37.遺跡
1章も残り数話になりました
2章若しくは幕間の様な物も編集中です
【教団殺し】も如何にか頑張ります
並び立つ石柱の一部は中程から折れ、上に乗せられていたと思われる長方形の石が無造作に転がっている。立ち並ぶ列石の中央には3m程の高さがある岩がどっしりと存在している。風化具合から考えてかなりの年月が経っている様に感じる。
俺は調べる為にシオンと共に中央の岩に近付くと、表面に何か彫られている事に気が付いた。手で汚れや苔を払うとそこにはこの世界に存在する筈の無いギリシャ文字が一面に彫られていた。だが、――
「読めない…。ギリシャ語では無いのか?」
一応、アルベルト―樋口圭吾はかつての世界に於いて英語は勿論、中国語、ロシア語、ギリシャ語から古代エジプト語やヴァールシア語等の古代語も読む事が出来た。しかしそのどれにも当てはまらず俺は思わず首を傾げる。
ふと、上の方を見るとアルファベットで
BCD EFG
と薄っすらと彫られている事に気が付いた。それを見て気付く。
「シーザー暗号か」
シーザー暗号とは、元の文字を辞書順で3文字ずらして読むと云う単純な暗号だ。
例えば、『樋口』であれば『ほざと』となる。
そうやって脳内で解読すると、どうやらこれはギリシャ文字を使ったヴァールシア語である事が分かった。その内容は、
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
何時か来る《例外》に遺す
開かれる《門》から【Pandora hope】に向かってくれ
奴らに見つからぬ内に保護してくれ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
となる。
アルベルトがこの内容を読み終わると同時に、何か力が働く感覚と共に岩が罅割れ、そこから強い光を放ち視界を白く染める。その光が止むと、岩があった場所には魔法陣が描かれた石板があり、周りの壊れていた列石は本来あるべき状態へと戻っていた。
解読した事で掛けられていた魔術が解除されたのだろう。
「シオン、ちょっと来てくれるか?」
「分かりました」
俺はシオンに声を掛けて共に石板の上に乗って石版に魔力を流しこむと、魔法陣が輝き出し周囲の景色が歪み始めた。
歪みは大きくなり、脳内に何かが流れ込む感覚と共に視界が暗転するとエレベーターに乗った時の様な軽い浮遊感を感じる。
やがて視界が明るくなると目の前に広がっていたのは長い年月を経て風化し植物に呑まれた壊れた無数のコンクリート製の建物だった。
「な!?これは…」
俺はかつての世界の未来を感じさせるその光景に驚きながらも何処か納得をしていた。恐らくこの廃墟は神代の物だろう。神々に敗北した者達の築き上げた遺産といった所だろうか。
敗北によって衰退したかつて栄えた文明の遺跡を暫く見ていた俺は、シオンが服の裾を引く感覚で意識を取り戻すと遺跡に向かって歩き出した。
脳内に流れ込んだ物は何かの座標と行き方だった。
俺はそれに従って蔦や木の根が絡まり、分厚い苔が生した屋上が崩れた三階建てらしきのビルの汚れて曇った自動ドアを手で無理矢理開けて中に入る。
停滞した時の中で降り積もった埃が外から流れ込んだ風に巻き上げられて陽光を反射してダイヤモンドダストの様に幻想的に煌めく。
「これで鼻と口を押えておけ」
「分かりました」
俺は外気が入って舞い上がった埃を吸い込まない様にシオンにハンカチを手渡して、外套の襟で鼻を押えて中に入る。
如何やら此処はかつて病院か診療所だった様で中は受付のカウンターと横長の椅子が無数に並ぶエントランスになっていた。奥には左右に伸びる廊下と、中央からやや右寄りにある扉が見える。
カウンター横に掛けられたホワイトボードの隣にある図を見ると、やはり三階建てで一周する長方形の廊下の角にエレベーターがある事が分かった。
カツン、カツンと足音を室内に反響させながら右の廊下に進む。
