47.制圧、襲撃、襲来
…未だ導入部分の件(´・ω・`)
白スーツの短い金髪のホストの様な見た目の若い男は大仰な手振りで両手を肩の高さまで持ち上げて芝居がかった口調でこちらを見下ろして話し掛けて来る
「おやおや、鼠が二匹迷い込んだ様だねぇ?さて、答えは期待していないけど何者だい?」
「公安だ。大型貨物船による麻薬密売の報告を受けて抜き打ちで調査していたが予想外の物が出て来たな。人身売買は重罪だぞ?」
俺の言葉に白スーツの男はやれやれといった様子で肩を竦めると上位者の余裕を持った不敵な笑みを浮かべて片手を上げる。それを合図に背後に待機していたスーツ姿の部下達も一斉に銃を俺達に向けて構える
「やれやれ、流石は勤労なる日本人だ。こんな所までご苦労な事だよ。それにしてもこんな島国の猿如きの侵入を許すとはね」
「あ゛ぁ?馬鹿にしてんじゃねぇぞ?それにテメェは名乗りもしないのかよ」
「おっと、これは失礼。私は【ハイドラ海運会社】代表を務めているアルフレッドという者さ。冥土の土産にでも覚えていてくれ」
「生憎とまだ死ぬ気はサラサラ無いもんでね。大人しく捕まって貰おうか」
アルベルトとアルフレッドは互いに不敵に笑い合って、しかし互いに笑っていない獲物を狩る捕食者の様な鋭い眼で相手を見ながら言葉を交わす
アルフレッドは無数の銃を向けられて尚、余裕の態度を崩さないアルベルトの姿に呆れる様に肩を竦めると短く言葉を発して上げていた手を振り下ろした
「仕方ない。やれ」
アルフレッドの合図と共にスーツ姿の部下達が一斉に発砲した
放たれた無数の銃弾は空を切り裂き俺と孝義に向かって飛来する。それと同時に俺の前に出た孝義が瞬時に抜刀した脇差に魔力を纏わせて振り抜くと同時に一気に解放し、発生した爆風の様な魔力波で銃弾の進路を逸らす
「どうする?大将」
「俺はアルフレッドを追う。お前は雑魚を頼む」
「了解」
やり取りを終えた俺は瞳を淡い虹色に変えると、常備している鉄の立方体を取り出してアルフレッドがいるテラスに向けて放り投げる
手榴弾か何かだと思ったのか、アルフレッド達が慌てて後ろに下がった事で出来たスペースに立方体は落ちると数回転がって止まった
俺は虹色の眼でテラスを見ながら、【気薄影身】を使って存在感を希薄にしながら背後の空間を歪めて穴を作り出すと、後ろに跳ぶ様にそのの中に入り込んだ
振り返りながら仄昏い空間を抜けて穴からテラスに出ると、数人の護衛に囲まれている腰の引けたアルフレッドがいた
背後の空間に開いた穴が消えない内に、風の流れか何かで気が付いたのか、こちらを向いた護衛達が持つアサルトライフルから無数の銃弾が放たれる
しかし慌てていた為か、こちらが何もしていなくてもそれらの銃弾は全て俺の直ぐ傍を通り過ぎるだけで一発も当たらなかった
「ヒィッ!何だお前!?お前達、やれ!!」
最初の優位を信じていた時の余裕が消えて、慌ててアルベルトの方を向いて裏返った声で叫ぶアルフレッドに黙って近付く
その間、護衛達は俺に発砲していたがそれでも当たらず、やがて弾切れになった事でナイフを抜いて襲い掛かってきた
「準備運動位にはなると良いがな」
俺はそう呟くと左右から迫るナイフを躱すと右から切り掛かってきた男の腕を掴んで背負い投げの要領で投げて背中から叩き付ける。直ぐに手を離すと背後から迫る刺突としゃがんで躱す
その時、護衛の一人のナイフがその先端を俺の首に向けて伸びて来る。俺は右手を突き出すと小さく詠唱した
ナイフの軌道が突然何か見えない物を滑る様に変化して、何も無い空間を進む
突き刺す筈のアルベルトから外れて困惑している隙に足元に開けた穴に落ちる
姿が消えた事で慌てた様子で辺りを見回す護衛達とアルフレッドの間の空間が、先程テラスに来た時の様に穴が開くと、そこからアルベルトが現れて腰から抜いた拳銃を護衛達に構える
「暫く寝てろ」
足に向けて引き金を引くと軽い銃声と共に放たれた銃弾が足に当たって護衛達はその場に倒れた。俺がアルフレッドに振り返ると、アルフレッドの体がビクッと大きく跳ねる
