22.赤竜迎撃
ドラゴンです
屋根の上を飛ぶように駆ける俺は直ぐに空を飛んでこちらに向かって来るレッドドラゴンを見つけた。砦になっている壁には既に人がおり、魔法を使える者が攻撃をしていたが、レッドドラゴンは煩わしそうにするだけで効いている様には見えなかった。更に、レッドドラゴンの炎のブレスで火事にもなっている様だ
俺は駆けながら《倉庫》の魔術を使って空間に穴を開けて手を入れ、全長1.8mある銃身の上下に細長い刃の様な物が付いた巨大な回転弾倉式の銃―【オティヌスAASⅢ】を取り出した
俺は肩に銃底を乗せ、構えて高く跳ぶとスコープを覗き込み、レッドドラゴンを見据える。レッドドラゴンの頭部の中心がこちらに向いた瞬間、引き金を引いた
【オティヌスAASⅢ】―中折れ式6連装回転弾倉大型対空電磁狙撃砲であり、元の世界で所属していた組織、【神話・怪異対策課】通称【神怪課】で開発された狙撃火器【オティヌス】シリーズの対空狙撃に特化した第三世代の狙撃砲だ
魔力を電気に変換する魔電機構により高速かつ、高威力の砲撃を放ち、砲撃の反動を利用した回転機構によりリボルバーでありながら自動給弾を行う事が出来る
銃身がバチバチと音が鳴って帯電し、専用の30mm徹甲弾が空を貫きレッドドラゴンに迫る。レッドドラゴンも何かを感じたのかこちらを向いた瞬間、硬い物同士がぶつかり合う大きな音と共に額の甲殻を割られたレッドドラゴンが後ろに吹き飛ぶ
俺はベルトを肩に掛けて背負うと空間に穴をあけて、一気に壁の上に転移してそのまま飛び降りた。膝を曲げる事で着地の衝撃を受け流すと兵士達に攻撃を受けながら起き上がるレッドドラゴンに向かって壁から飛び降りる
レッドドラゴンは起き上がると煩わしそうに見回し、周囲を威圧する様に一度咆哮を放つと口を少し開けて大きく息を吸い込む。そして、頭が上に向いた時、顔を横に向け、薙ぎ払う様にブレスを吐こうとした
「させんよ?」
俺は強く地面を強く蹴るとレッドドラゴンの顔の横に肉薄すると、魔力を腕に纏わせて頬の辺りに掌底を叩きこむ。レッドドラゴンは苦痛じみた鳴き声を上げて水平に5m程飛んでいった。何人かが吹き飛ぶレッドドラゴンに巻き込まれていたがまぁ、大丈夫だろう
「グガァアアアアアアアアアアアア!?」
飛び石の様に地面に体をバウンドさせたレッドドラゴンは体を土にまみれながらも立ち上がる。ダメージが大きいのかよろよろと体を揺らすレッドドラゴンが先程までいた場所を向くと、先程自分を殴り飛ばした小さな人間が地面に片膝を付いて、両手で何かバチバチと音が鳴る細長い物を向け、眼前には高速で何かが迫っていた
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レッドドラゴンを魔力を込めた掌底―《仙術》地之型【透震掌】を打ち込み、吹き飛ばすとベルトを回して【オティヌスAASⅢ】を左手でレバーを引いて弾倉を回転させて次弾を装填し、左手を銃身の下に添える
持ち手を握った右手の指を引き金に掛けると、着地と同時に地面に片膝を付き、銃底を肩に乗せてレッドドラゴンに追撃の砲撃を放つ
バチバチという帯電音と一拍遅れてドガーンという砲声を響かせ、漏れ出た砲火と共に放たれた砲弾がレッドドラゴンへと一直線に飛来する。正確に着弾すれば高高度の装甲ヘリを一撃で容易く穿つ砲弾は、立ち上がりこちらを向いたレッドドラゴンの頭部に着弾し、頭を大きく仰け反らせて後ろに転倒させる
