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45.手合わせ

変更点

【旧星】を警備会社➝何でも屋みたいな会社

樋口圭吾➝コードネーム【双頭の猟犬(オルトロス)

 修練場に入った俺は入口近くに荷物を下ろすと部屋の奥まで行き、腰からナイフと拳銃を抜いて向き直る


孝義はそれを見てガシガシと乱暴に頭を掻きながら大きく溜息を吐くと腰からトンファーの棒の長い部分を脇差の刃に変えた様な変わった見た目の武器を横に伸びた持ち手を持って抜き、僅かに腰を落として構えた


 「ハァ~。やるしかないか~」

 「フフフ、久し振りで体がなまっているかもしれないからな。この程度の我儘を許してくれ」

 「仕方ねぇな~。精々手加減してくれよ?」

 「出来たらな。シュレディンガー、【猫箱】を作ってくれ」

 「しょうがねぇな~。【領域開放・シュレディンガーの猫箱】」

 「えっ!?喋った!?」


 俺の言葉に荷物の中にいたシュレディンガーは気怠そうにのっそりと袋から出ると袋の上に座り、数秒瞑目する。そして空間を書き換える宣言と共に紅い双眸とその間にある額の縦に割れた第三の眼を開くと、ズズズとノイズがかった音と共に視界が数秒程電波状況の悪い動画の様にずれる


 それは直ぐに収まると元の空間に戻った


 「さて、始めようか」


 俺がそう言った瞬間、互いの闘気で室内の重圧が数倍増す


 特に合図があった訳ではない。しかし両者は申し合わせた様に同時に動き出した


 ―タ、キーーンッ!!


 乾いた炸裂音と金属同士を強く打ち合わせる甲高い音が閉鎖された室内に響き渡る。部屋の中央には互いに《縮地》で一瞬で距離を詰めた二人が飛び掛かって振り下ろされた脇差と逆手に持ったナイフを火花を散らせて打ち合わせていた


 俺はナイフを押し出し後ろに跳んでもう片方の脇差の袈裟斬りを避けると拳銃を構えて発砲する。孝義は容易く銃弾を一閃に切り捨てると口を小さく動かしながら追撃する為に強く踏み込んだ


 「オラッ!」


 俺は孝義の右の突きと後ろ回し蹴りを更に下がって回避すると壁際まで下がって反転し、壁に向かって跳躍するとそのまま壁を蹴って孝義の頭上に飛び上がった。上下逆さになった姿勢で真下にいる孝義の頭に拳銃を向けると躊躇い無く引き金を引いた


 ―タタタンッ!


 孝義は敢えて前に加速すると、数瞬後に標的を見失った銃弾が空を切り地面を穿つ。孝義はまだ空中にいる俺に脇差の切っ先を向けると次の瞬間、不可視の刃が全身を切り裂いた


 俺は顔に右腕を翳して防ぐと体を捻って着地する。その時既に近くまで迫っていた孝義の突きを半身で躱すとそのまま回転してナイフを横薙ぎに斬りかかる


 孝義はしゃがんでそれを避けると足を払う様に横薙ぎに脇差を振るう


 「危ねぇな」


 それを後ろに高く跳ぶ事で避けると距離を詰められる前に素早く口を動かして詠唱を済ませると拳銃を持ったまま右手を前に突き出した


 「うおっ!ガッ!」


 孝義が壁に向かって勢い良く吹き飛ぶ。後ろに数回転がり、脇差を握ったまま床を殴り付けて体を跳ね上げ、立ち上がる孝義に向かって拳銃の引き金を引くと、銃弾の代わりにカチッという小さな音が出た


 「チッ、弾切れか」


 拳銃をその場に放り捨てると左の脇差を突いて頭を横に振る孝義に向かって肉薄し、足に魔力を纏い蹴りを放つと孝義は脇差から手を離して受け流し、蹴りの勢いを利用して殴り掛かる。俺は反転しながら体を屈めると片手で腕を掴んで反転して投げた


 「おっと、危ねぇ」


 孝義はそう呟くと身を捩って空中で掴む手を解く。片手を付いて体勢を立て直した孝義は右手の脇差を構えたまま揶揄う様に口を開く。それに対して俺は構えを解くと肩を竦めて皮肉気に口角を吊り上げて答える


