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26.黒猫のいる朝、不穏の気配

シュレディンガーの本当の姿が出ますよ

 朝起きた俺は手短に着替えると、シュレディンガーのいる部屋に向かった。ノックをせずに扉を開けると室内の何処にもかつての世界で見知った隻腕の男の姿はなく、代わりにベットの上に体長60cm程の二本の尾を持つ黒猫が座って欠伸をしながら紅い眼でこちらを見ていた


 「戻っていたのか」

 「あぁ、体は時間凍結させて《倉庫》に突っ込んだぞ」

 「そうか、これから飯だから行くぞ」

 「あいよ」


 俺は本来の姿(・・・・)のシュレディンガーにそう声を掛けると、シュレディンガーはベットから飛び降りると器用に俺の体をよじ登り、頭に乗るとグデェ~っと力を抜く。俺は何時もの事だと諦めてそのまま家族のいるリビングへと向かった


 「おはようございます」

 「あぁ、おはよう。アルベルト」

 『お前、今そんな名前なのか。後、敬語とか似合わねぇ~な』

 『うるせぇぞ。大きなお世話だ』


 俺は思念で脳内に聞こえる声で茶化してきたシュレディンガーに同じく思念で返すと席に着く。その間、ずっと頭上に乗るシュレディンガーに視線が集中していた


 「ねぇ、アル君。その子はどうしたの?」

 「昨日、忍び込んできた野良猫ですよ。取り敢えず、シュレディンガーって名前にしました」


 レイチェルの問いにそう答えると頭の上に乗るシュレディンガーが前足でペシペシと叩いてきた。正直鬱陶しい


 『止めろ』

 『野良猫って何やねん』

 『一番、違和感も詮索もされないだろ。黙って従え』

 『しゃーねぇなー。飯、寄越せ』

 『分かってるよ』

 「レイラ、済まないけどこいつの食べる物を持ってきてくれるかい?余り物で構わないから」

 「畏まりました」


 俺が振り返ってレイラにそう言うとシュレディンガーが首を伸ばして上下逆さまに俺の顔を覗き込む。踏み止まる為に爪を出している為、頭皮に軽く刺さって痛い


 『何だ。お前貴族なのか』

 『そうだよ。悪いか?』

 『いや?だが似合わねぇな』

 『喧しい。後、元の場所に戻るか降りろ。爪が刺さって痛い』

 『分かったよ』


 シュレディンガーは肩に移るとそのまま床に飛び降りる。そして欠伸一つするとやや低い声でニャ~オと一声鳴いた。丁度やって来たレイラが湯煎した肉等が入った皿をシュレディンガーの前に置き、シュレディンガーが食べ始めたのを確認してから俺は何時もより遅い朝食を始めた


 少しすると食事を終えたレイチェルがやってきて、食後の毛繕いをしているシュレディンガーを抱き抱えると頭を撫で始めた。シュレディンガーもそれを嫌がる素振りも見せずに眼を細めて撫でられているを見ながら、食事を終えた俺は部屋に戻った


 俺が部屋で革鎧を着て装備の点検をしていると、半開きだった扉からシュレディンガーが入ってきた。その表情はやや疲れている様に見える。シュレディンガーは後ろ足で器用に扉を閉めると俺の前で丸くなった


 「解放されたのか」

 「あぁ、色々撫でまわされたよ。で?何処行くんだ?」

 「仕事だよ。どうせついて来るだろ?」

 「あぁ、後、サービス代に旨い物くれ。さっきの奴は味気無くてな」

 「分かったよ。行くぞ」


 俺がそう言うとシュレディンガーは立ち上がって後ろに回ると背中を足場にして俺の肩に乗った。立ち上がって再び装備を確認すると俺は家を出た。街は相変わらず活気があり、所々に屋台が散見する。俺は適当に串焼きの屋台の前に向かった


 「おっちゃん、串焼き六本いいか?」

 「あいよ!60リネだよ」

 「大銅貨六枚丁度だ」

 「毎度あり、焼き立てだから気を付けな」

 「ありがとよ」


 俺は代金を払って串焼きを受け取るとシュレディンガーに向けて五本の串焼きを差し出し、残りの一本銜えながらギルドに向かって歩きだす。シュレディンガーが肩の上でバキボリと串ごと肉を咀嚼する音は何時もの事だと聞き流す。雑食だし多分、消化には問題はないだろうし


 因みにこの世界の貨幣通貨はリネという物で、以下の通りとなっている

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 銅貨=1リネ

 大銅貨=10リネ

 銀貨=100リネ

 大銀貨=1000リネ

 金貨=1万リネ

 大金貨=10万リネ

 白金貨=100万リネ

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 尚、一般的に市場に出回るのは大銀貨までで、金貨以上は貴族や大手の商人辺りが扱っている。特に白金貨は余りの価値の大きさに基本的に国庫やほんの一握りの商人の下にしか存在しない程希少な硬貨である


 食べ終わって串で歯の間を掻いているうちに冒険者ギルドに到着した。中は相変わらず賑やかで、朝から併設された酒場で酒を飲んでいる男やクエストボードを見て依頼を探す新人らしき若い男女の集団等が見える


 『何やらかした?』

 『さぁね?』

 「ちょっと、良いかい?」


 中に入って向けられる視線に対するシュレディンガーの問いを適当にはぐらかしてクエストボードに向かって歩いていると、アマルが後ろから声を掛けてきた


 「何だ?」

 「仕事を依頼したくてね」

 「分かった」


 俺はそう言うと周りの興味深そうな視線を無視して、先を歩くアマルについていった

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ―とある村の外れ


 くたびれた服を着た男は森の中を必死に走っていた。やがて疲労で足が動かなくなった男は大木に寄り掛かると、そのまま座り込んで乱れた息を吐き出す


 「はぁ、はぁ、はぁ…!!」

 「やっと見つけましたよ」


 穏やかな、しかし恐ろしい静かな若い男の声に男は悲鳴を上げて、慌てて立ち上がろうとして転び、向き直ると倒れたまま手と足で後退りながら問う


 「ヒィ!!な、何故こんな事を!!」

 「何故?そんな事決まっているじゃないですか。だって―」


 赤い、いや、返り血で赤く染ま(・・・・・・・・)った元々白かった(・・・・・・・・)金糸の刺繍の装飾が施された法衣とフードの付いた外套を来た若い男は柔らかな笑みを浮かべてそう言うと、鮮血が滴る長剣を振り上げて男を斬りつけた


 「―血を流さないと貴方を救済出来ないじゃないですか」


 今の一撃で絶命した男を見下ろしてそう言うと、若い男は剣に付いた血を布で拭って腰の鞘に仕舞うと顔を上げて呟く


 「さて、次の場所に向かって早く救済しなくては」


 男はそう言うと、森の中を歩き出した

やっと一章の折り返しを過ぎた気がする…(´・ω・`)

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