地面を転がったレッドドラゴンがよろよろと立ち上がると怒りに満ちた眼で俺を見たので、俺は立ち上がって【オティヌスAASⅢ】を背負い直すと右手を握って前に出した
掌を下に向けて開くと、白銀に輝く鎖の付いた装飾の無い直径10cm程の蓋の開いた懐中時計が現れる
文字盤に書かれた文字が地球上のどれにも当てはまらず、針が四本あるそれの頂点の輪と繋がる鎖が腰の辺りまで伸び切った瞬間、一切の音と動きが消失する。そして俺はレッドドラゴンに語り掛けた
『おい、お前』
「!?」
一切の動きが無い中で唯一動いているレッドドラゴンの困惑に満ちていた眼が驚愕に見開かれる。それはこの全てが静止した世界で動いているからではなく、明らかに人間の子供である男が竜の言葉を扱って語り掛けてきたからだった。この状況を作り出したであろう人間の子供はレッドドラゴンの驚愕に構わず言葉を続ける
『もし、敵意が無いならば引き返すか横に飛んで行ってもらえるだろうか。私はお前を殺す気はないのでな』
目の前の子供の不遜な態度に僅かに敵意を向けた瞬間、止まった空間が軋み、心胆が凍てつく程の絶対的な威圧が放たれレッドドラゴンは自身の死を幻視した
それは自然界に存在する過酷な生存競争で培われたレッドドラゴンの生存本能が見せた幻覚であり、目の前の小さな存在に敵対した時の確定した未来の光景だった
レッドドラゴンは思わず眼を下に向けて首がまだ繋がっている事を確認する
目線を戻すと相変わらず無表情でこちらを見る人間の子供がいた。勝ち目が無い事を悟ったレッドドラゴンの眼に怯えが混じる。この時点でレッドドラゴンは心が折れて、目の前の子供に敗北した
眼を見てレッドドラゴンに抵抗の意思がなくなった事を確認した俺は威圧を解いて白銀の懐中時計―魔導具【操刻の銀時計】を鎖を引いて回収する。蓋を閉じて手を握ると、一気に音と動きが戻ってきた
それと同時に何人かの兵士が気絶して倒れ、近くの仲間が冷や汗を掻きながら様子を見ていた。恐らく時間が停止している間に俺が放った威圧が一気に来たのだろう。悪い事をしたかもしれない
レッドドラゴンはその間に踵を返すと翼を広げてそのまま飛んでいった。俺はそれを見送ると閉じられた関所の扉が開かれるのを近くの木に背を預けて座って待つ。すると他の兵士よりもやや質の高そうな装備を身に着けた中年の男が俺に近づいてきた
「おい、お前」
「俺の事か?」
「他にいるか!!背中のそれは何だ?」
「黙秘する。これについて教える気はない」
「何だと?ガキが調子に乗りよって!!お前は黙って俺にそれと情報を寄越せば―っ!!」
俺が【オティヌスAASⅢ】を構えた事で男の言葉が止まる。俺は銃口を男の顔に向け、引き金に指を掛けた状態で男に尋ねる
「済まないが聞いていなかった。もう一度言ってもらえるか?」
「クッ!こんな事をして只で済むと思うなよ!俺を―」
「もう良い。飽きた」
正直面倒臭くなったので【オティヌスAASⅢ】の刀状の電極を男の脇腹に突き刺すと魔力を流して電気を打ち込んだ。男はビクンと体を仰け反らせて跳ねるとそのまま後ろに倒れた。俺は【オティヌスAASⅢ】を背負うと気配を消して、丁度開かれた関所を人知れず通って街の中へと帰って行った
解説
【操刻の銀時計】
魔導具
材質不明の白銀に輝く鎖の付いた直径10cm程の蓋の付いた懐中時計。文字盤は地球上のいずれの文字にも当てはまらず、針が四本ある
加速、停止、逆行が可能。跳躍は出来ない。可能な範囲は使用者の力量と適正で決まる