俺が一歩近付くとアルフレッドが一歩下がり、それを繰り返している内にアルフレッドの背中にテラスを囲う柵が当たり、遂にこれ以上の逃げ場が無くなった。アルフレッドが背後を振り返ったあと、横目に下を見ると、孝義によって部下達は全員倒れ伏していた
アルフレッドはゆっくりと自身に迫るアルベルトを見ながら追い詰められた屈辱と危機感に顔を赤くして歯を強く噛み締めていると上から、裾が膝下まである黒いコートを着たフードを目深に被り、顔に同じく黒い軍や警察の特殊部隊が使う様なガスマスクを着けた身長150cm程の人物が二人の間に着地した。降りてきた方向から考えるに如何やらこの船の一番上から飛び降りてきたらしい
ガスマスクはアルベルトの方を向くといきなり殴り掛かってきた
「ッ!危な!」
俺は拳を受け流すとこちらに向いた背中に拳銃を構える。ガスマスクは殴った勢いを止める事無く素早く体を捻ると、拳銃を構える俺の右手に向かって後ろ回し蹴りを放った。ガスマスクの踵が俺の拳銃を持つ手に当たり、ボグッという音が鳴る。砕かれた手から思わず拳銃を手放すと、拳銃は弧を描いて背後に落ちる
「……」
「ウグッ!?」
ガスマスクはそのまま一回転すると何時の間にか手に持っていたナイフを投げ付ける。俺は姿勢を低くして駆け出しそれを避けると、まだ無事な左手でナイフを抜いて切り掛かった
ガスマスクは跳躍すると俺の肩に手を置いてそれを軸に縦に回って飛び越えると反転して殴り掛かる。前転して避けた俺は振り返って再び切り掛かろうとすると目の前に取っ手の付いた凹凸のある楕円体があった
不味い!と思った時には遅く、炸裂したそれは白い閃光を放ち視界を染め上げる
「グアッ!?スタングレネードか!」
視力を失った隙に隣を走り抜けると階下に何か硬い物が転がる音が聞こえ、アルフレッドの「うおっ!?」という声と共に消えていった。視界にちらつく光を頭を振って払っているとテラスに繋がる扉が開く音と共に孝義がやって来た
「おい、大将!大丈夫か!?」
「あぁ、問題無い。あいつらは?」
「俺に向かって手榴弾を投げてテラスから飛び降りた所までは確認したがそっから先は分からねぇ。投げられた手榴弾は不発だった様だな」
「そうか…」
先程の襲撃者の事を考えていると、突然爆発音が響いたかと思うと船が大きく揺れる。甲板が急斜面の様になり、咄嗟に左手のナイフを床に突き立てて耐えると数度揺れて船の状態が落ち着く
「何だ!?」
「大将、あれ見ろ!」
孝義が指を指す方を見ると中央に置かれた冷凍コンテナの扉と反対側にある壁が下の方から破損して白い冷気が漏れ出している。如何やら先程孝義が言っていた手榴弾が今更爆発した様だ
辺りを見回すと右前方から輝いて見える白い巨大な流線形の物が弧を描いて高速で近付いて来る何かを発見した。あの動きから考えるに先程の揺れはあれが体当たりによる物だろう
俺はナイフを腰に差すと《倉庫》から【オティヌスAASⅢ】を取り出し、テラスの端に移動して両手で持って立射しようとする。しかし先程砕かれた手が痛み出した為、諦めて柵に乗せて左手で引き金を引いた
―ドパーンッ!!
砲火と共に放たれた砲弾は真っ直ぐ流線形の中央に当たると、それは同心円状の漣が立つ程の凄まじい低音の咆哮を響かせ、錆混じりの汚水の様な鮮血を心臓の鼓動に合わせて傷口から噴き出しながら海面を仰け反る事で勢い良く突き上げ、巻き込まれて打ち上げられた数体の大きな鮫と共に爆ぜる様な水飛沫を上げて海中からその姿の一部を現した
―それは古代のカルカロドンやメガロドン、つまりホホジロザメの巨大な先祖に似ているが、大きさは倍程もある。幽霊の様に白く、その白さ故に海面が白く輝いて見えたのだ。その目は満たされる事の無い永劫の飢餓と憤怒に昏く、しかし赫灼と燃えて狂乱していた
彼の者こそ聖書に於ける海の厄災である伝説のリヴァイアサンであり、海底に沈む忌まわしき都市【ルルイエ】に眠る旧支配者が一柱、大いなるクトゥルフの化身の一つ【全ての鮫の父】であった!!
その姿は人間の根底に眠る恐怖を否応無く呼び覚まし、言い様のない畏怖と狂気を与える。人智を超えるその暴虐は愚かな抵抗の意思を完膚なきまで叩き潰し、何も知らない無垢なる犠牲者は無条件で本能から理解するだろう
―彼の者こそが神であると…!!




