39.遺された物
後1、2話で1章が完結します
現在編集している作品を幕間にするか2章にするかは未定ですが次までに決める予定です
それと38話の修正点です
黄色っぽい軟体動物の触手➝鱗模様が浮かぶ灰緑の軟体動物の様な触手
この部屋で見つけた情報から幾つかの疑問が出てきた
先ずはこの設備だ。今尚稼働している機器達は元の世界の物とは比べ物にならない程に発達している。少なくとも人間が持つ技術ではない。あり得るとすれば冥王星からの侵略者であるミ=ゴや超時間の影たる偉大なる種族のイス人辺りの物だろう
事実、此処にある設備に使われている素材の一部はこの世界に存在しないのだから
更に気になったのは【無形なる崇拝】という教団の名に聞き覚えがある事だ。アルベルトの記憶が正しければ元の世界に於ける大国の一つ【バチカン皇国】が裏で抱えている教団の一つだった筈だ
何が言いたいかというと存在する時間が一致しない事だ
紙の状態から考えて以前読んだ言い伝えの情報が正しければ数百年前の神代の頃に書かれた物となるのだが、アルベルトの記憶では【無形なる崇拝】は30年前から生まれた組織の筈だった
無論、【無形なる崇拝】がかなり昔から密やかに存在していた可能性もあるが、残された文字は紛れもなく現代で使われている日本語だった事から少なくともこれを書き残した者は一世紀以上昔の人物である可能性は低いと考えられる
この事からこれを書き残した人物と教団は過去のこの世界に現れた事になる。恐らく残された手記に出てくる燕尾服の男が何か関わっているのだろう。心当たりがあるが一先ず置いておく
次に気になったのはガラス管らしき物に入れられた少女の事だ
はっきり言ってこれは異常だった。それは異形と化した見た目などではなく、その不自然さにあった
通常、神格との契約は一柱のみで行われる。そしてこの契約の恩恵、又は代償によって肉体が変化する事があった
だが、一目見て少女の体には少なくとも三柱の神格との関わりを示す痕跡が見つかる。見ただけでそうなのだから更に何かある可能性が高かった
明らかに厄介な、いや、そんな陳腐な言葉で片付けられない何かである事は明白だった
「【Pandora hope】…、【災厄の匣の希望】か」
思わずそう呟いて考える。恐らく伝承の大戦はこの少女を巡って起きたのだろう。これだけの神格の力を宿した少女だ。それはそれは上質な生贄となるだろう
未だ此処にいるという事はこの場所は教団の連中には見付からなかった様だ
そして遺跡で見た文字を思い出す。如何やら俺がこの世界に転生したのは偶然では無かった様だ。この手記を残した者達は何時か来る《例外》に賭けて此処から去った。そして如何やら彼らはその賭けに勝ったらしい
「本当に生きてたら何が起こるか分からん物だ」
そう自嘲気味に心底呆れた様に、そして愉快気に心底楽しそうに小さく笑うと俺は少女の入ったポッドの隣にある他の物と比べて一際大きい機械の前まで行くと、スマホとケーブルを取り出した
ケーブルで機械とスマホを繋ぎ、スマホを起動させると画面の中でクロが嬉しそうに弾んだ声で尋ねてきた
『マスター、仕事ですか?』
「あぁ、此処の機械群の解析、そしてセキュリティの解除だ」
『畏まりました』
クロは目を閉じると背後の背景を埋め尽くす様に無数の数字とアルファベットが現れ素早く左右に流れて行く。それと同時に室内の機械群も同調する様に駆動音と共に画面に無数のウィンドウが浮かんでは消え、どんどん切り替わっていった
やがてケーブルを繋ぐ機械のモニターに一つのウィンドウが中央に浮かぶ。そこには
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【Pandora hope】の仮死休眠を解除しますか?
Yes/No
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俺は手元のキーボードを操作して迷わずYesを選択する
ポッドからガタガタと音が鳴ると中の液体に足元から気泡が生まれ、徐々に中から液体が配管を通ってポッドの中から何処かに流れて行く
やがて中から全て無くなると、ポッドの正面幅1m程が下に下がって開いた
俺が体育座りの様な姿勢でポッドの奥に寄り掛かる少女に近付くと、俯く少女が顔を上げた
暫くぼんやりとした様子で辺りを見回していた少女は意識がはっきりしてきたのか俺に目を向けるとびくりと体を震わせて後退る
こちらを見る少女の紅い眼は左右で違っていた。蜘蛛の巣状の傷のある左目は爬虫類を思わせる縦割れの瞳孔を持つ眼だったのだ
縮こまり、怯えた様子でこちらを見る少女に俺は敵意は無い事を示す為に両手を頭の上に上げると、目線を合わせる為にしゃがんで落ち着いた声で少女に尋ねる
「君、名前は?」
「ク、クウ…」
「そうか。俺はアルベルトっていうんだ。所で西暦何年生まれだい?」
「えっと…。2034年です」
少女―クウの答えに俺は現代の元の世界から過去のこの世界に来た事を確信する
考え込むアルベルトにクウはおずおずとクウが尋ねる
「あ、あの…。兼好さん達は何処ですか…?」
「……」
俺は机の上に置かれた手記を手に取り、少女に渡す。少女が読み終えた事を確認すると俺は静かに口を開いた
「…え?」
「俺は彼らに君を託された者だ」
「そんな…!?兼好さんは必ず直ぐに迎えに来るって…!?」
「混乱している所済まないが此処から離れるべきだ。あれから長い時が経って設備や術式が老朽化している可能性が高い」
「そんな…。何で…?」
俺は突然多くの情報を一気に与えられた上に、今まで頼りにしていた人が死んだかもしれないという事実に精神に多大な負荷を受けて錯乱するクウの肩を掴むと、細かく揺れる焦点の合わない眼を真っ直ぐ見て心に届く様に声を出す
「落ち着け!気をしっかり持つんだ!
俺は此処に辿り着き彼らに託された以上、君を目覚めた事を何時か勘付いた教団の連中から守り抜く義務がある!
良く聞け。彼らは生きている可能性はまだある!彼らと再会する為にもしっかりとしてくれ!」
「あ、は、はい…。済みません。少し混乱していました」
「いや、仕方ない事だ。取り敢えずこれを羽織っていてくれ」
「え?…キャア!」
申し訳なさそうに顔を逸らして着ていたローブを脱いで渡すアルベルトにクウは不思議そうな顔を浮かべるが、見下ろして自分が今何も着ていない事に気付くと悲鳴を上げて縮こまり、急いでローブを受け取りそれを着る
着終えたクウはおずおずとアルベルトに声を掛ける
「着れました」
「そうか。おい、シオン。ちょっと来てくれ」
「何ですか?」
キョロキョロと室内を戸惑いながら見ていたシオンを呼ぶと、俺はこの後の事を話し出す
「ちょっと行きたい場所があってな。その前にそこにある資料を纏めてもらえるか?」
「分かった」
シオンが頷いて机と本棚にある資料を纏めている間に俺は式神とこれから行おうとしている事の準備をする。手記の置かれた机の上でメモ用紙に先程使ったボールペンで端的なメッセージと術式を書くと鳥の姿に変えた式神“偵鳥”の足に結び付けた
それを終えた俺はクウに向き直ると告げる
「クウ、日本に行くぞ」
「え?」
最近、忙しいので解説はありません
編集ペースは維持する様に頑張ります




