49.異形と海神の挟撃2
花粉症が辛い(´・ω・`)
それは兎も角、異形の登場です
―それは言い様が無く不快で何より冒涜的だった
体長は5m程あり、無数の襤褸切れが纏わり付く酒樽の様な緑がかった赤黒いずんぐりとした体は、苦悶に満ちた無数の人間の頭部や手足が悪戯にこねくり回して適当にくっ付け合わせた醜悪なオブジェの様に無秩序に触手で絡み合い、その中央に縦に割れた胴の三分の一にも及ぶ周りに触手が蠢く鋭い牙の生えた大口が唾液を垂らして開閉している
甲板を踏み締める放射状に生えた逆立つ骨の棘が乱雑に伸びる六本の不格好な脚は、変形した腕や脚を触手で纏めて構成され、足は無数の手で造られている
上下に伸びる左右二対の腕の内、上部は先程見た様な無数の人間の腕を纏め上げた物で作られ、下部に伸びる腕は人間の面影を微塵も感じない黒いタールの様なのっぺりとした黒い一本の長く太い触腕に無数の小さな触手が絡み付いている
無数の人間の頭部がくっ付いた頭は中央に人の頭程もあるギョロンとした血走った単眼があり、不規則に濁った橙の瞳が小刻みに揺れていた
体を左右に揺らし、六本の脚でよろよろと動き出したそれはテラスを見上げると、こちらを向いて進み始める。その足元では繭を破って出てきた鮫だった物が未熟な前足に変化した鰭を使って開け放たれた入口から廊下に侵入を始めていた
「まるで出来の悪いB級ホラーだな。カナリア、こっちに来い」
『分かった』
返事が聞こえたと思うと軽やかな足取りでカナリアが屋根から降りて来る。俺はテラスから下を指指すと尋ねる
「あれを始末出来るか?」
「どうだろ?試してみる」
カナリアはそう言うと拳銃を取り出してコンテナから現れたゾンビに向かって発砲する。放たれた三発の銃弾は見事に頭部に着弾すると赤黒い体液を噴き出して、頭が少し仰け反ってその場で止まる。しかし直ぐに頭を前に戻すと何事もなかったかの様に再び歩き出した
「駄目だね。まるで効いてない。それにどう考えても接近戦は無理だから突撃も出来ない」
カナリアは肩を竦めてそう言うと、腰にぶら下げた手榴弾の一つを掴んでピンを抜き、ゾンビに放る。足元に転がった手榴弾は爆発すると、数体の這い回る鮫の成れの果てごとゾンビの脚を吹き飛ばした。しかしゾンビは倒れたまま真っ直ぐにアルベルト達を目指して両腕を使って這って進む
「流石にこれは効くね。残り少ししかないけど」
カナリアの言葉を聞きながら左側から聞こえた大きな水の音がした方に【オティヌスAASⅢ】を向ける。素早く帯電させて引き金を引いた瞬間に、海中から出てきた【全ての鮫の父】の横腹に着弾して体当たりを押し返した
「グオァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」
悲鳴じみた咆哮を上げて海中に沈む【全ての鮫の父】を横目に、銃身の中程を折って回転弾倉を取り出すと排莢して新しい砲弾を装填する。銃身を戻して給弾すると、テラスの柵に二対の異なる腕を使って登ろうとする単眼のゾンビに向かって放った
砲弾は柵の向こうに伸びる頭部の単眼に接触した瞬間、弾頭が炸裂して爆炎を上げる。掴んだ柵ごと後ろに吹き飛んだ単眼のゾンビは、消失した頭部の断面からどす黒い体液を撒き散らし、下部の腕や胴に生える触手が狂った様に蠢きだす
その時、下部の触腕の中程と口の周りに二つずつ緑色に輝く腫物の様な物が現れた。カナリアは直ぐに拳銃を構えると口元にある二つの内、右下にある物を撃ち抜く
銃弾が当たったそれは破裂すると蛍光グリーンの粘度の高い液体を撒き散らす。それと共に精神に爪を立てて引っ掻く様な罅割れた絶叫が触手が蠢く口から響き渡る。その余りの声量にアルベルト達は思わず耳を塞ぐ
「グギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!?」
「ッ!!…如何やら弱点みたいだね」
「…みたいだな」
右側から飛び出す様に襲い掛かってきた【全ての鮫の父】に砲弾を撃ち込んで牽制すると未だに倒れる単眼のゾンビに向かって一気に全弾斉射する
轟音と共に着弾した榴弾は炸裂してゾンビを粉々に吹き飛ばす。爆炎と煙が晴れた後には炭化した甲板と痙攣する僅かな残骸だけが残り、それも大きくビクッと震えるとドロドロになって融けた
「奴は終わったか?問題はもう片方だな」
「そうだね。此処に来る前に始末しないと」
カナリアと話し合っているとスマホが鳴る。それに出ると孝義が少し焦った声で報告する
『大将、奴が散々邪魔されて切れた様だ。今レーダーに正面から急速に接近する巨大な影が映っている。間もなく姿を現すだろうよ』
「分かった。俺の射撃後直ぐに引き返せ」
直ぐにスマホを仕舞うと砲弾の排莢と装填を行うとテラスの最前に出る。それと同時に海面を割って煉獄の如き殺意と怒りに満ちた眼を向け、研ぎ澄まされた鋭いナイフの様な乳白色の牙が並ぶ大口を開けて船の真正面に現れ、真っ直ぐに突き進み始めた
「喰らえ」
俺はそう言うと引き金を引く。銃身に纏う電気で加速した砲弾は空を貫いて【全ての鮫の父】の尖った鼻先に当たると弾頭が砕けて赤い液体が零れて付着する。只、それだけしか起こらなかった…
そんな物で、それだけで大海に顕現した暴虐と破壊の怪物を、偉大にして悍ましい旧支配者が一柱の化身を討てる訳が無い。ましてや進撃を止める事すら出来はしない
だが、アルベルトは不敵に嗤うと一言
「くたばれ」
そう口にした
次でこの仕事は終わります




