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46.調査指令

仕事です

 【第十三支部】から出たバイクに乗って川崎港を目指して走っていた


 目の前の赤信号が変わるのを待ちながら少し前のやり取りを思い出す

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 支部長室に入った俺の前で処理していた書類を机の端に寄せた荒八木が引き出しから取り出した一枚の書類を机に出して俺に差し出すと、淡々とした口調で呼び出した要件を言う。俺がその書類を手に取るとそれは数枚の大型の貨物船の写真と地図が添付された調査報告書だった


 「最近、川崎港に停泊している大型貨物船で何やら非合法な取引が横行しているらしい。お前にはそれを調べて可能なら潰して貰いたい」

 「構いませんけどそれは公安の仕事ではないですかねぇ?」

 「どうもカルト的な組織も現れるらしい。それにもう一つ理由がある」


 そこで荒八木は一度言葉を切ると不快感を滲ませてとある名前を口にする。俺はその名前に思わず顔がピクリと動かした


 「【アトゥロスタント】」

 「っ!」


 俺の反応に俺に鋭い視線を向けたまま口調を変える事なく事務的に続きを話す


 「お前が送った検体からも検出された。同じ物かは分からんが取引されている品の一つにあるという情報もある。お前には【アトゥロスタント】や可能なら顧客リストを回収してもらいたい」

 「了解。それでは向かいます」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 そして退室した後に装備室で幾つかの武器を回収して、【第十三支部】の車庫から銀行裏に繋がる裏口からバイクに乗って今に至るという訳だ。因みに月一で整備されているので問題なく使える


 エンジン音を鳴らしながら国道を進み、海面上昇で沈んだ嘗ての川崎港の上に浮かぶ浮島となって復活した現在の川崎港へと渡る為の往復でそれぞれ二車線ある浮橋を渡り、目的の貨物船に向かう。波間に浮かぶ川崎港は色や大きさが様々なコンテナが効率的に重ね並べられており、搬入用のフォークリフトや立ち並ぶガントリークレーンが船と置かれた積荷の間を忙しく動き回っていた


 浮橋近くにバイクを無断駐車した後、下手にコソコソとしていても怪しまれるだけなので堂々と歩きながら調査報告書の写真の貨物船を探す。暫くコンテナの間を進んで数十隻の船が止められた埠頭に着く。見回して目的の大型貨物船を見つけるとそこでは丁度橋を下ろしてフォークリフトやガントリークレーンで積荷を載せている所だった


 俺はコンテナの影に隠れて外套のポケットから“偵鳥”の式神符を取り出すと、魔力を込める事で紙から白い鳥に姿を変えた“偵鳥”を貨物船に飛ばす


 “偵鳥"と視界を共有させる事で貨物船を上空から確認して、人気の少ない船首に近い甲板で旋回させる


 アルベルトがその場で数秒瞑目するとゆっくりと眼を開ける


 黒かった瞳が淡い虹色へと変化したアルベルトが右手を前に突き出すと、目の前の空間が歪み黒い穴へと変わる


 アルベルトが脚を踏み出して潜ると穴は直ぐに小さくなり、そのまま消失した

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 “偵鳥”が旋回する真下の空間が歪み、黒い穴が開く。その穴からアルベルトが出てくると、背後の収縮していく穴を一瞥もせずに右手を上げた


 滑空して右手に止まり、元の紙の姿へと戻った“偵鳥"を外套のポケットに仕舞って、虹色から元の黒に戻った眼で周囲を見回すと近くのコンテナの扉の鍵穴にピッキングツールを使って開錠した


 扉に耳を当てて中の音を探って何も聞こえない事を確認すると、小さく扉を開けて光の強い小型の懐中電灯で中を照らす


 其処には大小様々な無数の段ボール箱が二段になって隙間なく詰め込まれていた


 俺は跳躍してそれらの上に乗ると適当な段ボール箱のテープをナイフで切って開ける。中に入っていたのは比較的真新しい厚めの本だった。妙な手触りの仄黒い装丁の背表紙には何も書かれていなかったので取り出して表紙を見てみる


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 【新訳・素人でも解るグラーキの黙示録1】

 著・イゴーロナク、グラーキ以下信者一同

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「アホかー!!」


 俺は思わず本を入っていた段ボール箱の中に叩き付けた


 (いや、マジで馬鹿じゃねぇの?何やってんの?あいつら暇なの?)


