま気絶する。
他に誰もいない部屋で、彼の身体は不気味に蠢いていた。
章の名前が変わるかもしれません
…想像以上にストーリーが大きくなるねん
解説
大鉈【蛇蝎】:刃渡り1m20cmある大鉈。嘗て存在したとある村で、突如発狂した村人が他の村人全員を惨殺した際に使用された
『多くの血に濡れて染まった凶刃は錆付く事無く、その絶望と無念すらも喰らい鋭さを増して行く。囚われた魂は憎悪に染まり、使い手を呪い、新たな犠牲を求めて突き動かす
使いこなす事が出来れば高い魔力伝導率と鋭さから、鋼を紙の様に容易に切り裂く事が出来るだろう』
ゲーム的に云えば、ダメージ2D8+DBに特殊効果で、其の威力の半分(端数切り上げ)のPOWへのダメージを与える大鉈




