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42.【第十三支部】

寒くなってきましたね。皆様も体調管理をしっかりとしてください

最近、短編ホラーの【後一回】を投稿しました。宜しければ読んでください

 「あら?新人かしら?」


 左側の壁の中央にある扉が開くと一人の人物が湯気の立つコーヒーカップを持って出て来ると、俺達に気付いて歩いて来ながら尋ねる


 その人物は黒いジャケットとジーンズを着こなした黒髪を腰まで伸ばした浅黒い爽やか系のイケメンのオネエ(・・・)だった。俺は懐かしさを覚えて思わず苦笑すると愉快気に返す


 「ハハッ、いや、一応新人ではないよ。姐さん」

 「あら?その呼び方と雰囲気…、確かに覚えがあるわねぇ~?貴方もしかして樋口ちゃんかしら?」

 「流石、姐さん。正解だ。異世界に転生してしまってね」

 「あら?フフフ、そうなの。相変わらず目付きが悪いのねぇ~?中身の問題かしら?」

 「喧しいわ」


 そんな他愛無い会話を終えると姐さん―鬼瓦紀矢子が俺の後ろの二人に視線を移すと俺に問い掛ける。鬼瓦の視線にピクッと体を震わせる二人の内のクウを手で指すと答える


 「所でこの可愛い娘達は?又拾ったの?それともナンパした?」

 「何か引っ掛かる物言いだがまぁ良い。このクウって娘が理由でな。情報収集と今後の為に自衛出来る程度の戦闘訓練を出来る様になってもらおうと思ってな」

 「そうなの。二人共、私は鬼瓦紀矢子って言うのよ。宜しくね?」

 「よ、宜しくお願いします」

 「よ、宜しく…」


 紀矢子からそう笑顔で話し掛けられたクウは恐る恐ると言った様子で返し、シオンは思ったよりも人見知りなのか俯いて小さく呟く様に返した


 「フフフ、二人とも可愛いわね。所でそのクウって娘には何があるの?」


 鬼瓦の問いに俺は顔を引き締めると一歩前に出て後ろの二人に聞こえない様に声を出さずに口の動きだけで答える


 「(複数の神格との契約と思われる肉体の変化が見られる)」

 「…!そう…。本部に連絡するべきかしら?」

 「暫くこっちで動くがもしもの時は頼む」

 「了解」


 小声でのやり取りを終えた二人は互いに一歩下がる。鬼瓦は手に持つ少し冷めた珈琲を一口飲むと振りむいてそのまま中央にある待合スペースへ歩いて行き、ソファーに座った。優雅に足を組んだ鬼瓦は珈琲をテーブルに置くと俺を見て口を開く


 「私とジャンヌちゃんが見ているから貴方は早く支部長に挨拶に行きなさい。序にお説教も待っているわよ」

 「…分かってるよ。ジャンヌ、頼んだぞ」

 「はい」


 説教と云う単語を聞いて憂鬱になりながら、俺は三人から離れると右側の壁にある三つの内の左側の扉を押し開ける。左右に扉が四つずつ並ぶ蛍光灯が照らす明るいコンクリートの廊下を些か重くなった足取りで、最奥にある支部長室と書かれたプレートのある木製の扉の前に立つと、緊張から唾を飲み込み扉をノックした


 「入れ」


 太い腹の底に響く様な、入室を許可する男性の声を聞いて、俺は扉を開けて中に入る。中は入口側以外の壁を本やファイルが所狭しと収められた本棚や棚が埋め尽くし、部屋の中央には応接用の木製の机と革張りの黒い上質なソファーが二脚、入口と直角に置かれている


 そしてその向こうには装飾の少ない大きな木製の机があり、そこに肘をついてソファーと同じ素材の椅子に座る角刈りの青い繋ぎを着た30代の彫の深い顔立ちの巌の様な男が静かにこちらを見ていた