 まさかこの段ボール箱全てこれじゃないよな?と内心で戦々恐々していると、突然背後に気配を感じて腰から拳銃を抜いて振り返る


 「おっと、待て待て、俺だよ大将」


 両手を上げてヘラっと笑ってそう言ったのは【第十三支部】で別れた筈の孝義だった


 「お前何で此処にいる?シオンとクウはどうした?」

 「女性陣と楽しくガールズトーク中だよ。疎外感が半端ないから暇潰しに“偵鳥”を飛ばしていたらバイクに乗って川崎港に向かう大将を見つけたから来ちまったよ」

 「俺は仕事で来ているんだがなぁ~?」

 「まぁまぁ良いじゃねぇか。探し物の人手が多いに越した事はないだろ?」

 「確かにな。だったら頼んだ」

 「了解」


 孝義は軽く答えるとナイフを取り出して段ボール箱を開けて中を調べ始める


 結局このコンテナの中には先程見つけた量産品の魔導書とグラーキという名の神格の体から採取される棘を加工した儀式用のナイフ、そして毒液が出てきた


 目的の品では無かったがどっちにしろ放置して良い物ではないので後で処理する事にする。取り敢えず最初に見つけた本と毒液の入った小瓶、刀身が虹色に輝くナイフをそれぞれ一つずつ回収すると《倉庫》を開いて中に入れる


 コンテナから出て鍵を閉めると先に出ていた孝義たかよしが口を開く


 「そう言えば俺が来る前に積まれたコンテナがやけに丁寧に積まれていたな。それ見るか?」

 「怪しいな。案内してくれ」


 孝義は頷くと先を歩き出す。狭いコンテナ同士の隙間を進んでいくと船室等に面した一番奥に他とは色が違う黒ずんだ紫色の頑丈そうなコンテナが横一列に並んでいた。詳しく見てみると電子ロックになっており、コンテナの上部には何かの機械が取り付けられている。そしてその中に一つだけ温度を設定出来る機械が取り付けられたコンテナが中央に置かれていた


 そのコンテナの温度設定を見るとマイナス10度と書かれている。その事から何かの冷却の必要がある食材か体組織である事が予想出来た


 「孝義、先ずは一つだけ違うこのコンテナを後回しにしよう。クロ、コンテナのロックを解除しろ」

 『畏まりました。マスター』


 スマホと接続コードを取り出して素早く繋げると、数秒もしない内にピピッという音が鳴ってロックが外れる。扉を開けて中に入ると横並びに置かれた檻があった。そしてその中に入っていたのは手足に枷が付けられた人間だった


 檻の中に入っている一人の少女が差し込む光に気が付くと勢いよく顔を上げて檻にしがみ付き、アルベルトに助けを求める。それに続いて他の者達も声を上げた


 「お願い!此処から出して!!」

 「助けてくれ!」

 「出してくれよ!」


 その瞬間、警報音が船全体に鳴り響くと共に船が大きく揺れて思わずよろける。俺は短く悪態を吐くと見張りをしていた孝義に向かって素早く尋ねる


 「クソッ!孝義!今どうなってる!?」

 「侵入がバレて船が出た。既にかなり沖に出た挙句にわらわらと敵さんのお出ましと来たよ」

 「畜生!面倒な事になった。商品に人間もあるとか聞いてねぇぞ!?仕方ない。孝義、真ん中のコンテナ以外扉の鍵壊せ!」

 「了解。だがその前に敵の大将らしき奴のお出ましの様だぞ?」


 孝義の楽し気な言葉にイラつきながらコンテナから出て扉を閉めてから裏手の船室側に回り、孝義の隣に移動するとスーツ姿の男女が集まってアサルトライフルをこちらに構えて立っていた


 その後ろにある船室や船橋がある場所のテラスの様な場所に立つ数人のスーツ姿の男達の前に、如何にもこの集団のリーダーですと言った様な白いテンガロンハットと上質な白いスーツを着た白人系の若い男が立っていた

解説


 カルト教団について


 2020年に発生した世界規模の巨大地震、通称【大厄災】を機に神話生物の活動が活発化した。それに伴いカルト教団の動きも活発化し、様々な神話的事件が多発する事態となった


 最も大きな神話的事件はルルイエ浮上と【銀の黄昏教団】創始者の復活、そして【神聖バチカン帝国】の大侵攻である。これにより日米英の三国と残り数か国を除き支配下に落ちた

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