33.不穏
今回から一週間に一本ペースに切り替えます
そうしないと編集と投稿が追い付かないので…
後、宗教関係等にかなり喧嘩売っている内容があります
とある村でこの日、平穏が壊された。突如として現れたフードを被った白い法衣を着た集団―異端審問官が現れて虐殺を開始した為だ
「この村に異端者がいると天啓を得た!これより粛清を開始する!」
代表と思われる糸目の男の宣言が終わると同時に部下らしき仮面を被った者達が無言で村人達に襲い掛かった。そこに女子供は関係無く、家の中に隠れていた者は魔法でその隠れる家ごと焼かれた。命乞いや悲鳴、泣き声や断絶魔が入り混じった阿鼻叫喚がかつて村だった場所に響き渡る
そんな中、異端審問官の眼を掻い潜って燃え上がる村から亜麻色の髪の少女が一人逃げていた。九歳位に見えるまだ幼い少女の顔や服は血や煤で汚れ、流れる涙や叫びそうな声を必死に抑える様に引き結んで助けを求める為に走っていた
本当は今も聞こえてくる悲鳴や嘲笑から耳を塞いで動きたくなかった。だが、必死に隙を見て逃がしてくれた父親を助ける為にも泣いて立ち止まる訳にはいかなかった。何度も樹の根や凸凹とした地面に足を取られそうになりながらも走っていると、背後から複数の足音が近付いて来るのが聞こえてきた
もしかして村の誰かではないか?
そんな淡い希望を抱いて少し振り返って背後を確認する。そして遠くで樹の陰から血濡れた法衣の集団が視界の端に映った事で希望が砕け散った
少女は零れそうな涙を堪える様に目をつぶって一心不乱に走っていると、何かにぶつかって後ろによろけた。そのまま後ろに倒れそうになった所で腕を掴まれて体が止まった
「おっと、どうした。大丈夫か?」
頭上から掛けられた若い男の声に恐る恐る目を開けて、顔を上げると、そこには変わった服を着た目付きが少し悪い黒目で長い銀髪を後ろで束ねた若い男が、少女の腕を掴んで怪訝そうに少女を見下ろしていた
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関所を出て【ギルム・ヘルムの大森林】の近くにあるという依頼された村を目指して一般人の範囲内の速度で走っていた
2、3時間程経った頃だろうか?正面から走ってくる猫科の耳を生やした少女が見えた。服や顔に着いた血や煤が気になったので話を聞こうと前に出ると、前を見ていなかったのか少女は減速せずに其のままぶつかった
弾かれて後ろに倒れそうになった少女の腕を掴んで支えると、話を聞く為に声を掛ける
「おっと、どうした。大丈夫か?」
少女は俺の言葉に恐る恐るといった様子で顔を上げると、何かに耐える様に口を引き結んでいた顔をクシャっと歪めて泣き出した
「えっ!?マジでどう…し…た…」
慌てて腕を引いて少女の体勢を戻して、一先ず落ち着かせようとした所で複数の足音が近付いて来る事に気付いた。顔を上げて音のする方を見ると赤錆色と白―恐らく元々は白かったのだろう法衣の様な服を着た、明らかに血液であろう生臭い鉄錆臭を漂わせるどう考えても堅気では無い糸目の男と部下であろう仮面を付けた集団がこちらに歩いてくるのが見えた
糸目の男はこちらに気付くと俺の前まで歩いてきて立ち止まった。男は少女の耳を忌まわし気に一瞥すると直ぐに顔を戻してこちらを見て話し掛ける
「冒険者の方でしょうか?」
「あぁ、あんた達は?」
「私達はしがない神の代行者ですよ。所でそこのお嬢さんに異端者の疑いがありますのでこちらに渡してもらえますか?」
「断る」
俺が未だに泣き続ける少女を背後に庇う様に移動させてそう答えると、糸目の男は何を言っているか分からないかの様な表情を浮かべた
「……済みません。もう一度言ってもらえますか?」
「断る。この娘はお前らに渡さない」
「偉大なる神のご意思を無視するというのですか?」
