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20.模擬戦

対人戦闘回です

 翌日の昼頃、俺はローマのコロッセオに似た闘技場の控室で来る途中で買った串焼きを食べながら装備を確かめていた。始まる五の鐘まで後、1時間程だ


 因みにこの世界は『~の鐘』という表現で時間を見る。午前6時頃に鳴る一の鐘から2時間ごとに二の鐘、三の鐘となっていく。日が落ちてからは鳴らないが、時間の単位として統一されている


 今回使う武器は一応、非殺傷の訓練用武器となっているので控室の隅に置かれた木箱の中から手頃なナイフを2、3本取り出し、軽く振ると腰のベルトに差し込む。防具は家から持ってきた革鎧を使っている


 「アルベルト様、時間です」

 「分かりました」


 暫く腕立て伏せや屈伸をして体をほぐしていると、ノックの後に係員が入ってきた。先導する係員について行き、緩やかなカーブを描く石造りの廊下を歩いていると、係員が鉄扉の前で立ち止まった


 「この先が会場です」

 「案内、ありがとうございました」


 俺はそう言って扉を押し開けて中に入ると、そこは天井の無い半径150m程の円形で黄土色の砂地の場所で、周りを取り囲む様に満員の雛壇状の観客席が並んでいた。客席には屋根があり、日光を遮っており、そこを歩く物売りの姿も見える


 中央には真横に焦げ茶色の線が引かれ、あちらとこちらを区切っている。そして向こう側には300人程の甲冑姿の男達が立っていた。誰も兜はつけておらず、小馬鹿にしたような笑みを浮かべている。それにイラついていると、大音量のアナウンスが流れ出した。声の主は如何やらコルエル伯爵の様だ


 「皆様!よくぞお越しくださいました!これより我が騎士団300人対魔物の氾濫(スタンピード)を単身で特攻して迎え撃ったと自称し、この程度勝てると啖呵を切った10歳のアルベルト・レイガード様の模擬戦を開始したします!この模擬戦もアルベルト様のどうしてもという我儘によるものです。私は止めたんですけどねぇ?」


 俺の紹介の部分で騎士団が大笑いし、観客の笑い声が聞こえて来る。客席を見回していると、アーサー王の横で顔を赤くしてブチ切れた女性陣を必死に押さえるガリウス達が見えた。その横で、アーサー王は顔を顰め、セレスティアは真っ直ぐ俺を見ている


 俺はセレスティアに軽く頷くと、前を向いた


 「それでは両者、準備はよろしいでしょうか?それでは始め!」


 ―ドゴーーン!!


 「……はっ?」


 それは一瞬の出来事だった。開始の合図と共に観客達の目の前から砂煙を上げてアルベルトの姿が消えたと思ったと同時に、アルベルトの正面に立っていた隊長と思われる男が仲間を巻き込んで闘技場の壁にめり込んでいた


 気絶している男達の鎧は粉々に砕け散り、壁には蜘蛛の巣状の亀裂が幾重にも入り、陥没している。全員が視線を戻すと、男がいた場所で悠然と立って足を下すアルベルトの姿があった


 「ふむ…」


 アルベルトが短くそう言うと、一瞬で近くに立って茫然と見ている男の前に移動し、跳躍して顔面を掴むとそのまま地面に向かって後頭部から叩き付ける


 男が動かなくなった後、近くの男の右肩に飛び掛かり、腕と首を掴むと肩に膝蹴りを打ち込み、鎧を砕いて脱臼させて戦力を奪った後、肘鉄で首を打ち気絶させ、そのまま跳んで隣の男の首に腕を回し、締め落とした


 これにより、騎士団の硬直が解けたが、一方的な蹂躙を止める事は出来ず、僅か8分で闘技場内で立つ者はアルベルトだけになった。周囲に砕けた鎧や剣の破片や騎士達が転がる中、アルベルトは最後の騎士を投げ捨てる様に首から手を放すと土煙を上げて転がって行った。会場は誰も声を発する事が出来ず、沈黙が場を包んでいた

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ふむ、存外大した事が無かった。用意したナイフも使う必要も無かったし、油断していたとは言え、些か弛んでいるのではないだろうか?コルエル伯爵に聞いてみようか


 それは兎も角、素の身体能力だけで(・・・・・・・・)ここまで出来る様になるとは大分と体も作り変えられた様だ。筋肉痛になるまで体を壊すものである。それはそうとそろそろ幕引きとしよう


 「コルエル伯爵、終わりましたよ。貴殿の騎士団は些か弛んでいる様に感じますが如何でしょうか?」

 「あ、え?あ?」

 「あぁ!ご心配なく。ちゃんと皆さん生きていますよ。只、数日間動けないと思いますけどね?」


 俺はそれだけ言うと控室に帰った。控室に戻って帰り支度―とは言っても革鎧を脱いで使った物を返すだけだが―をしているとアーサー王とセレスティアがやって来た


 「おや?何か用ですか?」

 「よくやったとやり過ぎだと言いに来たよ。後、この機会に君が子爵になった事を発表した」

 「そうですか。これでも手加減したんですよ?素の身体能力だけなので」

 「全く、君は化け物だよね」

 「お父様!その言い方はあんまりです!」

 「構わないさ。事実だし、そうならなければいけない理由がある」

 「それは君の前世に関わる事かな?」


 俺はその言葉を聞いて体をピクリと揺らす。眼からは友好的な色は消え、警戒する様な物に変わる


 「何処でそれを?」

 「君の父親に聞いたよ。詳しい話はしなかったけどね」

 「あのクソ親父が…(ボソッ)、…まぁ、そういう事ですよ。これ以上の詮索は無しでお願いしますよ」

 「分かった。にしても君と敵対する事を考えると恐ろしい事だよ。個人で騎士団三師団を素の身体能力で蹂躙できる上にまだ底が見えないのだから」

 「私はまだまだですよ。上には上がいますから」


 俺の言葉にアーサー王は驚いたような表情を浮かべて尋ねる


 「そうなのか?」

 「この程度じゃあ【教官】や【支部長】に殺されますよ」

 「それは何とも恐ろしい事だ」

 「では私は帰りますよ」

 「あぁ、ゆっくり休んでくれ」

 「失礼します」

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