 「おいおい大将、本当に鈍ってるんじゃないか?さっきから攻撃が軽い上に簡単に捌けるし、今なんて確実に仕留められる場面で弾切れを起こすなんてあんたらしくも無い。一体どうした?」

 「まだ体が馴染んでいないみたいでな。それに大した死線を経験していなかった所為でどうも調子が悪い」


 俺の言葉に孝義は構えを解くと呆れた様な眼で俺を見ながら問う


 「そんなに温い世界なのかよ」

 「ファンタジーよりホラーの方が大概碌な目に遭わないだろ?」

 「違いない」


 互いに笑い合っていると視界がずれ、ズズズとノイズがかった耳障りな音が響くと先程の戦闘で負った傷が消える。荷物の上で第三の眼を閉じたシュレディンガーは眼を細めて欠伸をすると丸くなる


 俺は床に突き立つ孝義の脇差を抜くと、俺が投げ捨てた拳銃を持った孝義に渡す。脇差と交換する様に孝義から拳銃を受け取ると室内にピィーという高い音が響いた後に荒八木の声で放送が流れた


 『【双頭の猟犬(オルトロス)】、至急支部長室に来い。繰り返す。【双頭の猟犬(オルトロス)】、至急支部長室に来い』


 ブツッと接続が切れた音がすると面白そうに孝義が笑って尋ねる。俺はそれに対して憮然とした表情を浮かべて心底心外という気持ちを込めて返した


 「大将今度は何やらかした?」

 「失礼だなぁ。始末書なら書いたばかりだぞ?」

 「ありゃ?既に終わっていたか。じゃあ仕事か?」

 「多分な。シュレディンガー、行くぞ」

 「あぁ?俺は【領域】開いて疲れてんだ。お前一人で行け」


 荷物の上で丸まったまま顔を動かさずにそう心底気怠そうに言うシュレディンガーに俺は肩を竦める。こいつのこういう気紛れは今更なのでとやかく言うつもりは毛頭ないがもう少しやる気を出して貰いたい


 「仕方ない。俺一人で行って来る。二人を頼んだぞ」

 「了解」


 そう言って俺は部屋を出た

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 アルベルトが退室した後、孝義はその場で胡坐をかいて座り込むとポケットから布を取り出して脇差の刃を拭う


 汚れが落ちた所で砥石を当てているとクウがおずおずとした様子で後ろから孝義に話しかけてきた。孝義は手を止めると向き直って尋ねる


 「あ、あの」

 「ん?確かクウちゃん…だっけか。何か用か?」

 「はい。少し聞いて良いですか?」

 「構わないよ」

 「アルベルトさんは何者何ですか?」


 真剣な表情でされたクウの問いに孝義は困った様に頭を掻いて少し唸るとクウに尋ねる


 「う~ん…。本人は何だって?」

 「しがない魔術師だと言ってました」

 「大将らしいな。只、これは大将自身の問題だから俺が言える事じゃねぇんだよ。言える事は大将は身内には甘いけど敵対者は容赦しない事位か」


 孝義の言葉に納得いかない様子のクウに苦笑すると言葉を続ける


 「まぁ、本人に聞いてくれ。付き合っている内に何時か話してくれるだろ」

 「…分かりました」


 そう言ってジャンヌ達の下に戻るクウを見ながら孝義はかつてのアルベルト―樋口の事を思い出す


 死体が辺りに転がる広い部屋の中で黒い靄を纏いながら樋口は立っていた


 十分にも満たない僅かな時間に一人でこの惨劇を生み出した本人は何時もと変わらない能面の様な表情が抜け落ちた顔で辺りを睥睨すると、冷たい金色(・・)(こんじき)の眼を閉じる。靄が吸い込まれる様に消えると共に眼を開けると振り返って元の黒に戻った眼で孝義を一瞥してから正面の廊下に進んでいった

解説

【シュレディンガーの猫箱】

閉鎖空間内で展開し、解除後は発動している間の一切の事象を無かった事に出来る【領域】

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