31.成長と修復
グロイ表現があります
後、諸事情により三日程投稿が遅れる可能性がありますのでご承知ください
「所で足、治したいですか?」
ニコリと笑って問う俺の言葉にアレックスは怪訝な表情を浮かべて俺を見返す
「治したいかだって?治したいに決まっているだろうが。だが、当時の医者や神官にも無理だって言われたぞ。それにその古傷が今更治るとは思えない」
「治りますよ?但し、私の秘密に関わりますがね。どうしますか?」
「……」
「取り敢えずやりたい事があるので汚れても良くて防音設備のある誰も来ない場所はありますか?」
「…地下の修練場がある。今は使用申請が無いから閉まっていて誰もいない。音も漏れない造りになっている」
「では、少しの間、そこを貸してください」
「分かった。その代わり俺もついていく」
「分かりました。ですが他言無用でお願いします」
「内容によるがな」
「結構」
俺は右足を引きずるアレックスと共に一階に降りると、カウンター横にある鉄扉の前に移動する。アレックスが鍵を開けて中に入り階段を下りると、魔道具の明かりに照らされたベンチ等が置かれた学校のグラウンドの様な場所に出た。アレックスは杖を突いて俺の前に行くと、探る様な目で俺を見て尋ねる
「で?何やる気だ」
「人体改造ですかね?」
俺はそう言うと袋から分厚い革紐と黄緑の蛍光色の液体で満たされた注射器を取り出す。俺は革紐を口に銜えて猿轡にすると、ローブを着たまま革鎧等を全て脱いで離れた場所に袋と共にどかし、ローブの袖を捲って左腕を露出させる。そして注射器を左腕に突き刺して中身を注入すると、それを投げ捨てる
パリンという注射器が割れる音を聞きながら俺は淡い虹色の魔力を纏い、眼を閉じて言霊を紡いだ
「【我が時は今狂う。若木は大樹に、雛は鳥に、子は大人に時は進む。過程は過ぎ去り、この身に結果が降りる。今を過去に、未来を今に、我が時は今、我が定め、命を陸年を捧げよう】《成長:陸年》」
言葉を言い終えると共に体に変化が訪れる
体が燃える様に熱い。全身の骨が捻じれる様にミシミシと軋み、筋線維がブチブチと引き千切れる様な音を立てて激痛が襲い掛かる。早鐘の様な鼓動を打ち、弾ける様な痛みに胸を押さえて片膝を着くと、皮膚の表面には細胞が泡立つ様な感覚と共に血管が浮かび上がり、歯を剥いて猿轡を噛む口からは荒い息と共に血がボタボタと滴って床を汚している
アレックスの眼の前で、血管内の血液が沸騰する様な感覚と共に骨が砕けては治り、細胞は破壊と再生を繰り返し、皮膚が裂けて血が噴き出ると、徐々に蹲るアルベルトの体が大きくなっていき、髪が伸びていく。背を丸めた血塗れの体から暫くして虹色の光が消えると変化は止まり、アルベルトがユラリと体を揺らして立ち上がった
身長は170cm以上まで伸び、顔立ちは大人びて先程までの少年は青年へと変わっていた
俺は銜えていた猿轡を外すと、口に溜まった血を吐き捨て荷物に立て掛けてあったダインスレイフ=グリムを手に取り、抜刀すると吐血と裂傷によって出来た血溜まりに突き立てる
「ゲホッ、グリム、血を吸え」
俺の言葉が終わると同時に血溜まりは刀身から波紋が生まれると小さくなっていき、刀身は血を吸っている事を証明する様に赤く染まっていく。やがて血溜まりが消えてグリムを引き抜いて剣を払うと、赤かった刀身は元の美しい銀に戻っていた
「《洗浄》」
納刀して魔法で現れた水の水流で体の血や汚れを落とし、温風で体を乾かすと荷物の入った袋から、黒いポケットの多いズボンと長袖のシャツ、軍服に似た外套を取り出すと、すっかり小さくなったローブを脱ぎ捨ててそれに着替えた
着終えてアレックスの方を向くと、驚いた表情を浮かべて固まっている
「終わりましたけど大丈夫ですか?」
「な、何者だ…?一体?」
「しがない冒険者ですよ。それで足は治しますか?」
「…本当に治るのか?」
「えぇ、かなり激痛が伴いますがね。それに足だけなのであそこまで酷い事にならないと思いますし」
「分かった。頼む…!」
混乱するアレックスに構わず問い掛けると、アレックスは恐る恐るといった様子で尋ねる。それに答えるとアレックスは縋る様な声で頭を下げた。俺は近くのベンチにアレックスを誘導すると指示を出した
「では座ってください。その怪我は何時しましたか?」
「確か10年以上前だ」
「分かりました。では安全の為にこれを銜えてください。舌を噛むと困るので」
アレックスが猿轡を銜えた事を確認すると、先程の注射器―濃縮した特殊栄養剤を時間が経って尚、骨まで達する程の古傷のある右足に注入すると、魔力を流して詠唱する
「【かつての時へと回帰せよ。その傷を過去へと戻り、現在の未来を否定せよ。代償はかつての想起と幾何の記録。今、事象の記録は書き替わる】《傷害の改変》」
魔力が淡く虹色に発光すると、古傷が段々と赤らんでいき、乾いていた傷口に水気が帯びてくる。プクッと血の玉が皮膚に浮かんだかと思うと、その量がドンドン増えていき、グチャグチャになった傷口から溢れ出す
アレックスが目を閉じて傷が開いた痛みで唸りながら猿轡を噛み締める中、遡る時間が経過し過ぎない様に魔力量を調整する作業に集中する。額に汗が浮かばせて魔力を流し込む内にグチャグチャだった傷口は段々小さくなっていき、やがて完全に傷が無くなった事を確認して魔力を流すのを止めた
「終わりましたよ」
俺の言葉でアレックスは目を開けると、血塗れの右足を見下ろす。銜えていた猿轡を外し、恐る恐る右手で傷があった場所に触れると、信じられないといった表情で俺を見た
「傷が無い…!まさか、本当に…!?」
「治ったばかりですので幻痛や引き攣りが起こる可能性と違和感を失くす必要がありますので数日間は今まで使っていた杖を使ってリハビリをしてください。後、筋力等も低下していると思うのでリハビリ後にトレーニングをしてください
最後に私に関する詮索は禁止、此処での出来事は他言無用です。良いですね?」
「分かった。感謝する」
アレックスはそう言って頭を下げる。その言葉には深い感謝が感じられ、少し鼻声で湿っぽかった事を俺は気付かない事にした