「神…か。ハッ!下らねぇな」
俺が嘲る様に鼻で嗤ってそう吐き捨てた瞬間、糸目の男は腰の剣を素早く抜いて無言で斬りかかってきた
「危ねぇなぁ~?」
俺は左手で少女を突き飛ばすと、右袖の中にある留め金を指で外してコンバットナイフを抜くと、糸目の男の斬り上げを正面から弾き、背負っていた荷物を少女の隣に投げると足に魔力を纏わせると男の脇腹を蹴りつける。男は咄嗟に後ろに跳んで避けるが、すぐさま放たれた注射器が肩や脇腹に数本突き刺さり、中の薬剤が流し込まれた
「ぐっ!」
「この娘から手を引け。そうすれば見逃してやる」
「そういう訳にはいきませんねぇ!」
注射器を抜いて投げ捨てた男はそう叫ぶと糸目を大きく見開く。黄金に輝く眼は良く見ると魔法陣が浮かんでおり、不規則に回っていた。それと同時に体が何かに縛られる様な感覚を覚える、が
「大した事無いな」
「なっ!?グァ!」
全身に魔力を纏わせて流動させると、それは容易く砕け散った。男は驚愕の表情を浮かべると眼を押さえてよろめいた。手を外して信じられないといった表情でこちらを睨む男の眼は赤く充血し、血涙が一筋零れた
「くっ!まさか私の【神の眼】が効かない!?グッ!?」
「【神の眼】?ハッ!下らねぇなぁ?そんな物、ありふれた只の【魔眼】だろうが。大体、宗教関係者の九割はペテン師や詐欺師って相場が決まっているんだよ」
因みに独断と偏見が多分に籠められた意見だが、九割がペテン師や詐欺師、九分が深淵を知らない幻覚幻聴や妄想癖等の精神病持ちで、一分弱が深淵を覗いたか魅入られた狂人である。一厘未満は哲学者や偽善者辺りか
「クソッ!体が動かん!?そして又、侮辱するかッ!お前達ッ!奴を殺せッ!」
俺が投擲した注射器に入っていた薬剤―遅効性の筋弛緩剤によって膝を付いた男の激昂した声に従って今まで傍観していた仮面の集団が動き出した。八人いる内の半数が剣を抜いて駆け出し、残りの半数は魔法を使う為か何やらブツブツと呟き始める
「面倒だな」
俺は最初に振るわれた剣をしゃがんで躱し、左から迫る振り下ろしを袖から抜いたもう一本で受け流す。三人目の攻撃を弾こうとした瞬間、ゾクリという嫌な予感を覚えて後ろに下がると、何時の間にか一人離れていた四人目が青白く明滅する鞭の様な物を直前まで俺がいた場所に叩き付けていた
そしてそれはかつての世界で見覚えのある物で、この瞬間にこいつらを逃がす訳にはいかなくなった。俺はナイフを鞭を使った仮面の人物に投げ付けると、ダインスレイフ=グリムを抜き、左手の甲を浅く切った
「悪いな。お前らを生きて帰す訳にはいかなくなった」
俺はそう言って刃に着いた血を前に払うと、地面に血の水滴が落ちた瞬間に赤い霧状になって一瞬で膨張し、一帯を包み込んだ。数秒間視界が赤く染まり、赤い霧が晴れて広がっていたのは先程までいた森ではなく、紅い満月が浮かぶ夜空と無数の剣が乱雑に突き立つ血の海だった
「展開せよ【領域:血戦場】」
俺は小さくそう呟き、紅く染まった眼で異端審問官を見据えた
解説
【異端審問官】
神の名の下に粛清と称して虐殺を繰り返す殺人集団。本国からの命令に忠実で狂信と呼べる程に異常に信仰心が高い
誰もが自身を敬虔なる使徒だと思っている
『人々の心を支え救う薬であった筈の【信仰】は、欲望と停止した思考に穢されて【狂信】と言う名の毒へと成り下がった。暴走した狂気は何も救わず、粛清の名の下に血濡れた死と絶望を世界に齎す』
序に【魔眼】
・眼球を媒体にして発動する《瞳術》と呼称される《魔術》の内、魔法陣を施した義眼では無く、何らかの要因で直接眼球に魔法陣が生じて扱う事の出来る《瞳術》又は能力
使用する度に負荷と抵抗による反動で眼球が急速に消耗して9割の使い手が失明し、1割が何かを喪失する事になる




