1.転生
台風一過で晴れて暑いです
掃除が大変でしたよ
それと【教団殺し】の方も宜しくお願いします
意識が浮上して最初に感じたのは柔らかな枕とベットの触感だった。眼を開けると簡素な照明の付いた白い天井が眼に入り、顔を横に向けると窓からはどこからともなく鳥の囀りが聞こえ、太陽の眩しい光が差し込み、天井と同じく白を基調にした壁の他に、僅かに本が入った本棚や質の良い木製の机や椅子が見えた
何時もの様に右手を使って上半身を起き上がらせると仕立ての良いシーツが胸から落ちる。僅かな頭痛に顔を顰め、右手で頭を押さえていると違和感に気付いた
「左腕がある?」
昔、無くした筈の左腕がある事と思わず出した自分とは思えない高い声に一瞬、驚くもそういえば転生したんだったなと思い出し納得する。よくよく見れば転生前に比べて体が白く小さい。腕も余り鍛えてないのか細く胼胝や傷が見られなかった。声からして変声期前の7、8歳位だろうか?
俺はこのままベットの上に居てもしょうがないと思いベットから下りて、そのまま部屋から出ようと装飾が施された扉の前まで行くとノブに触れる前に扉が開く。扉を開けたのは水とタオルが入った桶を左手に持つ赤みがかった黄色い長髪の14歳位の裾の長いメイド服を着た少女で、頭の上と腰の辺りにはそれぞれ動く狐の耳と尻尾があった。整った顔は可愛いというより綺麗という表現が似合う子だ
「アルベルト様!?もう起きて大丈夫なんですか!?」
「あぁ、大丈夫だよ」
少女は俺を見ると慌てた様子で水とタオルが入った桶を置き、頭に手を当てる。熱がない事が分かると少女は眼に涙を浮かべて安堵の息は吐いた
「は~、良かったです。高熱で倒れられた時はどうしようかと思いましたよ。それで如何なされましたか?」
「心配かけてごめんね。熱の影響かちょっと起きてから記憶が曖昧でね。思い出す為に家を散策しようと思ってね」
「そうですか。ではお着換え致しましょう」
「あぁ、そうだね」
「今、お持ち致します」
「うん。ありがとう。レイラ」
今、俺が着ているのは簡単な作りの肌触りの良い長袖の白いシャツとズボンで、簡単に言うと寝間着だった
因みに俺が彼女の名を知っていたのには訳がある。それは『記憶が曖昧』という発言にも関係していた。正確には『記憶が混濁している』と言うのが正しいのだが要は前世の記憶とは別にこの体の今までの記憶が混じっているのだ。先程の頭痛は恐らくこの体に俺の記憶が流れ込んで負荷が掛かったからだろう。なのでこの世界、というより今いる屋敷とその周囲の事とある程度の知識が今、俺の中にあり、それを整理しているのだ
先ず、この世界には魔法が存在する。よくある《火球》や《風刃》といった属性を持つ物らしい。この体の記憶からすると詠唱はあるがどうもイメージ固定の為の様に思えるから別に要らないのではと思う
次に今いる場所について説明しよう。俺が今いるのはレイガード辺境伯爵領という場所で直ぐ近くに魔物と呼ばれる生物が多く生息する【ギルム・ヘルムの大森林】と呼ばれる大陸の1/4を覆う樹海があるらしい。そこから出る魔物の防波堤として存在するのが家らしい。俺の父親のガリウス・レイガードは魔法や剣の腕が王都にまで轟く武人らしい。その為、農民であっても皆、ある程度は戦えるらしく、年に一度闘技大会が開かれているようだ。将来参加してみるのもいいかもしれない
そんな事を考えて待っているとレイラが服を持ってきた。やや派手に感じる服だが動きは余り阻害しない造りになった薄手の長袖長ズボンだった
着換え終えて中央にレッドカーペットが敷かれた廊下を歩いていると一つの部屋の前に立っていた。俺が扉をノックすると中から『どうぞ~』という女性の声が聞こえた