明かりの無い暗い廊下には薄汚れた扉が並び、場所も相まって不気味な雰囲気を湛えている。俺は手前から四つ目の扉のノブを捻って開ける。
中は相変わらず薄暗く埃っぽい。室内には様々な配管が都心の地下鉄の様に壁や天井に張り巡らされ、中央には大型の元の世界では旧式に分類される発電機が置かれている。
調べてみると如何やら燃料が切れた様だ。目的地に行く為には電力を復旧する必要がある。
俺は発電機を調べて動かす事に問題が無い事を確認すると、《倉庫》を開いてガソリンの入ったポリタンクを二つ取り出して錆び付いて硬くなった燃料タンクの蓋を開ける。ギシギシと錆び付いて嫌な音を立てて開いたタンクにガソリンを入れると、モーターを動かす為の紐を引いた。
数度紐を引くとガタガタと音を立てて振動し、発電機が動き出した。試しにこの部屋の電源を入れると天井の蛍光灯が点滅を始めた。如何やら電気を供給出来た様だ。
部屋を出た俺は廊下の突き当りにあるエレベーターの前に立ち、ボタンを押す。暫くするとガタンという音がなり、数瞬後に扉が開いた。
照明は既に寿命を迎えたのか暗いエレベーターの中に入ると、二階のボタンを押す。ギシギシとワイヤーが軋む不安を煽る音が数秒続くと、ガコンという音が鳴り、扉が開いた。
エレベーターから出るとそのままもう一つのエレベーターに乗り、三階に上がる。
三階は崩落した瓦礫が散乱し、無くなった天井からは陽光が差し込む。
この状態でエレベーターが動く事が不思議で仕方ないが、如何やらその区画は頑丈な造りになっている様でエレベーターのある角の一角の天井は崩落していなかった。
「さてと。次は…とシオン、危ないから背中乗れ」
「え?でも」
「良いから早くしてくれ」
「分かりました」
俺は散乱する大小様々な瓦礫を見て呟くと、シオンの事を思い出してしゃがむと背中を向ける。シオンは背負われる事を少し躊躇うが、俺の有無を言わせない言葉に頷いて背中に乗った。
シオンを背負うと、足を伸ばして手近な大きめの瓦礫の上に飛び乗る。そしてそのまま次の瓦礫へ跳躍する。
飛び石を渡る様にして廊下の中央にある扉の前まで行くとノブを捻って押し開けた
ギィイイと扉を鳴らして中に入ると医院長や理事長の様な重役がいる様な豪華な机やカーペットがある部屋だった。
俺はシオンを背中から降ろすと、部屋の奥の中央に掛けられた髭を湛えたギリシャ人の老人の肖像画を外してその裏にある埋め込み式の金庫を弄る。ダイヤル式のそれは此処に転移した時に与えられた情報で容易く開き、中に残されたカードキーを回収する。
金庫を閉じて肖像画を戻すと、今度はその左隣にある古びた分厚い医学書が所狭しと納められた本棚を横にずらす。するとエレベーターとその横に、上の方に丸く小さな赤いランプが点灯したカードキーをスキャンする為の細長い差込口が現れた。
カードキーを差し込むとピピッという音が鳴り、赤いランプが消えて隣の緑のランプが点灯する。カードキーを引き抜くと、一人でにエレベーターの扉が開いたのでシオンと共にその中に乗り込んだ。
俺達が乗ると同時に扉が閉まり、ガタンと音を立ててエレベーターは勝手に下へ下がっていった。
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アルベルトとシオンが乗るエレベーターの扉が閉まると同時に赤いランプが再び点灯し、少し遅れてずらされていた本棚は一人でに動き出すと元の場所へと戻った。
アルベルトが開けた扉も本棚同様一人でに閉まると室内に再び暗闇と静寂が戻る。
アルベルトはこの後直ぐにこの場所に遺された真実に辿り着くだろう。荒廃した遺跡に残された意志は確実にアルベルトの行く先を導いていた。
解説
ハイパーボリア
人類以前に存在した人類。高度な文明と技術力を持っていたが滅亡した。だが、現代にも子孫はいる
クトゥルフやイグ等の邪神崇拝を行っていた。何故かツァトゥグアの信仰は禁じられていた。
かつてツァトゥグアを崇拝した蛇人間はイグの怒りで滅ぼされた。