 さて、此処で【第十三支部】について説明しよう


 俺の所属する組織【神話・怪異対策課】――通称【神怪課】は警察庁地下にある本部と数十もの支部で構成されている


 各支部はその番号によってそれぞれ役割が異なり、【第一支部】ならば薬物や武器の開発・研究や検死等を主に行い、【第二支部】ならば特殊な事件の警備を行っている


 そしてこの【第十三支部】は人ならざる者の力を行使する事が出来る、過去に一度以上捕まって有罪判決を受けた後に、一定以上の実力と理性のあると判断された結果、持ち掛けられた司法取引に応じた犯罪者(・・・)達が務める支部であった


 そしてその【第十三支部】の者達を纏め上げているのが目の前の男――【【第十三支部 支部長】荒八木 剛三郎】であった。アルベルトにとっては、【とある契約(・・・・・)】と其れに伴う恩義があり、更に支部の特性上、保護者的な存在でもある為に、どうにも頭の上がらない相手でもある


 俺はピシッとした気を付けの姿勢になると、支部内でのコードネームを名乗る


 「【双頭の猟犬(オルトロス)】、只今戻りました」

 「あぁ、それで何があった?」


 荒八木の見透かす様な眼と、主語の欠けた漠然とした問いに俺は背負っていた袋から地下で手に入れた資料を取り出して机に置き、隠す事なく答える


 「転生後の世界の遺跡の調査中、複数の神格の特徴を持つ少女を発見。保護の為に一時帰還しました」

 「…そうか。この事は本部に伝える。今、何か言いたい事はあるか?」


 俺が提出した資料の中にある十一兼好の手記を読みながらされた問いに俺は緊張が混じった真剣な表情で答える


 「少女の世話を私と支部の仲間達に任せて頂きたい」


 俺の言葉に荒八木は深々と大きな溜息を吐くと、手記から眼を離して心底呆れた様な声で言う


 「…そう言うと思ったよ。お前の一度目を付けた物事への執着は良くも悪くも周りの言葉で覆る事はほとんどないからな。分かった。私の責任でその少女の事はお前とその部下に任せる」

 「ありがとうございます」

 「他に何かあるか?」

 「いえ、特にはありません」

 「そうか。そういえば八重樫と仲が良かったよな?会いに行ってやれ」

 「分かりました。失礼します」

 「その前に、だ」


 俺が一礼して退室しようと後ろを向いた時にそんな言葉が荒八木から放たれて、其の場で足を止めてギクリと肩を震わせて内心で(逃げられなかったか…ッ!)と思う


 引き攣った顔で恐る恐る振り返ると、視線の先には迫力のある笑みを浮かべた荒八木がいた。しかし額には青筋が浮かび、ただでさえ迫力のある目は更に迫力を増しており、顔と違って全く笑っていなかった


 ヤバい。これは怒っている…!!


 額どころか全身から冷や汗を流して震えながら見ている間に荒八木は机の引き出しから数枚の紙を取り出しながら言葉を続ける


 「樋口、お前此処に来る前に随分とやらかしたなぁ~?さっき報告を聞いたが強盗犯は一人死亡、一人肋骨等の骨折の上、内臓破裂による瀕死の重体だそうだ」

 「そ、それは、その…ッ!」

 「お前ならもう少し平和的な解決が出来たと思うのだがなぁ~?なぁ、どうなんだ?

 …まぁ、過ぎた事は良い。始末書を此処で書きなさい。それから退室を許可する」

 「分かりました…」


 俺は肩を落として差し出された始末書とペンを受け取ると応接用のソファーに座って始末書の作成を行うのだった

解説

【神話・怪異対策課】通称【神怪課】


 神話及び怪異事件に対応する為の非公式組織。政府内でさえその存在を知る者は極僅かである


 表向きは自衛隊の【怪異対策班】が処理した事になっている事件の大半を遂行している。尚、【怪異対策班】は政府が認めた公式の組織である。弱い訳では無い。所詮、人間と云うだけで


 『我々の使命は、神話・怪異等の特異存在を正気の世界から【隔離】し、侵食し破滅を齎す狂気を【排除】する事で、【人類】の終焉までの期限を伸ばし、【延命】させる事である


 人為らざる我々は、其の為ならば如何なる犠牲も許容し、必要ならば我々自身の手で【人間】に終止符を打つ事も厭わない


 我々は努々忘れてはならない。直接的、間接的に拘わらず【人類】を滅ぼすのは他ならぬ【人間】である事を』

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