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43.旧友との再会

機材トラブルで投稿が遅れました

申し訳ありません

 始末書を書き終えた俺は友人である八重樫に会う為に資料室に足を運んでいた


 膨大な事件資料のファイルが納められた天井まで届く程の書類棚が息苦しさを感じさせる程に室内の四方の壁を覆い尽くし、所狭しと立ち並ぶ書庫は薄暗く少し埃っぽい。整然と並ぶ事件名だけが背表紙に書かれたファイルは常に過去の事件と起こった事件を比較する為に持ち出され、どの棚にも必ず隙間があった


 特に当ても無く棚と棚の間を彷徨い歩いていると部屋の中程にある棚の前に、左足が義足の、歩行の補助用の杖を正面の棚に立て掛けて空いた手でファイルに収められた何等かの資料を静かに読むやや痩せ型のスーツ姿の男―友人である八重樫和也が棚を向いて立っていた


 「八重樫、久し振りだな」

 「…君は誰だい?」


 俺の声に資料から顔を上げて俺の方を向いた八重樫は記憶の中の彼よりも幾らか瘦せており、顔はやや頬が瘦けて、少し落ち窪んだ眼の下の隈はその濃さを増している様に見える


 転生する以前の記憶では義足で無かった筈の左足といいその姿は友人として心配になる


 八重樫は訝し気な眼で俺を見る。様々な疑問が入り混じった表情で俺を見ながら杖をついて向き直る八重樫に俺はそうだよなぁ~と思いながら問い掛ける


 「あぁ、この姿だとそうなるよな。取り敢えず樋口圭吾と言えば分かるよな?」

 「…そんな、でも、この感じは…」

 「クックックッ、落ち着けよ。何時でも冷静な所がお前の長所だろ?【詐欺魔術師】さんよ」

 「っ!…ククク…、ハハハ!!そうだね。確かに君だよ。【テロリスト】」


 俺が転生以前の名を告げると目を見開いて驚き、混乱した様子を見せる八重樫に、俺は思わず喉を鳴らして笑うと彼と親しい者が良く呼ぶ呼び方をする。八重樫はその呼び名に鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべるとファイルを持つ手で顔を押さえて心底面白そうに声を上げて笑う


 八重樫は暫く笑うと愉快気に言葉を返す。その呼び名に懐かしさを覚えながらもやはり彼の変化が気になり心の底から再会を喜ぶ事は出来なかった


 「八重樫、お前少し瘦せた様だな。それにその足はどうした?」


 俺がそう尋ねると八重樫の表情に影が差す。楽し気な笑みは少し悲し気なものに変わり、こちらを見ていた視線を床に落とす


 「色々あって、ね。何時までもこんな狭くて埃っぽい所にいるものなんだし移動しよう。喫煙室で良いかい?」

 「あぁ、構わないよ」


 資料室から出て喫煙室に俺と移動した八重樫は中に入ると部屋に備え付けられたベンチに座り、胸ポケットから少し潰れて凹んだ煙草の箱から一本取り出して銜えるとジッポライターで火を着ける


 禁煙ブームの真っ最中の上に、電子タバコが主流のこの時代に紙巻タバコを使う二人はかなりの変わり者、又は少し古い人間と言えるだろう。因みに麻薬や大麻の電子化も進んでいて、少し前までの紙巻=薬物という風潮は減少している


 深く息を吸い込んで紫煙と共にゆっくりと大きく吐き出すと、立っている俺を見上げて残り数本の潰れた箱を差し出した


 「いるかい?」

 「貰おう。ありがとよ」

 「構わないよ。…さて樋口、君は【沼男スワンプマン】を知っているかい?」

 「沼男?思考実験の一つだったか?」


 確か『死んだ人間と完璧に同じ物体は死んだ人間と同一と言えるか?』という内容だったか?と考えながら、受け取った煙草を銜えて火を着けながらの俺の短い言葉に八重樫は頷くと続きを話し出す


 「あぁ、そうだよ


 『ある男が散歩をしていると不運にも公園にある大きな池の前で落雷に遭って死亡する。その時、もう一つの落雷が近くの池の中に落ちた


 何という偶然だろうか。この落雷と池の中の汚泥が化学反応を引き起こし、死んだ男と全く同一、同質形状の生成物を生み出してしまう


 この汚泥から生まれた生成物は原子レベルでつい先程死亡した男と完全に同一であり、見かけも知識も記憶さえも全くの同一である様に見える』


 これが【沼男スワンプマン】だ

 さて樋口、此処で一つ君に問おう。君は死んだ男と生成物は同じだと思うかい?」

 「……」


 俺はその問いを銜えた煙草の煙を深く吸い込みながら考える


 俺の知っている誰かが【沼男スワンプマン】だったら。例えば今、目の前でベンチに座る八重樫が【沼男スワンプマン】だったら…


 そこまで考えた所で煙草を摘み、口から離してフゥーと煙を吐いて答える


 「さぁな?実際にそういう状況になってみないと分からねぇよ。只、今言える事は俺は違う物だと思う」

 「そう、か」


 俺がそう答えると八重樫はこちらを見上げていた顔を床に伏せて薄っすらと自嘲気味な笑みを浮かべてそう呟く。その様子から今の問いには彼なりの何等かの意味がある問いだった事が窺えた


 「それでその―」

 「それで?まさか理由も無く戻ってきた訳ではないだろ?何があった?」


 笑みを消して俺を見上げた八重樫の俺の言葉を遮る強引に話題を変える為の問いに、俺は煙草を銜え直して今までの経緯を話す。それを聞いた八重樫は短くなった煙草を備え付けの灰皿に擦り付けると顎に手を当てて呟く様に話し出す


 「…そうか。確かに気になるね。分かった、僕も調べてみるよ。それにしても複数の神格の特徴を持つ少女か…如何にも嫌な予感しかしないね」

 「保護するって決めた以上見捨てる気はないぞ」

 「分かっているさ。君の事は良くね。さて、やる事も決まったし僕は失礼するよ。君も他の皆に顔を見せて来ると良い」

 「あぁ」


 そう言って杖を突いて部屋を出た八重樫を見送った後、すっかり根本近くまで燃え尽きた煙草を灰皿に擦り付けて部屋を出る


 コンクリートの廊下を進んで最初にいたエントランスに戻ると待合スペースには鬼瓦はおらず、その代わりにジャンヌ達の他にジャケットを着た20代程の逆立った短い茶髪の男と、男より数歳年下に見える長い黒髪の薄い茶色い秋らしいワンピースを着た眼を閉じた白杖を右手に持つ女性、そしてセーラー服を着た高校生位のブロンド髪を肩甲骨辺りまで伸ばした少女がいた

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