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36.森に響く慟哭

暗い内容です

 俺は少女の前まで行くと膝を付いて目線を合わせると、少女はシュレディンガーを抱き締めたまま泣き腫らした眼でアルベルトを見返す


 未だに涙で濡れるラピスラズリの様な藍色の眼は不安気に揺れて、その小さな体や口は恐怖に小刻みに震えている。血と煤に汚れた顔や服から考えて、これからアルベルトが聞こうとしている事は少女に辛い思いをさせる事は間違いなかった


 俺はその事を尋ねようとして、その前に聞くべき事がある事を思い出した


 「えぇっと、君名前は?」

 「え…、と、シオン…です」

 「そうか、実は遺跡が近くにあるっていう村を探しているんだが村に案内してくれるか?」

 「そうだ!お父さん!お父さんを助けてください!!」

 「あぁ」


 少女―シオンの悲痛な縋る様な声に頷くとシオンは立ち上がり、村に向かって駆けだす。それを追って村へと向かうと、進むにつれて焦げ臭いにおいが強くなり、向かう足が速くなる


 やがて開けた場所が見えて来ると、その前でシオンが立ち止まる


 視線の先には破壊され、すっかり焼け焦げ炭化したかつて家屋だった物の残骸が小さな炎と煙を燻らせて散乱している。また、所々に住民と思われる鋭利な刃物で斬られた死体や家屋の残骸に押し潰された死体が散見出来た


 シオンは呆然とした表情で眼の前の惨劇を見回すと、ある一点に眼を向けて弾かれた様に駆け出す


 俺もシオンの後を追ってそこに向かうと、そこには何処かシオンの面影を感じさせる猫科の耳がある頭から血を流す男性が、倒壊した建物の残骸に下半身が埋もれた、自らの物と思われる血溜まりの中に倒れていた


 詳しく観察すると、未だに火が燻る炭化した太い柱が、男性の足を中心に下半身を押し潰している。顔もこれだけ熱源が近くにあるにも関わらず出血をし過ぎたのか青白く、脂汗が流れている事からかなり状態が悪い事は明白だった


 最早手の施し様が無く、長くても後数分もすればその命は尽きる事だろう


 男性の傍らにシオンが膝を付き手を握って必死に呼び掛けると、男性は薄っすらと眼を開けてか細い安堵の声を出す


 「お父さん!お父さん!!」

 「…無事で…良かった…」


 そしてシオンの父親は眼だけを動かして俺を見ると一言だけ先程よりも小さく、しかし今際の際でありながらハッキリとした声で確かに言った


 「…娘を頼みます」

 「…あぁ、引き受けた…。ゆっくり眠れ」


 俺がフードを右手で引っ張り目深に被って答えると、シオンが握る手の中から擦り抜ける様に父親の手が落ちて静かに眼を閉じた。その顔は何処か安心した様な穏やかな表情を浮かべていた


 「…お父さん?お父さん!!…うぁ…、ウァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 シオンは父親の胸に覆い被さると、大声で泣き声を上げる。その慟哭は何処までも森の中に響き渡る。俺はその悲痛な声を聞いても然程感情が動かない自身の薄情さを何処か他人事の様に思うと同時に、間に合わなかった事を残念に思う


 やがてシオンの泣き声は小さくなる。俺は咽び泣くシオンの背中に向かって声を掛ける。思ったよりもスッと出た平坦な声にやはりあの代償は(・・・・・)引き継が(・・・・)れている(・・・・)のだなと冷静に考察する自分に、内心で自嘲する


 「ヒグッ、エグッ…」

 「間に合わず済まなかったな」


 俺の謝罪の言葉にシオンは父親の死体から立ち上がると首を左右に振る。強く握り締められた手からは爪が皮膚を裂いて血がぽたぽたと滴り落ちていた


 シオンは父親の遺体から少し離れると跪き、両手で穴を掘り始める


 「何をしているんだ?」

 「…墓穴を作るんです。そうしないと魔物や肉食動物が巣を作るので…」

 「そうか。素手では大変だろうから手伝うよ。《陥没》」


 俺は魔法で地面を人一人入れる位の大きさに陥没させる。そして少女の力では動かせないであろう家屋の残骸を取り除き、その中に遺体を入れた


 「火の魔法は使えますか?」

 「あぁ」

 「お願いします」


 シオンの静かな言葉に俺は黙って火球を生み出すと、作ったばかりの墓穴の中に飛ばす。火球は遺体に当たると包み込む様に燃え上がり、煌々とシオンと俺を照らす


 シオンは遺体が燃え尽きるまで黙って見届けると、俺の方を見た


 「ありがとうございます」

 「構わないよ。済まないが一人一人を処理していては日が暮れてしまうから纏めてやらせてもらうよ。《群葬列石》」


 俺の魔法により地面が波打つと村全体が蠢く地面に呑まれて行く


 既に生存者がいない事は確認していたので万が一という事は起きない


 やがて全てが地面の下に消えると、大小様々な石柱が地面から隆起する。それは村人達の墓標であった。


 俺は静かにそれを見るシオンに尋ねると、シオンは気の抜けた声で聞き返す


 「こんなものか」

 「…」

 「それでどうする?」

 「どうするって何がですか?」

 「俺は遺跡を調べに来ていてね。それに教会に喧嘩を売っちまったから近い内に狙われるだろう。遺言で君を託されたからそれだけ聞いておこうと思ってな」

 「一緒に行きますよ」

 「良いのか?一緒にいるのはかなり危険だぞ?」

 「構いませんよ。どうせ死ぬ筈だった身です。それに案内が必要でしょ?」

 「強いなぁ。まぁ、確かにな。其れじゃあ、案内は頼んだぞ。俺はアルベルトだ。これから宜しく」

 「分かりました。宜しくお願いします」


 シオンは石柱から眼を離すと森の中に歩きだす。俺はその後を追いながら、先程の表情が抜け落ちた様な淡々とした受け答えに対して、父親や村人の死を乗り越えたというよりも、受けたショックの大きさで精神が変調をきたしている印象を受けて、自暴自棄に近い危うさを感じる


 「此処です」


 足を止めたシオンが指さす先には、高さ2m、直径3m程の円を描く様に建てられたとみられるストーンヘンジらしきものの残骸があった

解説はありません

主人公の能力で父親を助けられたのではないかと思うかもしれませんが、今のアルベルトでは父親の状態では無理でした

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