ノブを捻って中に入ると赤いクッションの付いた木製の椅子に座った長い金髪がウェーブにした優し気な垂れ眼をした碧眼の装飾が少ない水色のドレスを着た20代位に見える女性がいた。女性は俺を見ると眼を見開いて立ち上がり、小走りで目の前までくると膝をついて目線を合わせると手を俺の額に当てて、早口に俺の体調を尋ねる
「アルベルト!もう大丈夫なの!?痛い所とかない!?」
「落ち着いて下さい、お母さま。僕は大丈夫です。何ともありません」
「そう、良かった」
そう言うと母―レイガード家第二夫人のエミリー・レイガードは眼に涙を浮かべて俺を抱きしめる。数秒間そうしているとゆっくりと離れて眼を合わせて言う
「もし、何かあったら我慢せずに言いなさいね」
「分かりました。それでは」
お辞儀をして退室すると風景画や甲冑が置かれた廊下を進み、玄関から外に出る。目の前には装飾が施された両開きの鉄門があり、その先には街への道が伸びる。後ろに振り返ると中世によくある様な造りの白を基調とした二階建ての屋敷があり、その向こうに森と領土を隔てる石と木材を組み合わせて作った16m程の壁が立っていた
暫くボーっと見ていると屋敷の左側から金属同士を打ち合う音が聞こえてきた。その音に誘われる様に向かうと草の刈られた開けた場所に出た。そこで互いに革鎧を着た銀髪碧眼で長身の30代位の体格が良い男性と長い金髪を後ろで結んだ長身の10代位の碧眼の少年が長剣を持って打ち合っていた
暫く黙って見ていると男性の方が俺に気付いた様で少年が振り下ろした剣を大きく弾くと俺の方に歩いてきた
「アルベルト!体は大丈夫か?」
「えぇ、ご心配をおかけしました」
「アル、体調はどうだい?」
「すっかり良くなりました。エイブラハムお兄様」
「そうか。良かった」
男性―俺の父親であるレイガード家頭首であるガリウス・レイガード辺境伯爵の後からやってきた少年―実の兄であるエイブラハム・レイガードが心配そうに俺に体調を聞いたので心配ないと笑顔で答えると兄は安心した様な声を出した
「所で僕もお兄様と一緒に訓練に参加していいですか?」
「何を言っているんだ。お前は病み上がりだろう?無理はするな」
「そうだよ。今はゆっくり休んでなさい」
二人は心配そうな顔で俺を止めるが俺はこの体に早く慣れたかったので折衷案を出してみる。元々のこの体にあった精神は余り戦闘が得意でなかったらしく一人で剣を振っている光景が浮かぶ
「それではエイブラハムお兄様と軽く模擬戦をして問題無さそうだったらやってもいいですか?」
「は~、お前の我が儘も珍しい。少しだけだぞ。エイブラハムもいいか?」
「はい。アルも無理はするなよ?」
仕方なさそうな二人の言葉に俺は頷き、使用する武器を注文する
「分かりました。武器はダガー等のナイフでお願いします」
「ナイフだと?良いぞ。確か訓練倉庫に刃が潰された奴があった筈だ」
「分かりました。行ってきます」
用語解説
【神話・怪異対策課(通称:神怪課)】
2020年に突如、南太平洋沖を中心とした巨大地震後に多発したUMAや怪事件に対応する為に秘密裡に設立された事になっている組織
警察庁本部の地下に拠点があり、1~5班と特殊な0班で構成されている
【魔人】や人外が多い
米国の【対邪神組織・フェンリル】や英国の【魔術結社・オーディーンの眼】と魔術三国同盟を結んでいる
『人為らざる裏切り者は機械仕掛けの狼と受け継がれた叡智と手を組み、侵食する狂気である【真実】に抗う
例え其れが只の先延ばしに過ぎない行為だとしても』




